第26話「誰かが喜んでくれる事がしたかった」

 その後宴会は盛り上がったが、


「フフフ、さあシューヤ。隆生さんと……して」

「……ああ」

 どこでどう間違ったのかユカとシューヤが酒を飲んでしまい、僕がユカの術で金縛りにされてシューヤに襲われそうになった時

「ユカさん、シューヤ君。邪魔しないでくれないか」

 飲んでるところを邪魔されて怒ったじいちゃんが、記憶操作を応用した催眠術で二人を眠らせたので助かった。

 てかじいちゃん、マジ最強だ……。

「……う、う」

 姉ちゃんは僕の横で涙目になって震えていた。

 うん、わかるよ。


 そしてお開きになり、全員徒歩で(ホクトさんも飲んでたから車運転できなかった)ホテルに戻りそれぞれの部屋でゆっくり眠った。




 翌朝、僕達はホテルの前である人を待っていた。

「そろそろかな?」

「隆生、彼はどうやってここに来るんだ?」

 姉ちゃんが聞いてきた。

「セイショウさんが竹筒に入れて、こっちに送ってくれるんだって」

「そうか。しかし以前一度会ったが、本当にマッドサイエンティストっぽかったな、あの人」

「それでも向こうの世界トップクラスの大科学者だよ、あ」


 僕達の目の前に光り輝く竹筒が現れた。

 そしてそれを手にとり、蓋を開けると……。


「ふう、着いたようですね。お、皆さんお久しぶりですね」

 現れたのは白い長髪で白衣を着た痩せ型の初老の男性、元魔王軍第二十軍団将軍で科学者でもあるシクネスだった。


 彼はロボットやら細菌兵器やら何でも作れるくらい頭がいい。

 あとチャスタが使ってたジャマダハルを作ったのもこの人らしい。


「シクネスさん、お久しぶりです。わざわざ来ていただきありがとうございます」


「いえいえ、私でお役に立てるならどこへでも。ああ、用件はセイショウ様から聞いてますよ」


「はい。じゃあ」


 僕達はホクトさんの運転するマイクロバスで文京区にあるドーム球場へ向かった。

 もう気づいてると思うけど、シクネスさんに来てもらったのはアンドロイド達を診てもらう為だ。

 ギンガさんは別の人達が迎えに行くと行って先に出ている。


 球場に着くと……お、ここは僕が知ってるより新しい感じだな。

 中に入ってグラウンドを見ると……うわ、たくさんのアンドロイド達が寝ている。何体いるんだよ?


「全部で五百体ですね。皆意識はありますが、まともに動けるのはもうギンガだけです」

 ホクトさんが説明してくれた。

 ……そうなんだ。動けないって辛いだろうな。

 

 そしてグラウンドに出て

「おお、これは……ふむふむ、なるほど」

 シクネスさんはアンドロイドを何体か見て回りながらブツブツ呟いていた。

「どうですか?」

「ふむ、彼らを作った方は相当凄腕の方ですが、少々要領が悪いですね」

 シクネスさんはしかめっ面でそう言った。


「え、何でですか?」

「いや全ての機体にとはいかないまでも、何体かに修復機能を備えておけばよかったのに。そうすればたとえ自分がいなくなっても、アンドロイド自身で修復や整備が出来たのに、と思いましてね」

「あ、なるほど」

「なので私が修復機能を追加しますよ。今後の事もあるし」

 それからシクネスさんはアンドロイド達の中から修復機能を追加しやすい者を選んで修復し、その彼らと共に残った他のアンドロイド達を瞬く間に修復整備していき、僕達も出来る範囲で作業を手伝った。


「ふう、終わりましたよ。これで当分は安心でしょう」

 シクネスさんは腕で額の汗を拭いながら言った。

 アンドロイド達は皆喜んで動きまわっていた。

「お疲れ様でした。やっぱシクネスさんは天才ですね」

「ははは、私は天才じゃないですよ。むしろ出来損ないでしたよ」

 シクネスさんは笑いながらそんな事を言った。

「な、何で!? こんな凄い事できるのに!?」


「隆生さんはご存知ですよね、魔王軍の将軍や兵士がどのようにして集められたかは」


「あ、はい。迫害を受けたり何かで苦しんでいる人を連れてきたりとか、無念の死を遂げた者を転生させたりとかですよね」


「そうですよ、私はね」

 シクネスさんは話し始めた。




 私は元々とある世界の科学者でした。

 ですが出来損ないの私は全然成果が出ず、周りから馬鹿にされていました。

 そんなある時偶然成功した時空転移装置で他の世界を見て回り、自分の世界になかった様々な技術を死に物狂いで学び、今のようになれたのです。

 そして私を馬鹿にした者達に復讐した後、魔王軍にスカウトされましたが、何故か魔王シヴァ様は私の成果を認めてくれなかった。


 じゃあ何の為にスカウトしたんだ?


 と思いヘルヘイム様が率いる冥界軍に寝返り、あの方達に倒されて一度死んだ後、ヒトシ様に洗脳されて蘇り、ルーファス国の先代王と一戦交えて敗れましたが……あの先代王は私をスカウトしたいとか言い出しましてね。


 なんてお馬鹿な人だ、と思いましたよ。

 でもこんな私を必要だと言ってくれて……胸が熱くなりました。

 そしてやっとわかった、いや思い出したのです。

 私は誰かの役に立つものを作りたかった。

 誰かが喜んでくれる事がしたかったのだと。


「その後はルーファス国に仕えていろいろと作ってますよ。そうそう、ミカさんやユカさんが隆生さんの世界で見てきたものも作ったりしてますよ」

「ああ、たしかファ◯コンも作ったんですよね。今あっちでは大ブームになってるんでしょ?」

「ええ。実はとある世界で一度見たことあるんですよ。その時は不覚にもハマってしまいましてね。後で持って帰っておけばよかったと思いましたよ」

「あれ? またその世界には行かなかったんですか?」

「はい、その時は適当に周ってて、機体に記録も残してなかったので再び辿り着けませんでした。もしかするとあそこは隆生さん達の世界だったのかもしれませんね」




 そして外がもう暗くなり、星が出てきた頃。

「さて、私はそろそろお暇しますよ」


「どうもありがとうございました。あれ? どうやって帰るんですか?」


「ああ、また竹筒に入ってからこちらの守護神様に飛ばしてもらうんですよ。この世界には秘術や時空転移装置で出入りできないので」

 するとサオリさんがやってきて

「シクネスさん、本当にありがとうございました。こっちが落ち着いたらまた来てくださいね。今度はうちの科学者達を指導していただきたいし」

 サオリさんは頭を下げてそう言った。

「ははは。私でよければ……あ、そうだ。件の本はどうやら意志があるようだ、とセイショウ様が仰ってました」


「な、何だってーーー!?」

 僕達は思わず叫んだ。


「なので本に唯一触れる事ができるミルさんが尋ねたら、あるいはと。すみません、作業に熱中して言うのを忘れてました」

 シクネスさんは頭に手をやり申し訳なさそうにしていた。

「あ、いえいいですよ」

 あの時のシクネスさん、本当に生き生きしてたもんなあ。


「では、皆さんお気をつけて」

「はい、シクネスさんも」


 シクネスさんはサオリさんの術でまた竹筒に入った。

 そしてその竹筒は僕達の前で浮かび上がり、星空の彼方へ消えていった。



「……本当にいろいろとありがとうございました」

 僕は空を見上げながら呟いた。

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