第37話「無意識のうちに」
そして夜も更けたが、まだルーは見つからなかった。
「ふああ……」
ミルちゃんは眠そうにあくびしていた。子供はもう寝る時間だもんな。
「ねえ、じいちゃんはミルちゃんとどっかで休んでてよ。後は僕達でやるからさ。もう若くないんだしきついでしょ」
「ああすまん。サオリ様、どうせ転生させるなら若くしてくださればよかったのに」
じいちゃんがサオリさんの方を向いて言う。
「ごめんなさいね。勝隆さんがいつか元の世界に帰った時、それじゃパニックになると思ったの」
「いや、死んだ者が生き返ってきただけでもパニックになりますよ」
そしてじいちゃんとミルちゃんがベンチの方に向かおうとした時
「キャアアアー! ま、また引っ張ってきたー!」
悲鳴が聞こえたかと思うと、ミカが鹿にまたスカートを引っ張られてた。
どうやらさっきのエロ鹿らしいなってあれ、待てよ……あいつも角がない。
まさか……。
「さっきは気づかなかったが、そのまさかのようだな」
じいちゃんがそう言った。やはりあれがルー?
でもあの子はスケベじゃないだろ?
「いや、あの子は単に誰かとミカさんを間違えてるようだが」
「誰かって?」
「半分野生化してるせいかそこまで読み切れん。だが仲間であるチャスタ君が話しかければ、自我を取り戻すかも」
「わかった! じゃあ行ってくるよ!」
チャスタはルーとミカの側に駆けていった。
ところでミカの黒ぱんつ見えてしまったんだが、不可抗力だから殴らないでよね。
「おいルー! オイラだ、チャスタだよ! わかるか!?」
返事がない。
ただのしかばね、いや鹿、じゃなくてトナカイのようだ。
「ルー! 正気に戻れよ!」
やはり返事はなかった。
「うーん、もしかしてチャスタじゃダメなのかな?」
そう呟いてると隙をついて逃げ出してきたミカが僕に話しかけてきた。
「あ、そういえばチャスタやルー君の仲間である女の子がわたしと同じ黒髪でした。もしかしてその子とわたしを間違えてたのかも?」
「あ! それなら……サオリさん、あの子をここへ呼ぶのはまだ無理?」
「はい、まだダメです。それにあそこの守護神は次元を超えて物を送る力を持ってないから、あっちから送ってもらう事もできません」
そうなのかよ。神様でも得手不得手ってあるんだな。
「うーん、そうだミカちゃん。あの子の真似してルー君に話しかけてみてよ」
「え? でもそれで上手くいくでしょうか?」
「わかんないけどさ、やるだけやってみてよ」
「……わかりました」
そしてミカもルーに近寄って話しかけた。
「ちょっとルー! 聞こえてるなら返事しなさいよ!」
おお、見事に口調を真似してるな。
「うえっ!? そ、その喋り方で気づいたけど、ミカってラチカと声が似てる!」
チャスタが驚いてミカを見ていた。へえ、そうなんだ。
ラチカとはチャスタやルーの仲間である少女の名前。
彼女はサンタクロースの孫娘でもあり、人に幸せな夢を見させる力と彷徨える魂を昇天させる力を持っていて、特に夢を見させる力はラスボスヒトシにも通用したくらい凄い力である。
「あ……ラ、チカ」
お、ルーがちょっとだけ喋った!
「そうよ私よ! 早く起きなさい!」
「あ、あ」
するとルーの体が光り出し……。
やがてそれが収まるとそこには栗色の髪で可愛らしい顔の小学五、六年生位の少年がいた。
すっぽんぽんで。
「あ、あれ? 僕いったいどうしてたんだろ?」
「ルー! よかった~!」
チャスタが喜びながらルーに抱きついた。
「あれ、何でチャスタがここにいるの?」
「オイラ達はお前がここに迷い込んでるって聞いたから迎えに来たんだよ。てかお前こそ何でここにいるんだよ?」
「えーと、それは」
「ちょっと待って。ねえルー君、話は後にしてとりあえず服を着てよ」
そのままじゃあれだしと思って声をかけたが
「え~、このままじゃダメですか? 僕本当は服着るの嫌だし」
ルーはそう答えた。
まあトナカイだもんな、でもね。
「早く服着ないと怖い腐女子三姉妹に捕まって食べられるぞ!」
「はい着ます! 僕トナカイシチューにされたくないです!」
ルーはそう叫んだ後、チャスタが道具袋から出した服を着始めた。
ところでその食べられるのとは違うが、まあ服着てくれるならいいや。
「チッ、余計な事言ってんじゃねえぜよ」
「そうよねお姉様。おのれせっかくのショタヌードを」
「もっと見たかったのにー! 隆生お兄ちゃん酷いよー!」
テメエら……てかミルちゃんはルーより年下だろうが。
その後僕とチャスタはルーにそれまでの経緯を説明した。
「そうだったんだ。ラチカちゃんの家に行く途中で突然目の前に黒い穴が開いて、何これと思ったらそこに吸い込まれて気づいたらここにいたんだ……鹿さん達と会うまでは一人で寂しかったよ」
ルーは泣き出しそうな顔で言った。
しかし時空の歪ってそんなしょっちゅうできるもんなのか?
それと不幸中の幸いなのは辿り着いた先がこの世界だった事だな。
他の世界だったら見つけられたかどうか、っと。
「ルー君は僕達が元の世界に連れて帰るから安心して。それとさっき言った事だけど」
「はい! 僕でよければお手伝いします!」
ルーは元気よく答えてくれた。
「ありがと。じゃあ今日はもう遅いしどうしよ? ここから大阪に戻って実家で寝ようか?」
「いえ。この近くに私の別荘がありますから、よければそこで」
サオリさんがそんな事を言ってきたのでそうする事にした。
その別荘へ行く途中
「ルー君、ちょっといいか?」
姉ちゃんがルーに話しかけた。
「はい。何か?」
「いや、さっき『鹿さん達に会うまで』って言ってたが、あの鹿達はルー君が創りだしたんじゃないのか?」
あ、そういえば
「え、僕じゃないですよ? それにもし創ろうとしたってあんなにたくさん出来ませんよ」
何? じゃああの鹿って何だったんだ?
時空の狭間
「いや、あの鹿達はルー君が寂しさから無意識のうちに創りだしてたんですよ。彼は自分の力が神にも匹敵するくらいだとわかってませんね」
セイショウは映像を見ながらそう呟いていた。
「まあ、あの子なら調子に乗らない気がするけどさ~、もしもって事もあるからまだ言わなくていいんじゃない?」
ヒトシがセイショウにそう言うと
「そうよね。しかしあたしの十八番って結構出来る人多いのね」
ランも物だけでなく命をも創り出せる、創造を司る分神精霊である。
「あの、母上様みたいに世界そのものを創り出す力を持った者は、最高神様を除いて他にいませんけど……たぶん」
「もしいたらあたしグレて夜の校舎で窓ガラス壊して回るわ」
「やめてください! てか今それあっちで彼がやってるんですから!」
「オラオラー!」
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