番外編「新年早々」

「っと。ふう……無事に年が明けたな」

 僕はテレビを見ながらノートパソコンに向かい、メールやSNSに新年の挨拶を書いていた。


 去年はいろいろあったな。年始めから皆と異世界に行ったし、じいちゃんと再会できたし、たくさんの人達にも出会えた。

 

 その後、今度はタケルや他の皆と一緒に旅をした。


 そして最後は……本当によかった。



 そう思っていると、ドアをノックする音がして

「隆生、いいか?」

「うん。あ、入っていいよ」

 すぐに姉ちゃんが部屋に入って来た。


「準備はできてるか?」

「できてるよ。そろそろ行く?」

「ああ。向こうでミカちゃんとユカちゃんが待っているだろうしな」

「じゃあ僕が転移術使うから……ブツブツ」 


 目的地はタケルの住む城の前、そこで皆と待ち合わせしていた。  

 今年はタケル達の世界で初詣、そして初日の出を見ることになったから。



「あ、兄ちゃんに姉ちゃん、明けましておめでとう」

 タケルが僕達を見つけて挨拶してきた。

「明けましておめでとう。あれ、他の皆は?」

「あっちだよ。ほら見て」

 タケルが指さした方を見ると

「え、おお!」


「明けましておめでとうございます、隆生さん、優美子さん」

 ミカとユカはお揃いの水色で花をあしらった振袖を着ていた。

「すっごく似合ってるよ、二人共」

「ありがとうございます、これってトモエ様が仕立ててくれたんですよ」

 ミカが微笑みながら言った。

「え、そうなの? トモエさんってそんな事もできるの?」

「俺も聞いたことないぞ。そうか、母さんがこれを」


 僕達が感心しているとそのトモエさんがやってきて

「ふふ、ユミコの分もあるわよ」 

「え? 俺のも母さんが?」

「そうよ。あなたに私が仕立てた振袖を着せたかったの。去年は間に合わなかったけど、今年はどうにかなったわ」

「そ、そうか。ありがとう母さん」

 姉ちゃんは涙ぐんでいた。

「さ、ユミコ。あっちで着替えましょ。隆生さん、覗くなら遠慮無くどうぞ」

 トモエさんがとんでもない事ほざいた。

「そんな事しません!」

 何言ってんだこの人は!?

「あらそう? まあいいわ」

 トモエさんはころころ笑いながら姉ちゃんを連れ、城へ入っていった。


「ばあちゃんも何言ってんだか。兄ちゃんにそんな事が出来るならとっくに俺に従兄弟ができてるよ」

 タケル、お前も何言ってんだ?


「あ、明けましておめでと~、お兄ちゃん」

「明けましておめでとうございます、隆生さん」

「隆生さん、明けましておめでとう」

 ミルちゃんにシューヤ、チャスタも来ていた。

 あ、ミルちゃんは黄色でやはり花をあしらった振袖着てるよ。


「明けましておめでとう。皆、今年もよろしくね」

「うん! お兄ちゃん、あの~」

 ミルちゃんが何かソワソワしてる。ふふ、わかってるよ。

「はい、お年玉」

 僕はポチ袋を渡した。

「わーい! ありがとー!」

 ミルちゃんはすっごく嬉しそうにしていた。

「はは。あ、皆の分もあるからね」

「え、いいんですか?」

 シューヤは遠慮がちに言うが

「いいの。僕があげたいだけだし」

「あ、はい。それじゃ……ありがとうございます」

 シューヤも控えめだけど、顔がニヤけてるし喜んでくれてるのかな。

「隆生さん、サンキュー!」

 チャスタは元気よく言ってくれた。

 そうそう、それでいいんだよ。

「隆生さんありがとうございます。ふふ、これで鉄道模型買おうかな」

 おお、模型にも手を出したんだな、ミカは。

「ありがとうございます、これであのBL本」

 ユカ。否定はせんが、程々にな。


「えと、俺も貰っていいの?」

 タケルも遠慮がちに言った。

「いいよ、何遠慮してんだよ?」

「いや俺、建前上とはいえ兄ちゃんの主君だし」

 ……そうだった。

「ま、まあ、そんなの抜きで、ね」

「わかったよ。ありがと兄ちゃん。……お、姉ちゃんが来たよ」


「え、……あ」

 姉ちゃんは薄紫の下地で紫陽花をあしらった振袖を着ていた。


「うわ、凄く綺麗」

「あ、ああ」

 少年少女達は言葉に詰まってるようだ。

 てか僕もそう……いや、違う意味で。


「なあ、皆反応が薄いが?」

「ふふ、綺麗すぎて声にならないのよ」

「そ、そうか?」

 姉ちゃんとトモエさんがそう話していた。


「あのトモエさん、それってもしかしてうちの祖父か祖母にでも聞きました?」

 僕は自分が思ってる通りか聞いてみる事にした。


「ええ。以前あなたのお祖父さん、勝隆さんにお伺いしたの」

 トモエさんは微笑みながら答えてくれた。

「やっぱりか」

「ん、隆生に母さん? この振袖がどうかしたのか?」

「あ、姉ちゃんは知らなかったんだ」

「何をだ?」

「……言っていいですか?」

 僕はトモエさんに尋ねた。

「いいわよ。隆生さんが言った方がいいかもしれないし」

「じゃあ……姉ちゃん、もし気を悪くしたら言ってね」

「ああ」

「紫陽花ってね、もう一人の優美子さん、じいちゃん達の実の娘さんに関係あるんだよ」

「え?」

 姉ちゃんは目を丸くした。

「あのね、優美子さんが生まれたのは紫陽花の花が咲く頃で、そして亡くなったのもその頃だったんだって。その後じいちゃんは紫陽花を見る度に思い出してたって後で聞いたんだ」

「そうだったのか。では」

「身代わりとかじゃなくて、優美子さんの分までって事だと思うよ。上手く言えないけどね」

「わかっている。しかし母さん、それなら先に言ってくれ」

「後で言おうと思ってたんだけどね。隆生さんが聞いてこなかったら」

「そうだったのか。おい隆生、空気読め」

「ごめんなさい」

 たしかに後で聞いてもよかった。

「まあいい。さ、初詣に行くか」



 その後は皆と一緒に神剣士タケルと聖巫女キリカが祀られている神社でお参りした。

「てか当人達は別世界で守護神やってるのに」

「まあいいではないか」


「あ、そうそう。今年からこの神社には大賢者ユイ様も祀られてるんだよ」

 タケルがそう言ってきた。

「え、何故?」

「だってユイ様はこの世界の何処にも祀られてないんだぞ。いくらシルフィード王国が異世界に転移したからってそりゃないだろ、あの方だって世界を救った初代神剣士一行の一人だろ、そう思って国王権限でね」

 

 やっぱタケルは僕が理想としている英雄だな。

 思わずウルッと来た。 


「ありがとう。わたし達のご先祖様を祀ってくれて」

 ミカとユカがタケルにお礼を言った。

「ああ。てか前に聞いたけど、二人は始祖様の子孫でもあるんだよな」

「そうよ。三千年も遡るから親戚とは違うけどね」

 ミカがそう言った。

「それもそうか。なあ、今度あっちの世界に連れてってくれよ。俺も始祖様と話したいからさあ」

「ええ、いいわよ」


 そして屋台で食べ歩いたり、他の名所を見たりした後 シューヤの転移呪文とある場所へ向かった。


 そこは

「ここがこの国で一番綺麗な朝日が見える場所だよ」

 タケルが皆に言った。

「へえ……」

 そこは透き通った湖のほとりで、遠くには頂上付近に雪が積もっている高い山が見える。てかあれ、富士山そのままだな。


「あ、そろそろだよ」

 山のすそから日が昇ってきた。

 すると山だけでなく湖も、僕達がいる辺りも金色に輝いている。


「すげ……」

「ああ、本当に」 

 皆感動しているようだった。



「ふう。なんていうか、こんな初日の出は初めてだよ」

「そうだろ? また来年も見ようね、兄ちゃん」

 僕とタケルが話していると


「明けましておめでとう、皆」

 ヒトシとランさんがそこにいた。

「あ、ヒトシにランさん。明けましておめでとうございます」

「ええ、今年もよろしくね」

「こちらこそ。あれ? セイショウさんは?」

「セイショウなら彼女と二人でどっか行ったわ……寂しいわね」

「まあまあ。僕も寂しいけど、新婚なんだしね」

 二人は寂しいと言ってる割にはニコニコしていた。

「ははは。まあ、そのうちまた賑やかになるでしょ?」

「そうだね~。じゃ、また後で城の方に行くね」

「ああ。昼過ぎから宴会するからな。遅れないようにな」

 タケルがヒトシにそう言った。




 そしてその後、城で宴会があったが



「く、くそ、今回はミルちゃんにも気をつけてたが」

 僕はズタボロになって倒れてた。

「ご、誤算だった。てかあいつ、来てたのか……酒飲ませたの誰だ」

 タケルもズタボロになっていた。

「す、すみません。うちの嫁がジュースと間違えて彼に」

 遅れてきたセイショウさんもズタボロだった。

「あの状態の彼を敵に回したらもう誰も勝てない……どうしよ」

 ヒトシまでもがズタボロになっていた。


「キャハハ。さ~て、まずどの娘と遊ぼうかな~っと」

 酔っぱらってヒトシみたくキャハハ笑っているのは、


 正月の挨拶周り、てかお年玉集めに遊びに来ていたセリスだった。


 彼は女性陣を全員洗脳し、ハーレム状態で大王椅子に座っていた。


「ぐ……セリス君、ユカだけは勘弁してくれ」

「せ、せめてミカだけは」

 突っ伏したままのシューヤとチャスタが言うが

「ヤダ(笑)」

 セリスが天使のような悪魔の笑顔で拒否すると、シューヤとチャスタの顔は絶望に包まれた。


「こ、このままじゃ、そうだ」

「な、何兄ちゃん? いい手が浮かんだの?」

「確実とは言えないが、やってみる価値はあると思う」

「な、何をする気ですか?」

「隆生、もしかして……でもそれ、成功しても状況が悪化するだけかもしれないよ?」

「うん。でも何もしないよりは」

「……わかったよ。じゃあタケル、セイショウ。隆生に力を送って」

「あ、ああ? はあっ!」

「何かわかりませんが……はっ!」

「頼んだよ、えい!」

 

 タケル、セイショウさん、ヒトシの力が僕の中に入って来る。

「よし、成功してくれよ……時空大召喚!」

 



「え~と、そうだ。このお姉ちゃんに帯回ししよ~っと」

 セリスはよりによって姉ちゃんに。


「ねえセリスく~ん、そんなおばさんよりわたしにして~」

「え? ……げ」

 そこに現れたのは金色の長い髪で可愛らしい顔立ち、修道服を着た少女。


「セ、セイラ?」

 そう、セリスの彼女であるセイラだった。

「そうよ~、あなたの奥さんのセイラよ~」

 おーい? まあ、いずれそうなるからいいか。


「ねえ~、セリスく~ん」

 セイラはニコニコ笑っているように見えるが、目が笑ってない。

 そしてすっごくドス黒いオーラが……。

「え、いやあの、ギャアアアーー!」


 その光景はとても口に出来るもんじゃなかった。



「ふ、ふう、成功してよかった」

 僕達は立ち上がってセイラの元へ歩いて行った。


「セイラちゃん、止めてくれてありがとう」

「いえいえ~。あ、わたしもう帰らないとお母さんが心配します~」

「ごめんね。今回は急に呼んじゃったしね。あ、また来てね」

「はい~」

 僕は時空大召喚でセイラとついでにセリスを送り返した。



 そして宴会もお開きになり

「ふう、新年早々酷い目にあったよ」

「隆生、どうせなら俺がセイラちゃんと話した後に帰せばよかったのに」

「今度また来てくれるみたいだから、その時ゆっくり話せば?」

「そうだな……なあ、隆生」

「何?」

「改めて、今年もよろしくな」

「うん、こちらこそ」



 終

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続・何でお前らがここ(現実)にいるんだよ!? 仁志隆生 @ryuseienbu

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