第15話「いつかは知ることになる」

 そこは、僕達の世界でいう東京国際展示場がある場所だった。

「まあ、そりゃここで本が売られてることもありますが。コミケ行ったことないけど」

「あ、さっきも言いましたが国際展示場はないですよ。おそらくあれのせいで吹き飛んだかと」

 サオリさんがそう言った。

「……そうですか。とにかくここへ行けばいいんですよね?」

「ええ、皆さんお願いします」

「あの、そこまで行くのに危険な事はないですか?」

 ミカがサオリさんに尋ねると

「今この世界ではあれの影響なのか、空が荒れていて飛行機を飛ばせません。あと転移魔法でも並の術者では座標がズレてしまい、目的地に辿りつけないのです。あなた達なら大丈夫かもしれませんが、念の為陸路で行って下さい」

「陸路ですか……車なら半日か。何もなければ」

 姉ちゃんがそう呟くと

「いえ、電車がありますからよければそれで」

 サオリさんがそう言った。

「え、この世界にも電車あるんですか!?」

 ミカが目をキラっと輝かせた。

「ええ。新幹線は無くなってますが、寝台列車ならありますよ」

「寝台列車、一度乗ってみたかったです! うわあい!」

 ミカ、飛び跳ねるな。はしゃぎ過ぎ……っと、

「あの、それ誰が動かすんですか? 僕達電車なんて運転できませんよ」

「それなら大丈夫。勝隆さんもよく知ってる魔族の方が動かしてくれますよ」

「え、皆は無事なんですか? 最近姿を見せてくれなかったので何かあったのかと心配してたんですが」

 じいちゃんが尋ねるとサオリさんは頭を下げ

「皆にはあの場所付近や方々を見張ってもらってたのですよ。万が一の事も考えて勝隆さんが着いて行かないよう口止めしたんです。ごめんなさい」

「いえ、そんな……あの、この世界にいるのは私の知ってる彼らだけなんですか?」

「ええ。実は彼ら魔族や獣人族、他の生き物もほとんどが消えていたのです。残っていたのはこの地、大阪に住んでいる人間以外の者だけ。それが何故かはわかりませんが」

「そうでしたか、とにかく彼らが無事でよかった。彼らには随分世話になりましたし」

 じいちゃんは心の底からホッとしたようだった。

「いえ、皆も勝隆さんが来てくれてよかったと言ってましたよ。時折皆の人生相談に乗ってくれてたんでしょ?」

「え、そんな事してたの?」

 僕がじいちゃんの方を見て聞くと

「ああ。知ってるだろ、私に人の心に干渉する力があるのは。隆生は知らないだろうが元の世界でもこういう事をやってたんだぞ」

「じいちゃんって凄いな……」

 僕がそう言うとじいちゃんは首を横に振り

「いや、お前が中学の時に辛い思いをしてた事には気付かなかった。あの時の私は知っての通り病気で入退院を繰り返していたからな、すまん」

「それは仕方ないから謝ることないよ。それにあの時は姉ちゃんがいてくれたおかげで、ね」

「そうか……優美子、本当にありがとう」

 じいちゃんは涙ぐみながら姉ちゃんに礼を言った。

「父さん……」

 姉ちゃんも涙ぐんでいた。


 しばらくして

「では電車の整備もありますしそちらも準備があるでしょうから、明日の夕方に出発でいいですか?」

 サオリさんがそう言ってきた。

「はい。皆もそれでいい?」

 僕が尋ねると全員頷いた。

「わかりました。では明日大阪駅でお待ちしてますね」

「あの守護神様。ちょっと聞いていいですか?」

 ユカが手を上げた。

「はいユカさん、何ですか?」

「この世界って隆生さん達の世界と似てますが、どうしてですか?」

 あ、そうだ、たしかに。

「似た世界は他にもありますけどね、この世界の場合は元々あっちの世界とは同じ一つの世界だったからですよ。それがある時二つに分かれて別々に進化していったんです」


 な、なんだってー!?


 全員で絶叫してしまった。ミルちゃんはよくわかってないようだったが。

「え、それって、パラレルワールド?」

 ユカがまた尋ねる。

「そうですよ。元の世界は最高神様が直接見てたんですけど、二つに分かれた時に私達兄妹がそれぞれの守護神となったのです」

「そうだったんですか……あの、わたしが元いた世界と今住んでる世界もパラレルワールド同士ですが、こういう世界って他にもあるんですか?」

「ええ。でもパラレルワールドというのは滅多にあるものではなく、以前最高神様に聞いたところ数万に一つの割合だそうです」

「数万に一つ……その中から偶然二組も見れたわたしは運がいいのかな?」

「そうですね、全次元世界の総数は無限に近いですからね」

「……それなら」

 ユカ? 急に暗い顔になったけどどうしたんだ?

「あ、いえ何でもないです」 

 ?




 そして家に帰ろうとなった時、僕はサオリさんの側に行き小声で尋ねた。

「サオリさん、ひとつ聞いていいですか?」

「何ですか?」

 サオリさんも小声で返してくれた。

「……ミルちゃんって何者かご存知ですか?」

「何者かですか。あまり詳しい事は言えませんが少しだけ。ミルちゃんはユカさんに縁のある子ですよ」

「ユカに?」

「ええ。ミルちゃんはエルフですが……でもあります」

「え? ……あ!? ユカに縁のあるって事はまさか彼女は……ですか?」

 僕が思った事を言うとサオリさんは黙って首を縦に振った。

「やはり。もしミルちゃんがそれを知ったら」

「それは私にもわかりません。もしかしたらユカさんを恨むかも。ですのでこの事はまだ秘密で」

「……はい」

 

 でもいつかは知ることになるんだろな……。

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