第17話「出発進行」
そして夕方、大阪駅に着くと駅の改札前でサオリさんが僕達を出迎えてくれた。
「皆さんお待ちしてましたよ。さ、こちらへどうぞ」
サオリさんに案内されて改札に入り(当然駅員さんはいない)ホームに上がると……。
そこにあったのは1949年から2008年まで東京-大阪間で運行していた寝台列車、通称ブルートレインだった。
「うわあ、本物のブルートレインだわ!」
「凄え!」
「わあ~!」
ミカとチャスタ、ミルちゃんが驚きながらそれを見てはしゃいでいた。
これいつか乗ってみたいと思ってけど、とうとう一度も乗れないまま廃止になったもんな。
もう乗れないと思ってたのに異世界で乗れるなんて。
正直僕も一緒にはしゃぎたくなったわ。
「ふふ、気に入ってもらえましたか?」
サオリさんが微笑みながら言うと
「はい! もう天にも昇る気持ちです!」
うわ~、ミカ凄く嬉しそうだ。
「そう言って貰えて嬉しいですわ。ねえ皆」
「はい。一生懸命整備した甲斐がありますよ」
いつの間にかサオリさんの後ろに作業着を着た人が何人か立っていた。
目が吊り上がってて牙生やしてる魔族みたいな人、あっちはどー見ても狼男、こっちは四角い顔に頭にネジが刺さってる人。もしかしてこの人達が?
「おお皆、元気にしてたか?」
じいちゃんがその人達に話しかけた。やっぱそうか。
「はい、お久しぶりです。あの、黙っていてすみませんでした」
魔族みたいな人が頭を下げながら言うと、他の人達も後に続いた。
「いやいや構わないよ、私を心配しての事だとわかったし」
じいちゃんはその人達としばらく互いの近況を話していた。
「ところで誰がこれを動かすんだ?」
じいちゃんが尋ねると
「ああ、それは私が」
そう言って前に出てきたのは、全身が銀色で背が高く、顔には大きな丸い目だけで車掌さんの帽子を被っている人(?)だった。
「勝隆さんお久しぶりです。そして皆さん初めまして、私は車掌のギンガと申します」
その人、ギンガさんが機械音の声を出して僕達に自己紹介してきた。
「……あの、失礼ですがギンガさんはロボットですか?」
僕はおそるおそる尋ねた。
「いえ、私はロボットというよりアンドロイドみたいなものです。本来なら魔族の方が電車を動かす予定でしたが、別件で手が離せなくなったので、運転出来る私が代わりを務めます」
「そうですか。あの、あなたみたいな人って他にもいるんですか?」
「いますけど今動けるのは私だけです。整備してくれる人がいなくなったので」
ギンガさんは俯きがちにそう言った。
「あ、そうでしたか。でもそれだとあなたも無理はできないんじゃ?」
「いいえ。私は何もせずただ待つより、誰かの役に立ちたいんです。それに人間が戻ってきたら、たとえ壊れていても元に戻りますからお気になさらずに」
「わかりました。けどなるべく無理はしないでくださいよ」
「了解しました。……隆生さんはやはり勝隆さんのお孫さんですね。本当にお優しい方です」
ギンガさんの表情は変わっていないが、何だか微笑んでるように感じた。
「ではそろそろ出発しましょう。皆さんこちらへ」
ギンガさんに促され列車の中に入ると……。
「へえ、こうなってるんだ」
その車両は寝台車で通路の両側が個室になってる感じだった。
「どうぞお好きな所へ。今日は天気が良いから、夜になると窓から星空が見えると思いますよ」
「星空を見ながらって、なんて素敵なの」
うわ~、ミカがうっとりしてるよ。
「ふふ、ねえ、星空を見ながら私と」
「守護神様」
「サオリって呼んで、お姉様……はあはあ」
「ああ、サオリ……グヘヘヘ」
ゴン!
ゴン!
「おのれら何をする気じゃ!」
「隆生、いずれ俺を縄で縛って鞭で打とうとか思ってないだろな?」
そんな事思っとらんわ!
「おのれ二度もぶったわね。アマテラス様にもぶたれた事ないのに」
どっかのニュータイプみたいな台詞を吐くな、って
「あれ、サオリさんも一緒に行くんですか?」
「ええ、せっかくだし私もこれに乗ってみたくなったの」
「そうですか。ここには少年少女もいるので変な事しないでくださいよ」
「あなたこそ夜中にミルちゃんを襲わないように」
ゴン!
「誰かそんな事するか! 俺はロリコンじゃねえ!」
「おのれ、仏の顔も三度までという言葉を知らないの?」
「あんたは神様だろが!」
「隆生さんって優しいだけじゃなく、結構過激ですね」
「昔はそうではなかったが……どこでああなったんだろうな」
じいちゃんとギンガさんが何か話してた。
その後皆で運転席の前に来てからギンガさんが予定を説明してくれた。
「東京への到着は明日の朝六時頃となります。お食事は食堂車に用意してありますので、ごゆっくりお寛ぎくださいね」
「あれ? 今は十九時だから、本で読んだのより遅いですね?」
ミカが首を傾げていた。
たしか大阪からだと七時間くらいだったよな。
「何もないはずですが念の為に速度を落として行きます。ご了承ください」
なるほどね。
「わかりました。その分ゆっくりと……うふふ」
ミカ、やっぱ嬉しそうだな……まあ慌てることはないんだし、僕もゆっくり気分を味わうかな。
「では、出発進行!」
ブルートレインがガタゴトと音を立てながら走り出した。
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