第11話「見つけてあげてね」
四階に上がると……何だここは?
家具やら銅像やらいろいろな物が部屋中所狭しに置いてあるな。
で、ここにいたのは着物姿の若くて凄い美人の女性だった。
この人誰だろ? 今までのパターンで戦国時代の人かな?
あ、あそこに六文銭の旗がある。て事は真田家の誰かか?
と思っていると
「フフフ。私が誰だかわからないでしょうね」
女性が僕達にそう言ってきた。
「はい、わかりません。どちら様ですか?」
下手に誰かの名前言って違ってたら失礼だし。
「フフフ。そうよね、私って物語によってはいなかった事にされたりするし……ふえええ~ん!」
その女性は暗い顔になったかと思うといきなり泣きだした。
「自分で言ってて泣かないでください! で、あなたは誰なんですか!?」
「えぐ、私は……後世では
清音院? 誰だっけ、え~と、あっ?
「あの
僕が尋ねると
「そ、そうよ。知っててくれたのね。嬉しいわ」
その女性、清音院様は泣き止んで笑みを浮かべた。
戦国武将で信濃松代藩初代藩主でもある真田信之の正室でのち側室
信之の父である
のちに信之の正室になる鬼嫁(?)の
あと清音院とは戒名からそう呼ばれていて、本名は伝わってない。
まあ、これは当時の多くの女性がそうだよなあ。
「あ、いや失礼ながら以前大河ドラマを見て初めてあなたの事を知りました。すみません」
「そうなのね。でもそのドラマで私の存在が広く認識されたのね」
清音院様は嬉しそうにしていた。
「はい、たぶん……で、あなたも番人ですか?」
「そうよ。それで勝負の方法はね、かくれんぼでどう?」
かくれんぼ?
ああ、だからこの部屋って物がいっぱいなのか。
「けど何故それなんですか?」
「私って存在感ないから誰にも見つけられな……ふえええ~ん!」
「だから泣かないでください! ……えと、じゃあ誰が行く?」
皆の方を向くと手を上げたのは
「はい、あたし!」
ミルちゃんだった。
「……ミルちゃん、これは遊びじゃな、ってかくれんぼは遊びだな。どうしよ?」
「ミルちゃんはかくれんぼ好きなのか?」
姉ちゃんがミルちゃんに聞いた。
「うん! 隠れるのも見つけるのも好き!」
「相手はじいちゃんだけじゃないの?」
僕もミルちゃんに尋ねた。するとじいちゃんが
「いや、私以外にさっき言った狼男や魔族の子供達も一緒に遊んでくれたぞ。しかしミルは本当にすぐ相手を見つけるし隠れるのも得意でなあ。いつも一苦労だぞ」
じいちゃんは楽しそうに語った。
いい年して何だけどミルちゃんが羨ましいなあ。
「まあ普通の子供ならともかく、ミルちゃんならいいのではないか?」
不思議な力を感じ取れるくらいだし、と姉ちゃんが小声で言った。
「そうだね。じゃ、ミルちゃんお願い」
「はーい!」
ミルちゃんは元気よく返事した。
「相手はお嬢ちゃんね。じゃあ私が隠れるからね」
「うん!」
「あ、皆さんも目を瞑っててくださいよ」
はい、ズルはいけませんよね。
そしてミルちゃんが十数えてから
「も~い~かい?」
「も~い~よ」
早っ! もうちょい引っ張れ!
「えっと、あれ~、どこだろ~?」
ミルちゃんはあっちの箪笥を開けたりこっちの壺の中を覗いたりとして清音院様を探し始めた。
そして十分経過。
「いないなあ~、どこだろあのおばちゃん?」
まだ見つからなかった。てか隠れられそうなとこは全部見てた気が?
そう思ってると
- フフフ。言い忘れてたけど制限時間はあと二十分ね。それまでに見つけられなかったら私の勝ちよ -
どこからともなく清音院様の声が聞こえてきた、って
「あの清音院様! あなたちゃんとこの部屋の中にいるんですよね!?」
僕が大声で尋ねると
- ええ、いるわよ。余所へは行ってないわよ -
やはりどこからともなく声がした。
「凄いものだな清音院様は。ミルは相手がどんな場所にいても見つけられるのにな。前に魔族の子供が意地悪で小さくなってマッチ箱に隠れてたのもすぐ見つけたし」
「じいちゃん、それやっぱりミルちゃんが無意識のうちに秘められた力を使ってんじゃ?」
「……そうかもしれんな」
そしてあと五分。
それでもまだ見つからなかった。
マジでどこにいるんだよ?
「う~ん、どこにいるのかなあ?」
ミルちゃんはその場に座って考え込んでいるようだった。
「清音院さんって本当にこの部屋の中にいるのか?」
「仮に姿を消していても、ミルちゃんならわかると思うけど」
シューヤとユカが話してた時
「……なんてね~。さ、もう終わりにしよ!」
「え!?」
ミルちゃんがそう言って立ち上がるとこっちへ走ってきた。
そして
「み~つけたっ!」
僕達の後ろに向かって言った、え?
「ふふ、見つかっちゃったわ。あなたの勝ちよ」
後ろから清音院様の声が?
僕達が振り返るとそこで清音院様が椅子に座ってお茶を飲んでいた。真っ青な顔して、ってええ!?
「い、いつからそこにいたんですか!?」
「かくれんぼ始めた時からここにいたわよ」
清音院様は何かホッとしたような感じで答えた。
「マ、マジですか!? あなた実は忍者ですか!?」
「いいえ、存在感なさ過ぎで誰も気づかないだけよ。このまま見つからなかったらどうしようかと……ふええ」
いちいち泣くなー!
「ミルちゃん、さっき『もう終わりにしよ』って言ったよな。もしかして最初からわかってたのか?」
「え、そうなの?」
姉ちゃんと僕が聞くと
「うんそうだよ。おばちゃん全然隠れてないからすぐわかったよ」
「なら何故すぐに言わなかったんだ?」
「だって~、おばちゃんの顔がだんだん青くなってくのが面白くて~」
コツン!
「そういう事したら駄目でしょ」
「痛い、ふぇ」
ミルちゃんは頭を押さえて泣きそうになってた。
「ミル、人を困らせちゃいかんだろ。ちゃんと謝りなさい」
じいちゃんが言うとミルちゃんは清音院様の前に行って頭を下げて謝った。
「おばちゃんごめんなさい」
「い、いいのよ。これは勝負なんだから。しかし凄いわねお嬢ちゃん、私って忍びにも気配悟られないのに。あの服部半蔵や風魔小太郎にも気付かれなかったくらいなのに」
あなたがもし忍者だったら戦国時代、いや歴史上最強だったかもしれませんね。
「では私はこれで。あ、そうそうお嬢ちゃん」
「うん、なに?」
「これからも誰にも見てもらえず寂しがってる人を見つけてあげてね」
そう言って清音院様は姿を消した。
それが言いたかったのか、清音院様は。
そして僕達は最後の一人がいるであろう五階へと登っていった。
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