第7話「冥界王対摩利支天」
シューヤと後藤又兵衛は双方左手を前に、右手を後ろに槍を握り、互いに槍先を相手に向けて中段の構えを取った。
だが双方の槍先は鉄の刃ではなく木であった。
これはどちらも相手の命までは取らない、という表れである。
「あなたもですか。でも怪我はしますよね」
「互いに承知の上だろ。では始めよう」
「はい」
そして二人はじりじりと間合いと狭めていき、互いの穂先が当たると
「せりゃあ!」
又兵衛が気合と共にシューヤの腹目掛け鋭く槍を突き出す。
するとシューヤはそれを自分の槍で弾き、気合と共に槍を素早く突き出した。
だが今度は又兵衛がそれを弾く。
その後は両者の槍が激しく打ち合う音が続いた。
「よく考えたら冥界王と摩利支天が戦ってるよ、すげえ」
隆生は又兵衛がかつて「摩利支天の再来」と称されていた事とシューヤの前世を思い出し、驚きながら呟いた。
そして他の者達はただじっと二人の勝負を見守っていた。
しばらくしてから両者は動きを止め、今度はシューヤが槍先を下げる。
又兵衛はまた中段に槍を構え、そして互いに左回りにゆっくりと歩を進め隙を伺っていた。
「……でりゃあ!」
シューヤが先に動いた。
彼が地面を抉るように勢い良く槍を振って土埃を舞い上がらせ、又兵衛の視界を遮った。
「む!?」
又兵衛が唸った時
「はああ!」
シューヤが土埃の中から現れ、又兵衛の額目掛け勢い良く槍を繰り出したが
「甘いわ!」
又兵衛はその槍を弾くとすかさず自身の槍をシューヤの胸元に突き当てた。
「ぐふっ!」
シューヤは大きく後ずさった後、背中から倒れた。
「シューヤ!」
「待つんだユカちゃん! まだ勝負は終わってない!」
ユカが真っ青な顔で飛び出そうとしたが優美子が彼女の肩を掴んで止めた。
「で、でも」
「大丈夫だ、信じるんだシューヤを」
「……はい。あ、シューヤが」
「う、くそ」
シューヤは胸を押さえながら立ち上がった。
「おい、小僧!」
又兵衛がシューヤに向かって叫んだ。
「何ですか?」
「お前まだ全力で戦ってないだろうが! 何か遠慮でもしてるのか!?」
「……いえ、この力はさすがに卑怯すぎるかと思い」
「さっきの目眩ましで充分卑怯だわ! いいから遠慮なく全力で来い!」
「……わかりました。では」
シューヤはそう言って槍を右手だけで持ち、左手を前に突き出すように構えた。
そして目を瞑り呼吸を整えていくと、彼の全身が光り輝き出した。
「な、なんだそれは!?」
又兵衛はそれを見て驚き叫んだ。
「隆生、あれはもしかして神力では?」
「そうみたいだね。シューヤも神剣士タケルの子孫だし、出来てもおかしくないよ」
「……行きます、雷神大打突!」
シューヤが槍を突き出すとそこから光の弾が現れ、それが稲妻の如き勢いで又兵衛を襲った。
「ウワアアアーー!?」
又兵衛はそのまま後方の城壁まで吹き飛ばされ、そこに全身を強く打ちつけられて倒れた。
そしてシューヤは又兵衛の側に歩いて行き、倒れたままの彼に声をかけた。
「どうですか?」
「うう。た、たしかにそりゃ卑怯すぎだな。だが文句はない、俺の負けだ。さあ、勝鬨を」
「……はい」
シューヤは槍を空高く突きあげた。
「シューヤが勝った! 行こうぜ皆!」
チャスタが喜び飛び跳ねながらそう言った。
そして皆がシューヤと又兵衛の元まで来ると
「さて、俺はまたあの世へ戻るか」
又兵衛はその場に座ったまま言った。
「又兵衛さん、聞きたいのですがこの先にもあなたみたいな番人がいるんですか?」
「さあな、俺以外に誰がいるかわからん」
シューヤが又兵衛に聞いたが、彼は首を横に振る。
「そうですか……」
「まあ、誰がいてもお前達なら大丈夫だろ……シューヤ、お前のような強者と戦えた事、誇りに思うぞ。ではさらばだ」
又兵衛はそう言うと姿を消した。
「できれば戦うだけじゃなく、武勇伝とかも聞きたかったなあ」
シューヤがそう呟いた。
「そうだね、僕も大坂の陣での事とか聞きたかったなあ……そうだシューヤ、聞いてもいい?」
「はい、何でしょう?」
「さっきの技って誰に習ったの? あれってたしか」
「はい。お察しの通りと思いますが、ルーファス王国精鋭槍騎士団長様から習いました」
「やっぱり。ルーファス王国は槍騎士が主力の国で、槍術においてはあの世界最強。だから騎士団長さんは世界一の槍使いだよね。そんな人にって、そりゃ強いわ」
「いえいえ、おれなんてまだまだですよ。団長様と模擬戦しても十回やって一本取るのが精一杯ですし」
えっとね、僕の思ってる通りだと王様と団長の息子である副団長と筆頭重臣である大公爵でもその程度だよ。
それめちゃくちゃ強いじゃんかと思った時。
「お兄ちゃんとってもかっこよかった~!」
ミルちゃんがシューヤに抱きついた。
「あ、ありがとう」
シューヤは恥ずかしそうにミルちゃんの頭を撫でてあげた。
「……ふーん」
ユカはそれを見てムスっとしている。
あ~、妬かない妬かない、彼は君だけしか見てないから。
「さあ皆、そろそろ先に進もうか」
姉ちゃんにそう言われ僕達は中に入り、上への階段を登っていった。
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