第16話「旅の準備」

 次の日の朝、僕達は旅の準備をする為、じいちゃんに連れられてある場所に向かった。

 家から住宅地を歩いて約十分、そして大通りに出ると

「あ、商店街の入口も昔のままだ。それにあっちには」

 そこにあったのは大阪三大商店街の一つと言われる古い商店街、その少し右向こうには以前そこに建っていたのと同じ映画館やスーパーがあった。


 近くまで歩いてくるとやっぱり記憶にあるあの時のままだ。

「これもこっちではそのままだったんだ」

 するとじいちゃんが話しかけてきた。

「昔はよくここに映画見に来たものだな」

「うん。じいちゃんと姉ちゃんでアニメの映画をね」

「そうだな。そういえば優美子が何のアニメだったか魔法使いの女の子の格好して決め台詞言った事があったな。もう中学生だったのに」

「……もう忘れたいんだ、言わないでくれ父さん」

 姉ちゃんは顔に縦線を走らせながら呟いた。

「ははは。いいじゃないか」

「へえ、それ今でも似合いそうだし見たいな」

「うん、見たいです」

 ミカとユカが何やら恐ろしい事を言いだした。

「二人共お世辞はいいよ。今だとイタすぎて見るに耐えな、ぐええ!」

 姉ちゃんが無言で首を絞めてきた。

「やめんか優美子、もう三十なんだしさすがに無理だろ」

 じいちゃんが苦笑いしながら止めてきた。

「わかってるが腹が立つ」

「あ、ミルちゃんも似合いそう……あれ? ミルちゃんどこ?」

「お姉様、あそこ、あ」

 ユカが指さしたところを見るとミルちゃんが掲示板に張られてるポスターを見ているようだった。

 そしてその横では何故か倒れているシューヤをチャスタが介抱していた。

「ちょ、チャスタ! シューヤはいったいどうしたの!?」

 僕達がそこに駆け寄っていくと

「あれ見ていきなり倒れたんだよ」

 チャスタは掲示板を指さした。

「……ああ、あれね」

「ミルちゃん見ちゃダメ!」

 ミカがミルちゃんの目を手で覆い隠した。

「え~、いいでしょ~?」

 ミルちゃんは不満そうだった。

「し、しかしこういうのって堂々とあるものなんですか?」

「少なくともこんな大通りに堂々と張られてないな……今はな」

 ユカの疑問に姉ちゃんが答えた。


 それは成人映画のポスターだった。

 昔は子供も通る場所にも張られてたもんだわ。

 シューヤは十三歳、刺激強かったか……ってあれ?

「チャスタは大丈夫なの?」

 彼は十一歳だし……てかもうミカとやってるからとか言わんでくれよ。

「ん? オイラ盗賊以外にもさ」

「ストップ。わかったからそれ以上言わないで」

 チャスタはあの世界の仲間達に出会うまでは盗みやいろんな事をやって生きてきた。その時におそらく体も……そんな事誰が言わせるか。

「うん……ねえ、オイラって皆と一緒にいてもいいんだよね?」

 チャスタは俯きがちにそう言った。

「いいに決まってるだろ。何でそんな事聞くの?」

「オイラたまに不安になるんだよ。皆を疑るようで言えなかったけど」

「チャスタ、少なくともここにいる僕達や君の世界にいる仲間達、ご両親は君にいてほしいと思ってるよ。だから、ね」

 僕がチャスタの頭を撫でると

「……うん、ありがと。隆生さん」

 チャスタは笑顔で返してくれた。

 うん、子供には笑顔が一番だ。



「さて、シューヤ君も気がついたようだしそろそろ行くか」

「じいちゃん、目的地ってあのスーパー?」

「そうだ。あそこには守護神様の力で食料や衣類、生活必需品がいつも揃ってるのだよ」

「へえ、そりゃまた凄いね」


 そして僕達はスーパーの中に入った。

 外には太陽マークの看板が、中も僕が覚えてる昔のまま。

 この古ぼけた感じ……ほんと懐かしいや。




 僕達はまず一階の食料品売場を回って缶詰やミネラルウォーターとか他にも日持ちする食料を持ってきた鞄に詰めた後、二階の衣料品売場へ行った。

 そこには普通の服だけじゃなくRPGに出てきそうな装備も置いてあった。

「へえ、こんなのもあるんだ」

「おい隆生、こっちには武器もあるぞ」

「ホントだ、これ見てると何か異世界にいるって実感が湧くね。そうだ姉ちゃん、どうせならそれっぽい格好しない?」

「そうだな、だが魔法少女の服は着ないぞ」

「だから今の姉ちゃん着たらイタい……そんな怖い目で見ないで」


 その後僕達は服を着替えた。

 僕は水色の上着に黒いズボン、上着の下には鎖帷子を着て、青いマントを羽織って腰には西洋風の長剣を。

 うん、それっぽいな。


 姉ちゃんは短めの白いローブを羽織りその下には同じく白のシャツとズボン、手に杖をって、なんか賢者っぽいな。

 

 ミカ、ユカ、チャスタは元からファンタジーっぽいからかそのままでいいと言い、シューヤは服はそのままだが胸当てと籠手と膝当てをつけていた。


 じいちゃんは自分は遠慮すると言って着なかった。

 そして、おお。

「ねえねえ、似合う~?」

 ミルちゃんはさっき言ってた魔法少女のような可愛らしい服を着ていた。

「うん、とっても似合ってるよ。だよね姉ちゃん」

「ああよく似合ってるぞ。脱がし甲斐があるな……グヘヘヘ」

 ゴン!

「剣の鞘で殴るな! 冗談に決まってるだろ!」

「冗談でヨダレ垂らすな!」

「どこでこうなったんだ優美子は……?」



 そして僕達は家に戻って昼ごはんを食べた後、じいちゃんが運転する車で大阪駅へと向かった。

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