第18話「ゆっくりと進んでいく」

 出発後食堂車に行くと、向かって右側のテーブルにたくさんの食べ物や飲み物が置かれていた。

 バイキング方式という事だな。

 あ、缶ビールや缶チューハイも置いてある。


「優美子、隆生。後で一杯やるか?」

 じいちゃんが手でコップを持つ仕草をして言ってきた。

「ああ、俺はあまり飲めんが缶チューハイなら」

「僕も明日があるし少しだけ。そういやじいちゃんと一緒に飲むのって初めて」

「まあ、私は隆生が成人する前に一度死んだからな」

 じいちゃんはさらっとそう言った。


「そうだ。そうだよね、じいちゃんと一緒にお酒飲めるなんて、永遠にないはずだったんだ」


「隆生、俺だって父さんと飲んだ事はなかったんだぞ」


「え? 姉ちゃんあの時はもう二十歳……あ、そうか。じいちゃんは病気だったから、飲めなかったよね」

「そうだったな。だがこうして二人と一緒に酒を飲める日が来るとは思わんかったよ。本当にありがたい事だ」

「そうだね。本当に……」


「おれのじい様はいつも第二公家のじい様と喧嘩してるから、おれが大人になるまで元気でいてくれるよな」

「オイラ大人になったら父ちゃんとお酒飲も。母ちゃんとは……飲んだらマシンガン撃ってくるからやめとこ」

「わたしも成人したら、お父様やお母様とお酒飲みたいな」

「そうね、その時は皆で一緒に(この子酔ったら危険だけど)」

「ねえ皆~、早くごはん食べようよ~」

 少年少女達がそれぞれ思ったことを口にした。



 そして各々好きなだけ食べ物を取り、反対側のテーブルに座って食べ始めた。


 ところでユカ、それ十人前はあるだろ……いくらシューヤの家が大貴族でも、将来食費大変だろな。


 そしてミルちゃんは本当に何でもよく食べる。

 まあミルちゃんって母親はエルフだけど父親は……だもんな。

 肉や魚も普通に食べられるのはそっちの血でなんだろな。


「そうか、ミルはそうだったのか」

 じいちゃんがボソッと呟いた。

「あのさ、黙って心を読まないでよ」

「ああすまん。だが、心配はないと思うぞ」

「どうして?」

「親馬鹿、いや爺馬鹿かもしれんがミルは賢い子だからな。決してユカさんのせいにはしないぞ」

「うん、じいちゃんが言うならそうなのかな」


 食事が終わった後、サオリさんがシャワールームへ案内してくれた。

「ここは改造して元のものとは変えているので、お湯はいくらでも出るようになってます。湯船も用意すればよかったかなと思いましたが、こっちの方が雰囲気出るでしょ?」

「はい! じゃあチャスタ。一緒にシャワー浴びましょ、そして・・・・・・はあはあ」


 ゴン!


「痛い……ええやんか別に。最後までするつもりあらへんし」

 ミカが頭を押さえながらボヤく。


「ミカちゃん、それでもせめてチャスタが成人してからにしようね。あと似非大阪弁は何の影響だ?」

「いや、台詞だけじゃ誰が喋ってるかわからへんから思うて」

 ……。


「あたし隆生お兄ちゃんと入りたいなあ~」

「ミルちゃんはもう十歳だろ。一人で入りなさい」

「え~? つまんないよ~」

「不満そうにしてもダメ。てかまだじいちゃんと一緒にお風呂入ってるの?」

「いや、もうさすがに一人で入らせてるぞ」

 じいちゃんはそう言った。そうだよね、もう大きいし。

「ミルちゃん、それなら俺と一緒に入ろうか」

 姉ちゃんが自分を指さしてそう言ってきた。

「うん! お姉ちゃんと一緒!」

「……大丈夫だよな?」


 皆がシャワーを浴びた後、ミルちゃんはミカユカが見てくれると言ってくれたのでじいちゃんと姉ちゃんと僕の三人でまた食堂車に行き、ビールやチューハイ、つまみになりそうなものをテーブルに置いた。

「じゃあお疲れ様」

「ああ、乾杯」

 

 しばらく話しながら飲んだ後、ふと窓の方を見た。

 外は暗くて何もなく、夜空に星が見えるだけだった。

「まるで宇宙空間にいるようだね」

「そうだな……そして銀河鉄道に乗ってるみたいだな」

 姉ちゃんも外を見て呟いた。


「隆生、お前まだ結婚しないのか?」

 じいちゃんが唐突に何か恐ろしい事を言ってきた。

 もう酔ってるのか?


「じいちゃん、僕まだそんな事考えられないよ。最後の夢を叶えてないし」

「ん? 隆生、最後の夢って何だ?」

「俺も知らんぞ。いったい何だ?」

「内緒」

 てか、これはたとえ心が読めたってわからないよ。

 僕の中でも漠然としてるだけだしね。


「そうか……隆生」

 じいちゃんが笑い顔から真剣な表情になった。


「それはおそらく一生かかっても叶わんかもしれんぞ。それでもやるか?」

「うん。たとえ回り道したとしてもゆっくりでも前に進む気があればそれでいい。じいちゃんが昔言ってたよね?」

 そう思えるようになったのは最近だけどね。

 僕は先が見えなくても前に進んでるつもりだよ。


「……そうだったな。ああすまん、堅い話は無しにして飲むか」

「うん」



 寝台列車はその後も僕達を乗せて、ゆっくりと闇の中を進んでいった。

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