第22話「心の強さ」

 隆生は中段の構え、イザヨイは八相の構えで互いに隙を伺っている。


(さすが神剣士、隙がないな。……これなら?)

 隆生はほんの少し切っ先を下げたが、イザヨイは動かなかった。


(そんな手には乗らないよ~。しかし隆生さんって思ってた以上にできるなあ)

 イザヨイは隆生の腕が並の剣士以上だと感じた。


「(うーんだめか。じゃあもうこっちで行くか)……はああっ!」

 隆生が気合を入れると、剣の切っ先から光線が放たれた。

「うお!?」

 イザヨイは驚きながらも剣を縦に振り、それを切り裂いて消した。




「え、隆生さん、前より強くなってる?」

 ミカが驚きながら呟いた。

「そりゃそうだよ。実は旅の合間にちょっとずつ、オイラとシューヤとで特訓してたもん。しかし隆生さんってほんと物覚えいいよな」

「そうだな、隆生さんは戦闘センス抜群だよ。おれも負けてられないな」

 チャスタとシューヤがそう言って褒めたが、隆生が短期間で伸びたのは彼等の教え方がよかったのもある。


「男同士で秘密の……ハアハア」

「ユカ、そんな事はしてないからな」

 鼻血出してるユカにシューヤがティッシュを差し出しながらそう言った。




「ゼエゼエ、あれ、聞いてた以上の威力じゃねえかよ?」

 イザヨイが息を切らしながら言うと


「そうよ~。隆生さんの神力はイザヨイより遥かに上よ~」

 ミユキがイザヨイに向かってそう叫んだ。


「なんだとー!? う~、でも実戦経験や剣の腕は僕が上のはず!」

「そんな事わかってるよ。だから自分ができるあらゆる手を使わせてもらうよ。はああっ!」

 隆生が気合を入れると、彼の周りに無数の光弾が現れた。

 そしてそれはイザヨイ目掛けて飛んでいき、集中砲火を浴びせ

「ふぎゃー!?」

 イザヨイはそれを防ぎきれず倒れた。



「ちょ、隆生さんってめちゃかっこいいし強いわー! う~、誘惑しちゃおうかなー!」

 イリアが隆生を見て、胸を揺らしながら言うと

「ダメだよ。そんな事したら優美子お姉ちゃんが怒るよ」

 隣にいたセリスがイリアを見上げて言った。

「え、あ、そうなの? く~、それならミルちゃんを」

 どうやらイリアは男女どっちもありみたいだ。


「ミルちゃんもダメ~。あ、お姉ちゃんは六回目に好きになった人と幸せに暮らせるよ」

「は? 何それ?」

 イリアは意味がわからず首を傾げた。



「イザヨイ。これで終わりじゃないだろ?」

 隆生がそう言うと

「うう、ちょっと油断した」

 イザヨイはすっと立ち上がった。

「てか君まだ全然本気じゃないだろ。奥義すら出してないんだから」

「う~、本気出しても死なないよね~?」

「は? もし僕が死んだとしても気にするなよ。これは真剣勝負、そのくらいの覚悟はしてるよ」

「え?」

 イザヨイは隆生の言葉に驚いた。


「さあ、続きを」

「待って。これを」

 イザヨイは隆生に近寄り、懐から宝玉を取り出してそれを彼に渡した。

「え、終わりにするの?」

「うん、隆生さんの今の言葉、物凄い心の強さを感じたよ。だからは終わり。それでね」

「ん?」

「こっからは試練抜きで、真剣勝負をお願いします」

 イザヨイは頭を下げてそう言った。


「うん、わかった。じゃあ仕切り直しで。セイショウさん」

 隆生がセイショウに向かって言った。

「ええ、では改めて……始め!」


 セイショウの掛け声と共に隆生とイザヨイは間合いをとった。


(イザヨイの目つき、さっきまでと違うよ。これじゃ小手先の技は通用しないだろな。ならこれ以外にない)

(隆生さん、たぶん一気に勝負に来るだろうな。だから僕も)


 両者共に同じ構えをとった。


「え? あ、あの構えは!? 隆生さんはともかく、イザヨイさんもできるのか!」

 シューヤはそれを見て驚き叫んだ。

「あれって夢幻流究極奥義の構え、よね?」

 ユカが尋ねるとシューヤは

「ああ。究極奥義同士が実戦で対決するなんて、おれも見たこと無い……どうなるんだ?」


 その後二人は剣を構えたまま動かずに、いや動けずにいた。

 

 それは長い時間のように感じたが、実際には一分も経っていない。

 

 そして……両者は同時に剣を振りあげ、相手に向かっていく。


「「はああっ!」」


 剣が交わり、轟音と共に辺り一面に砂埃が舞った。



「ど、どっちが勝った?」


 やがて視界がよくなった時。


「う、う……ダメ、起き上がれな、い」

「僕も、ダメ」

 二人共仰向けに倒れたまま言った。

 

「ん、この勝負は引き分けですね。さ、二人の治療を」

 セイショウがそう言った時、優美子とミユキが隆生とイザヨイに駆け寄った。


「隆生、大丈夫か!?」

 優美子は隆生を抱き起こした。

「あ、姉ちゃん。うん、まあ致命傷にはなってないみたい」

「そうか……」

「優美子さん、今隆生さんに回復魔法かけますから、そのままにしておいてくださいね~」

 ミカがややニヤけながら言った。


「う~、隆生さんってなんちゅう強さだよ~」

「負けなかっただけいいじゃないの」

 ミユキはそう言いながらイザヨイを治療していた。



 そして

「ふう。くそ~、隆生さん、今度また戦ってよね」

「うん。あ、シューヤやチャスタとも戦ってあげてよ」

「わかってるよ。特にシューヤとは」

「え? 何故ですか?」

 シューヤがイザヨイに尋ねた。


「だって君はいずれ」

「それ言っちゃダメ」

 ミユキがイザヨイの言葉を遮った。

「あ、あの。いずれ何が?」

「ごめん。今は言えない」

 イザヨイは慌てて謝った。

「シューヤ君、いずれわかるから聞かないで。決して悪い事じゃないから」

 ミユキはウインクしながら言った。

「は、はあ。わかりました」



「さあ皆、そろそろシルフィードに戻って杖を元通りに、そして妖魔を倒して核を」

 キリカが皆にそう言った。

「僕達も着いていくよ。もしかしたら妖魔が手下を呼んでるかもしれないから、その時は露払いの手伝いをね」

 イザヨイとミユキも皆に同行することになった。



 

「隆生、ほんとに大丈夫?」

 僕は隆生に話しかけた。

「……だいじょ……ううん、やばい。今一瞬ヒトシの名前が浮かばなかった」

 え?

「ヒトシも聞いてたんだろ、僕には不思議な縁があるって。諦めちゃいけないけど、でもそれに出会うまで持つかな?」

 僕は何も言えなかった。


 くそ、確実に僕だけが消えるなら、セイントコアでなんとかできるのに。


「そういえばそういう物があるのだったな。ならば」


 ん? 今誰か何か言ったような?

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