第36話「なかなか見つからない」

「皆さん着きましたよ」


 サオリさんに言われて目を開けると、そこは芝生に覆われている広い場所、木陰で休めそうな木も生えていて、遠くにはお寺や山も見える国の名勝、そして歴史的文化遺産がある奈良公園だった。

 都市公園としての奈良公園は寺社等は含まないみたいけど、一般的にはそれらを含んで奈良公園と呼ばれているんだよな。

 まあ、僕にとっては東大寺があってたくさんの鹿がいるという印象が強いが。


「でもやっぱり鹿もいないんだね」

「どこを見てるんだ、ちゃんとあそこにいるだろが」

 え?


「はい鹿さん、おせんべいあげる」

「お姉様、この子達お辞儀したら真似してくるわよ!」

「ホントだわ! 可愛いわね~」

 姉ちゃんが指さした方を見ると、ミルちゃんやミカユカがたくさんの鹿に鹿せんべいをあげていた……てかそれどっから出した?

「さっき私が出したのよ。でも変ね? 前はたしかに一匹もいなかったはずなのに?」

「え、ちょっとサオリさん! それ何かヤバいんじゃ!?」

「心配するな、あの鹿達の心には悪意など全く無いぞ。それにもし悪意があったら私が既に止めてる」

 じいちゃんが僕の肩を軽く叩いてそう言ってきた。

「あ、そうか。そうだよね」


「きゃ、くすぐったいよ~」

 あ、ミルちゃんが鹿にほっぺを舐められてる。

 ってあれ? 鹿ってそんな事するんだったっけ?


「ちょっと鹿さんやめて! 引っ張らないで!」

 あ、ミカの短いスカートを噛んで引っ張ってるエロ鹿がいる。

「おお、見えそうで見えない。それがまたええのう……グヘヘヘ」

「姉ちゃん、ヨダレ垂らしてないで助けてやれよ。僕が行って見えたら嫌だろし」


 バタッ!


「え!?」

「み、見えた。なんて過激な……ふにゅ~」

 音がした方を見ると、シューヤが鼻血出しながら倒れていた。


 ねえシューヤ、エロくなれとは言わんけど、少し耐性つけた方がいいよ。

 あと過激ってのが気になるな。


「シューヤ~、今見たの忘れるくらいどついてから介抱してやるからな~」

 チャスタが額に青筋を立てて言う。

 気持ちはわかるが、それシューヤが死ぬって。


「隆生さん。カルマさんも倒れてますけど」

「へ!?」


「な、なんだこの感覚は? ふにゅ~」

 ユカが指さした方を見るとカルマが大量の鼻血を出して倒れていた。

 っておのれもか!?


「ふ~ん、黒のすけすけぱんつ見ただけでこれなら、モロにすっぽんぽん見せれば速攻で昇天するかも。よし、もしもカルマさんが理性を失って暴れた時の対処法にしましょっと」


 サオリさん、自分でそれやる気?

 それとミカ、そんなもん穿いてたのか。

 


「ところで生命創造の力を持った者はどこにいるんだろうな」

 じいちゃんが顔に縦線走らせながらそう言ってきた。


「あ、そうだね……え、生命創造って、あっ!?」

「どうした、いきなり叫んで?」

「い、いやもしかしたら」

「……ああ、そういう事か。彼がこの鹿達を創りだしたと」

「じいちゃん、心を読んで先に話さないでよ」

「ああすまん。だがそれならまだ近くにいるかもな。それと」

「それと、何?」

「彼は今も人間の姿でいるのかわからんぞ。まあそれでもトナカイだったら目立つかな」


「え、トナカイって? ねえ隆生さんにじいちゃん、もしかしてここにいるのって……ルー?」

 チャスタが驚きながら尋ねてきた。


「うん、おそらくね」

 

 ルーとはチャスタの仲間であり、サンタクロースが攫われた物語の主人公でもある。

 彼はサンタクロースのソリを引くトナカイだったが、悪い魔法使いがサンタクロースを攫う際に彼を人間にしてしまったんだ。

 物語の終盤で魔法使いと和解した彼は無事トナカイに戻ったが、何かで必要な時はいつでも人間になれる魔法を新たにかけてもらった、と小説に書いてない設定があったりする。

 そして彼はミカやユカ達が住む世界にやってきた時、てか最終決戦時に自身が持つ力に目覚めたんだよな。

 物だけでなく命をも創りだせる、という力に。


「そうだったのか。しかし何故ルー君は鹿を創りだしたんだろな?」

 姉ちゃんは首を傾げていた。


「ひとりぼっちで寂しかったからじゃないかな? 鹿だったのはたぶんこの辺のどこかで鹿の人形か絵でも見たからかもね」

「うーん、まあ隆生の予想通りならこの近くにいるだろうな。よし、皆で辺りを探すとするか」


 その後皆で手分けして辺りを探した(シューヤとカルマはしばらくしてから復活してきた)




 そして夕方になったが

「いないね」

「そうだな。俺も結構探したが」

「いったいどこに? あ、ミルちゃんは何か感じなかった?」

 ミカがミルちゃんに尋ねたが

「ううん、何も感じなかったよ」

 ミルちゃんは首を横に振った。

「うーん、ミルちゃんでもわからないなら、この辺にはいないのかも?」

 ユカがそう言った時、チャスタがふと呟いた。

「あのさ皆、オイラちょっと思ったんだけど」

「ん、何だよ?」

 シューヤがチャスタに尋ねる。


「いやさ、もしかしたらルーは野生に帰って、そこにいる鹿に紛れてるんじゃ?」


 全員沈黙してしまった。


「い、いや、もしそうだとしてもトナカイと鹿の見分けくらいはつくだろ?」

「それがさあ、ルーってあんま鼻が赤くないんだよ。それにクリスマスの後、角が生え変わりで取れたんだよ。あれじゃ角のない鹿と見分けがつかないよ」


「それを早く言え! なら角がないのを調べていくか、って何匹いるんだ?」

「え~と、ざっと見ただけでも数十匹……たぶんもっといるだろな」

 シューヤとチャスタの話を聞いた僕達は、鹿を数匹ずつじいちゃんとサオリさんの側に連れてきた。


 いくら心が読めると言っても、あまり遠くにいると見えないらしいから。

 

 だが、ルーはなかなか見つからなかった。

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