第38話「皆どこかで繋がってる」
そして翌朝、サオリさんの別荘でゆっくり休んだ僕達は「優しき心の力を持つ者」がいる千葉へ向かう事にした。
「しかしサオリさんの別荘がお寺の地下にあるとは」
「正確に言うとあそこは地下ではなく異空間ですよ。こういうのは世界のあちこちにあるんです」
なんつーか、そう言うのを聞くとやはりこの人神様なんだなと思う。
「あの、優美子さんは昨夜どこかに行ってたんですか? 夜中起きたらベッドにいなかったし」
ミカが姉ちゃんにそんな事を聞いた。
「ああ、昨夜はサオリと寝てた」
何!?
「はい、お姉様は一晩中」
まさか百合の花を咲かせてしま
「私が色々悩んで眠れなかったので、添い寝してくれたんですよ」
え?
「サオリ、神様だからって弱音吐いちゃいかん訳ではないだろ。俺でよければいつでも愚痴を聞くぞ」
「ええ、ありがとうございます」
ごめん姉ちゃん、変な勘ぐりして。
「なあサオリ、今度は風呂場であんな事やこんな事を……グヘヘヘ」
「ええお姉様……ハアハア」
ゴン!
ゴン!
「最後の一言がなければよかったのに」
「……行きましょうか、皆さん」
サオリさんは痛そうに頭をさすりながら言った。
「ええ。あ、皆に言っとくけどさ、千葉にいるのは敵にしたらこの世で最恐クラスの人物だからね」
「あの、隆生さんはその人知ってるんですか?」
ユカが僕に尋ねてきた。
「うん。てかミカちゃんとユカちゃんも一度会った事あるでしょ。あの時に」
「え? あ、あの子ってそんなに凄い子だったんですか?」
「うん。僕が思ってるとおりなら、彼が遠い未来で妖魔達を、悪しき縁を完全に消し去ってくれるんだよ」
「そ、そんなに? それって全てを超越したタケルより、いえもしかしたら最高神様よりも?」
ユカが驚きながら言うと
「そうですね。アマテラス様ですら妖魔や悪しき縁を完全に消すのは不可能ですから……では行きましょうか」
僕達はサオリさんの転移術で千葉へと飛んだ。
そして着いた所は千葉のあのランドがある場所なんだけど……まるで怪獣でも暴れたかのような廃墟と化していた。
「これ、彼がやったのかな?」
「いったい彼に何があったんだ?」
僕と姉ちゃんが話していると
「あ~? あんたら誰?」
誰かが僕達に話しかけてきた……っておい。
そこにいたのは白い特攻服を着ていて、手に木刀を持っていて髪を金色に染めた(そうとしか思えん)十歳位の少年だった。
「あの~、君の名前は?」
たぶん彼だと思うがおそるおそる尋ねると
「あ~? オレはセリスって言うんだけど~」
うん、完全にグレてる……なんか凄いメンチ切ってきてるよ。
セリスとは前に書いた別物語の主人公である。
といってもあの物語は彼と一緒に旅をしていた戦士ガイストが主人公でセリスが準主人公のつもりだったが、表現下手だからだーれもそう思ってくれなかったので、もうダブル主人公でいいや、と思った。
ガイスト、ごめんなさい。
まあそれは置いといて。
彼、セリスはその優しき心で相手に何かを気づかせたり、時にはその心の力で悪しきものを祓ったり……最後は妖魔を光への道に進ませ、全ての悪しき縁を消し去ったという位置づけなんだが。
いや、セリスの心は善悪は関係ない、どっちにも染まりやすいくらい純真……もしかすると何者かが彼を?
「あの、セリス君。この辺りが何でこうなったか知ってる?」
これ彼がやったとは限らんよな。
「あ? これオレがやったんだけど~?」
期待は虚しく砕け散った。
「な、何でこんな事を?」
「何でって? ここ誰もいねえからぶっ壊し放題で面白くてさ~」
セリスはケラケラ笑いながら答えた。
「いやあの……あ、ところで僕の事覚えてる? ほら、以前会ってるよね?」
「ん? ああ、あんたあの時の兄ちゃんじゃんか」
「そうそう。君に助けてもらった」
「ふ~ん、あんたどうやってここに来たんだよ? オレでもこっから出られないのにさ~」
「えと……と、いう訳で」
僕はこれまでの経緯を話した。
「そうかい。じゃあオレが力を貸せば、そいつはそのままでいられるってか?」
セリスはカルマを指さして言った。
「うん、だからお願い」
「う~ん、手伝ってもいいけどさ、その代わりオレの頼みを聞いてくれるか?」
「頼みって?」
「そこのちっちゃいエルフと(ズキューン!)させろや」
ドゴオッ!
僕は思わずセリスを全力でぶん殴ってしまった。
「痛ってえ! っていきなり何すんだよおい!?」
セリスは頭を押さえながら怒鳴ってきた。
「やかましいわ! テメエにはセイラちゃんって彼女がいるだろが! てかまだ早いわ!」
「早いってオレ、セイラともう」
ドゴオッ!
「また殴りやがって……そりゃ!」
「な!?」
セリスが手をかざすと体が金縛りのようになった。
「う、お、俺も」
「わたしも動けません」
どうやら皆もみたいだ。
「ぐ、わ、我の力を遥かに上回っているだと?」
「セ、セリスさんって本当に神以上?」
カルマやサオリさんまでもが……やっぱガチで最強だ、セリスは。
「さ~て、じゃあその子とついでにポニテの姉ちゃんとメガネの姉ちゃんも」
その時ルーがセリスに話しかけた。
「ねえセリス君、可愛い女の子なら後ろにもいるよ」
「え?」
セリスの後ろにはなんというか、整いすぎた顔立ちの美少女がいた。
「お、いいじゃんか~。じゃあ皆まとめて」
そう言ってセリスがその子に近づいた時
チュドーン!
「な、何が……? ガク」
いきなりその子が爆発し、セリスは真っ黒焦げになって倒れた。
「お、金縛りがとけた。って今のは何だったんだ?」
「あれは僕が作った人型爆弾だよ。あ、セリス君が死なないように威力は抑えておいたよ」
僕の疑問にルーが答えてくれた。
「ありがと助かったよ。しかし不意打ちとはいえ、セリスを倒せるなんて凄えよ」
その後ミカユカの回復魔法でセリスの傷を治したが、彼はまだ気を失っていた。
「おそらく目が覚めても……どうやったら元に戻るんだろ?」
「それなら我に任せろ。今なら通じるだろう」
カルマはそう言ってセリスの額に手をあてた。
するとセリスは目を覚まし
「ん、あれ? ボクはいったい?」
おっ!? セリスの口調が元に戻った!
「ふう、どうやら上手くいったようだな」
「カルマさん、今何したの?」
「いや、彼の心にあった悪いものを吸い取ったのだ。そういったものは妖魔の糧でもあるからな」
なるほど。
「あれ? ボクどうしてこんなカッコしてるの?」
「セリス君は覚えてないの?」
「ん、えーと、ボクはお友達の家に行こうとして気づいたらここにいたの。ここって誰もいないしつまんないし……それで落ちてたこの本の真似してたら、いつの間にか」
セリスが見せてくれたのはヤンキーやら暴走族やらが出てくる漫画だった。
そんなのに影響されたって、少し憧れてたりするのかな?
そしてセリスの髪や服装をサオリさんが戻してくれた後、彼に事情を話した。
「という訳でね。元の世界に帰る前にちょっと手伝ってよ」
「うん、わかったよ。あの、ごめんなさい」
セリスは頭を下げて謝ってきた。
「いいのよ。後でルー君と抱き合ってるとこ写真に撮らせてくれたら……ハアハア」
「お姉様、どうせならシューヤとチャスタも入ってもらって」
「その四人が隆生お兄ちゃんと」
ゴン! ゴン! ゴン!
「セリスは染まりやすいんだからそんな事言うな!」
「この人達ってガイストお兄ちゃん達みたいだな~。それと何かずっと前から知ってるような気がするよ」
「僕もそう思うよ。たぶん皆どこかで繋がってる仲間だからだろうね」
セリスとルーはそんな事を話していた。
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