第42話「兄妹」

「ふう、酔いが覚めて来ました。ではお話しましょうか」

 セイショウさんの口調が元に戻った。

「あれはそうですね、私が守護神になったばかりの頃でした」




 私は守護すべき世界、シュミセンを見て回っていました。

 ちょうどその頃世界は闇に覆われていて、これは後に初代神剣士一行が解決したんですけど私もいろいろ手助けしてました。

 掟ですか? 「何それ、美味しいの?」でしたよ。


「あんたのそういう所はいい意味でも悪い意味でも凄いと思うわ」

「そうよねえ、全くこの子は」

 いつの間にか最高神様とサオリさんもいた。

「あ、もう話は終わったんですか?」 

「はい。なんだかスッキリしました」

「ええ……ありがとうございます、皆さん」

 サオリさんと最高神様が礼を言ってきた。

「てか最高神様、今は着物姿で旅館の女将さん、って感じで神々しい雰囲気がないんですが……もしかして人間になってます?」

「ええ。こんな場所で神様しててもねえ」

「そうですか。しかし見た目は姉ちゃんとそんな変わらない歳に見えるが、実際は」

「フフフ。さあて、何歳かしらねえ~?」

 最高神様の顔は笑っていたが目が笑ってなかった。

 すみませんごめんなさい……。


「あの、続きを話していいですか?」

 セイショウさんが聞いてきた。

「あ、はいどうぞ」

「では」




 まあ、さっき言った通り世界は闇に覆われていましたが、人々の心から光は消えていませんでした。

 皆それぞれ一生懸命生きている……と思っていたある時、一人の幼い少女に出会いました。

「まさかその子を……うん、僕が斬ってあげますよ」

「やめろ隆生! やるなら全部聞いてからにしろ!」

 僕は剣を抜こうとしたが姉ちゃんに羽交い締めにされた。

「隆生さんが思ってるような事はしてませんよ。では続きですが」




 その少女は行き倒れで病に侵され、かなり衰弱していました。

 私はすぐに彼女を治療してどこかに預けようとしましたが、彼女が私の側から離れずに一緒に着いて行くと……何度ダメと言っても聞かなかったし、かと言って黙って去ったら追いかけてきそうだったので、やむを得ず私と出会った記憶を消そうとしたんですが、効きませんでした。

 その時は彼女が何者かわかりませんでしたので仰天しましたよ。

「え? 神様の力が効かないって、その子って人間ではなかった?」

「いえ、人間ですよ。まあ、これは後でわかります」




 私は観念して彼女を連れていきました。

 そして旅の間彼女からいろいろ聞きましたが、どうやら親とはぐれて一人彷徨っていたそうです。

 私はそれを聞いてすぐ彼女の親を探したんですが、見つかりませんでした。

 私にはこの世界の事なら何でも見えるはずなのに、という事は彼女は別の世界から来たのかと……でも本人は幼かったのでそこまでわかりませんでした。


 そしていつしか彼女は私の事を「セイ兄ちゃん」と呼ぶようになりました。

 聞くと彼女には兄がいたそうで、雰囲気が似てると言われましたよ。

 私も彼女を妹のように感じるようになり、もうこのまま兄妹として暮らすのも悪くないかと思い、その後約十年間、彼女と共に暮らしました。


「ねえ、あたしそんな話聞いた事ないわよ」

「うん、僕もだよ~」

 あ、ランさんとヒトシもいつの間にかいた。

 てかランさん、何か肌がツヤツヤしてるような、まあいいや。

「すみません。言う機会がなくて」

 セイショウさんは両親に謝った。

「いいわよ。で、その子ってその後どうなったの?」

「ええ、彼女はその後」




 年頃の娘になった彼女は闇に覆われた世界を憂い、自分がなんとかする、と私に修行をつけてくれと頼んできました。

 彼女は私が守護神だという事を知っていましたが、私になんとかしてくれとは言いませんでした。

「セイ兄ちゃんならあれ一瞬でなんとかできるんでしょ? でもしないのはこの世界に生きる者達でなんとかしなさい、って事よね」

 いや、一瞬でなんとかできるならとっくにしてますよ。

 私でもあれは……なのでどうすればいいか調べていたんですよ。

 とは言いませんでしたが、私は相手があれでは力をつけても危険だと思い、猛反対しましたが、彼女は引き下がらず……凄まじい口喧嘩の末に私が折れて修行をつける事になりました。

 そしてその時にわかったのです。彼女が持っている力が何なのか、それは……。

「それは私の力、よね」

「え、最高神様?」

 僕達は最高神様の方を見た。


「今はアマテラスでいいですわ」

「ではアマテラス様、セイショウさん。もしかしてその人って、あの」

 僕はとある人物を思い浮かべた。彼女にそんな設定はないが


「え、あの、もしかして」

「まさか、あの方?」

 ミカとユカも彼女が誰か思い当たったようだな。

「ええ。彼女の名はキリカです」

 それを聞いた僕達(ミルちゃんとセリスとルーはよくわかってないようだったが)は驚き叫んだ。




 キリカとは小説にちょろっと出てる人物である。

 彼女は最高神様の力が使える聖巫女で、約三千年前に初代神剣士タケルや他の仲間達と共に世界を覆う闇を祓った。その後彼女は初代神剣士タケルと結婚し六人の子供を産んだ。その子孫が姉ちゃんやタケル、シューヤである。


「まさか聖巫女キリカがセイショウさんの義妹だったとは」

「ええ。知っての通りキリカは初代神剣士に嫁ぎました。あの時は喜びと同時に寂しさもありました……恋心とは違いますが、私はたしかに彼女を愛していましたよ。そして彼女が亡くなった時は悲しみのあまり、一年ほど部屋に引きこもってしまいました」

 セイショウさんは当時を思い出し、手で目を覆っていた。

「でも聖巫女キリカは死後、すぐに天界に呼ばれて女神になったわよね」

 サオリさんがそんな事を言った。

 てかそれ、表に書いてない設定だが本当なんだ。

「ええ、ですから知った時は『あの時の涙返せ! てか女神になってるなら会いに来いや!』と天界に乗り込んで文句言いまくりましたよ」 

「まあそうだよなあ。じゃあ今でも兄と妹として付き合いがあると」

「はい。今は使命があって天界にいません。分身体もいますがやはり本人に会いたいですね」

「その分身体ってわたし達がそうですよね」

 ミカとユカがセイショウさんの前に出た。

「はい。キリカには六人の分身体がいて、全員が今世に転生しています。てご存知ですね」

「ええ、仲間ですから」


「あの、聞きたいのですがもしかしてキリカ様は、アマテラス様の子孫ですか?」

「ええ。そうよ」

 ユカの問いにアマテラス様が答えてくれた。

「……じゃあタケルはアマテラス様、ツクヨミ様、スサノオ様三人の子孫」

「そうなるわね。彼とその姉は私達姉弟全員の血を引いてるわ」

 あれ? アマテラス様は以前タケルは自分と直接繋がってないと嘆いてたんだよな?

「あの時はキリカの事を忘れてたの。後で彼女に泣かれたわ」

 そりゃ泣くわ……あれ?

「あの、僕もアマテラス様の子孫ですけど、キリカさんと何か関係が?」

「ええ。さっき彼女に兄がいたと話にあったでしょ」

「あ、そういう事か。そのお兄さんが僕のご先祖様なんですね」

「そうよ。そしてキリカの兄こそが一族の力に制限をかけた張本人よ」


 え!?

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