第41話「一度だけあった」
「あれ、私はいったい?」
「ふう、どうやら助かったようだな」
お、本と鍵が気がついたようだ。
「あの、早速ですが世界中の人達を元に戻してもらえませんか?」
サオリさんが二人(?)に言うと
「ああ、わかってるよ。じゃあ本、やるぞ」
「え、ここで? 皆さんが見てるのに」
「いいじゃねえか、さ、思いっきりぶち込んでヒイヒイ言わせてやるぜ」
「あ……ハアハア」
スパーン!
僕は剣の鞘で思いっきり本と鍵を叩いてやった。
「おい何しやがる!?」
鍵が怒鳴ってきやがった。
「やかましい! 少年少女がいる前で如何わしい台詞吐くな!」
「うるせえぞこのどーてい」
「……うん、もうどうでもいいや、消し炭にしてやるよ~、キャハハ」
「ごめんなさい勘弁してください……」
鍵は震え声で謝ってきた。てかあんたも怖いのか、これ。
「では改めて、いくぞ」
「ええ」
鍵が本の鍵穴に入り、ガチャっと開いた音がした途端
「あれ? 私はいったい?」
そこに吸い込まれてた埴輪達やヒミコさんが現れた。
「ふう、これで世界中の人達が元に戻ってるはずだぜ」
「本当ですか? 確かめてみますわ」
サオリさんは懐から水晶玉を取り出してそれを高く掲げた。
すると水晶玉から光が放たれ、空に世界の映像が浮かんだ。
そこに映し出された皆は元の世界に戻れた事を喜んでいた。
人間だけじゃなく動物や魔物や怪物、全ての生き物が。
「……地上の者達は皆自分勝手だと思ってましたが、この邪馬台国の民と同じようにああして手を取り合い、互いの無事を喜び、思いあえたのですね……私は人々の一面しか見ていなかった愚か者でした」
近くにいたヒミコさんが涙ぐみながら言った。
「いえ、それに自分で気づけるなら愚かじゃないと思いますよ。それにヒミコさん達はやり方はともかく、人々の事を思って行動したんでしょ。だったらこれからはまた違うやり方で世界をよくしていけばいいじゃないですか」
「そうですね。これからは……皆さん、ありがとうございます」
ヒミコさんが頭を下げ、再び上げた時……その顔は老女のものになっていた。
それは笑顔が似合うおばあさん、って感じだった。
「じゃあこれで一件落着、じゃないな。まだあるよね」
「隆生? まだあるって何が……あ、そうか」
姉ちゃんもわかったみたいだね。
「うん、今も見てるはずだから。セイショウさん、どうですか?」
ちょっと待ってください、まだ心の準備が、と言ってますが。
「そうですか。早くしないと世界を幾つか消すって言って下さい」
隆生さん、そんな恐ろしい事言わないでくれますか。
「まあ冗談ですけどね。あ、急がなくてもいいですよ」
いえ、いいみたいですね。ではサオリ様、皆さんを連れてここに来てくれますか?
「え、ええ。では」
突然視界が真っ白になったかと思うと……。
「ようこそ皆さん。まずはお疲れ様でした」
セイショウさんがそこにいた。
辺り一面真っ白で何もない場所。
「ここってあの世とこの世の境目だよね?」
「うん、そうだよ~」
「話すならここでって言うから。あ、しばらくぶり。サオリ」
ヒトシとランさんもいた。
「ラン姉様、しばらくぶりって姉様と会うのはセイショウが生まれた時以来だから、数千年ぶりくらいですわ」
数千年ってやっぱこの人達、見た目はともかく……だから姉妹で睨んでくるな!
「あれ? じゃあイオリと君ってもしかして、ランに抱かれたセイショウを覗きこんでた、あの小さな双子……そうか~」
ヒトシはしみじみと昔を思い出しているようだった。
「ええそうですわよ。あなたともあの時以来ですわね。というかあなたは兄にも気づいてなかったんですね」
「うん。気づいてたら食べなかったよ」
グサグサグサグサッ!
「全くこのダンナは」
ヒトシは無数の黒い槍でハリネズミにされた。
「あ~サオリ様、そろそろいいですか?」
セイショウさんがそう言うと
「……ええ」
「では、どうぞ」
すると目の前に神々しい光が現れ、その中から最高神アマテラス様が出てきた。
「……久しぶりね、サオリ」
「アマテラス様……」
サオリさんは既に涙目になっていた。
「まさかあなたが妖魔に憑かれる程苦しむなんて思わなかった。あなたはいずれ自分で気づくと思ったから……いえ、実の娘にそんな想いを抱かれているのが怖かった。だから会わないようにしていた……ごめんなさい」
最高神様も目に涙を浮かべていた。
「いえ、全ては私の不徳です。私はどのような罰も受けるつもりですので」
「ではサオリ、今日は二人だけでとことん話しましょう。いいですね?」
「え? あ、はい」
「では私達は席を外しましょう。皆さんはこちらに」
セイショウさんがそう言った途端、辺りの景色が変わった。
そこは畳敷きの大広間、中央に長ちゃぶ台があり鍋や刺し身などたくさんの料理が置かれていた。
「さ、皆さん。今日はここで宴会といきましょうか」
「おお! 高級日本酒もたくさんあるぞ!」
「じいちゃん、子供みたいにすかさず飛びつかない」
「何だと? よし、洗脳して」
「ごめんなさい。どうぞ心ゆくまでお楽しみください」
じいちゃん怖えよ……あ、そうだ。
「あの、ここっていったい何処なんですか?」
「ここは私の家ですよ」
「え、そうなんですか? じゃあここはシュミセン、中心世界?」
「まあ、そうであってそうでない場所です。時空の狭間に繋がってますから」
「そうなんですか。しかし全然ファンタジーぽくねえ」
「そんな事ないでしょ。日本人以外の方から見れば、和風こそファンタジーでしょ?」
……どうなんだろ?
まあ、それはいいとして僕達はゆっくり美味しい料理を楽しんだ。
じいちゃんはショウケイさんと語り合っていた。
実の親と育ての親、いろいろ話すことはあるだろうが、一升瓶をどんどん空にしてってるのが……じいちゃんはともかくショウケイさんも酒豪のようだった。
「父さん達大丈夫か?」
「どうなんだろ、あの二人がもし暴れたらかなりヤバいかも?」
僕と姉ちゃんが話していると
「そうだな~、あの二人がタッグで来たら俺も勝てねえかな~、ヒック」
「……おい。誰だあんたは?」
姉ちゃんがその人に尋ねた。
いや、誰って。
「たわけ、余の顔を見忘れたか~、ヒック」
「えらく酔ってますね、セイショウさん」
それは出来上がったセイショウさんだった。
「ああ、パパとママが速攻で(ズキューン!)しに行きやがったから、ムカついてたくさん飲んでやったわ~」
セイショウさんはケラケラ笑っていた。
この人酔うと性格変わるんだな。
「セイショウさんって、誰かいい相手いないんですか?」
「あ~俺さ~、性欲はあるけど恋心ってのがうまく出てこないんだよ~。だから恋愛してる奴らを見ると羨ましくなるんだよね~」
「神様でもそんな事あるんですか」
「あ~、あるさ。だからサオリ姉ちゃんも悩んだり苦しんだんだよ」
「あ、そうか。でもいつかは本当に心から愛する人が現れるかも」
「そうかな~? そう思って数千年だが……いや、少し違うけど一度だけあったな、人を愛した事が」
「え、それって誰ですか!?」
「わたしも聞きたいです! どこの美少年ですか!?」
いつの間にかミカユカが側に来ていた。
「二人共守護神様に失礼だろ。おれも興味あるけど」
「オイラも聞いてみたいな~。神様のラブストーリーって何か面白そうだし」
シューヤにチャスタ、ミルちゃんにセリスやルーも側に来ていた。
じいちゃんとショウケイさんはこっちに気づかず二人で延々と飲んでいた。
あとカルマは勢い良くガンガン飲んで、さっさと酔いつぶれて幸せそうな笑顔で寝ていた。
「聞きたいなら聞かせて……あげますよ」
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