第10話「強さに溺れず心を磨け」
三階に上がると、そこは剣道場のような造りになっていて、中央に今度は剣道着を着ていて髷を結っている三十代くらいの男性がいた。
鋭い目つきで威風堂々の佇まい。この人は誰なんだろ?
「待っていたぞ。儂の名は
「え? 北畠具教ってたしか」
北畠具教は、戦国武将で伊勢国司北畠家第八代当主。
剣術が好きでその腕は大名に限るならおそらく戦国時代最強クラス、そして剣聖・
ってまさか次の勝負は。
「儂はこれで闘う。そっちの得物は何でもいいぞ」
そう言って刀を抜いた。やっぱりか。
「あの人も強そうですね。ではまたおれが」
「待てよシューヤ。今度こそオイラにやらせてよ」
チャスタがシューヤの前に出て言った。
「しかし……」
「あのおっちゃん達が番人なら、罠なんか仕掛けてこないと思うぜ」
「僕もそう思うよ」
うん、皆さんは……。
「うーん、でも無茶するなよ」
「うん、わかった」
そう言ってチャスタは具教公の前に向かった。
「でもチャスタってすばしっこいけど、戦闘できたっけ?」
「あれ、隆生さんは知らなかったんですか? チャスタは以前からアミに武術教わっていて、とても強いんですよ」
「え、アミちゃんがチャスタの師匠だったの?」
僕の疑問にミカが答えてくれた。
アミというのは小説に出てくる武闘家双子姉妹の姉の方である。
姉妹揃ってかなり強いけど十六歳の割にいろいろ子供っぽい。
「ねえ、彼女って師匠に向いてるの?」
「はい、前に見たことありますけど意外に教え上手でしたよ。あれならいつかいい教師になれますね」
彼女は妹より無邪気すぎるから変態に唆されるイメージが強いんだよなあ。
しかし教師かあ、今度その設定で話書こうかな。
チャスタが具教公の前に立った。
「ほう、儂の相手はお前か。それで、得物は何だ?」
「うーん、最初は素手で行こうかと思ったけどさ、おっちゃんめちゃくちゃ強そうだからこれで行くよ」
そう言ってチャスタは袋から短剣と一体化したような手甲を取り出し、それを右手にはめた。
「ん? 小僧、それはもしやジャマダハルか?」
それを見た具教公がチャスタに尋ねた。
「うん、本当は手で持つやつなんだけどね、オイラはこの方が使いやすいから知り合いに作ってもらったんだ」
「なるほど。ふふ、これは期待してもよさそうだな。では始めるか」
「ああ、いいよ」
「ジャマダハルなんてよく知ってるな、あの人。僕的にはあれドラ◯エのドラゴンキラーだけど」
「あの人もおそらく政宗公と同じだろ」
僕と姉ちゃんが話しているのが具教公に聞こえたようで答えてくれた。
「そうだ。儂はあの世でいろいろな戦い方について学び、そして多くの猛者と戦った。あの素盞鳴尊とも戦って勝った事があるぞ」
おい、素盞鳴尊に勝ったって?
おそらく武力じゃ神様の中で一番に?
そんなの相手でチャスタ大丈夫か?
そして戦いが始まった。
睨み合いの末、先に動いたのは具教だった。
「はあっ!」
具教がチャスタに斬りかかるが、チャスタは右手の手甲でそれを受け流し、具教の腹目掛け左腕で突きを繰り出す。
具教はすかさず左後ろに退いてそれを避け、また斬りかかったがチャスタも素早くそれをかわして蹴りを放つ。
「うわ、凄え」
隆生はチャスタが自分の想像以上であったことに驚いていた。
「そうでしょ? チャスタってホント強くて可愛くて、ハアハア」
「ミカちゃん、ヨダレ拭こうね」
その後刀と手甲の打ち合う音が続いた。
「なかなかやるではないか、小僧」
「へへ、ありがと。でもおっちゃんだって強いよ」
「そうか。では……はあっ!」
「!?」
具教が目にも留まらぬ早さで放った胴切りを受けたチャスタは、十歩ほど後ろへ飛ばされた。
「お前に見せてやろう。『奥義・一の太刀』を」
具教はそう言って刀を構えた。
「奥義・一の太刀? 隆生さん、それってどういうものか知ってますか?」
シューヤが隆生に尋ねたが
「知らないよ。てか一の太刀を理解するには、それを完全習得しない限り不可能と言われてるんだよ」
「そ、そんなに凄いものなんですか?」
「へええ、奥義か。じゃあオイラも」
そう言ってチャスタは手甲を外したかと思うと、両手を握り拳にし、右手を腰のあたりに、左手を正面に突いた状態にして構えた。
そして互いに隙を伺いながら一歩も動かなかったが
「はあっ!」
先に動いた具教が一の太刀を放つ。
だがその太刀筋を言葉で表すのはやはり不可能であった。
「……猛虎彗星弾!」
それに答えるかのように、チャスタも正拳突きの要領で具教に向かっていった。
そして互いの技が目にも留まらぬ早さで交わった後
「うっ」
チャスタはその場で片膝をついたが
「見事だったぞ……ぐふっ!」
具教はその場に仰向けに倒れた。
「やったわ! チャスタが勝った!」
ミカが飛び跳ね喜び
「チャスタ、やるなあ」
シューヤが感心して呟き
「……うわ」
隆生は驚きのあまりそれしか言えなかった。
「……ふふ、完敗だ。あの世に戻って修行し直すか」
具教公は倒れたままそう言った。
「じゃあいつかまた戦ってくれよな」
「ああ……そうだ、余計なお世話かもしれんがひとつ忠告させてくれ」
「ん、何?」
「お前は強いがまだ少年、心は育ちきってないであろう。これから先の人生において決してその強さに溺れず、心も磨くようにな」
「うん、わかったよ」
チャスタは真剣な眼差しで頷いた。
「ふふ、ではさらばだ」
具教公の姿が消えた。
「ねえチャスタ、さっきの技もアミちゃんに?」
僕、あんな技思いついてないよ。
「うん、師匠が新しく編み出した技をオイラに教えてくれたんだ」
「え、アミちゃんはまだ新しい技を考えてるんだ」
「ああ。強さに溺れないようにするためだって。おっちゃんが言ってたのと同じだよ」
凄いよなアミは。いずれ拳帝と呼ばれたお祖父さん以上の武闘家になりそうだな。
「さ、次の階へ行くか」
「うん、姉ちゃん」
僕達は四階へ登っていった。
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