第8話「独眼竜との……対決?」
その後二階へ上り、何があるか警戒しながら次の階段の前に行くと
「……また誰かいる?」
ユカがそう言って指さした先にいたのは
やはり鎧武者姿で右目に刀の鍔のような眼帯をしている若い男性、ってまさかあの人は?
「ふふ、待っていたぞ。もう察してるだろうが俺の名は
その武将、独眼竜こと伊達政宗公が名乗った。
「やっぱりかー! てか何であなたもここにいるんですかーー!?」
僕は思いっきり叫んだ。
だってこの人、大坂と関係ないだろ?
「まあそれはいいだろ。さあ、ここを通りたければ俺と勝負しろ」
政宗公は腕を組みながら言う。
「ええ。ではまたおれが」
シューヤが槍を持って前に出ようとしたが
「待て。俺とは戦ではなく別の勝負にしてくれないか?」
政宗公がシューヤを制してそう言った。
「はい? 別のって何ですか?」
「料理対決だ」
政宗公は凄く自信満々な表情だった。
「たしかに政宗公の趣味が料理だったってのは伝わってますけど、そんなのでいいんですか?」
僕が政宗公に尋ねると
「いいとも。要は番人が心から認めた者を通せばいいらしいからなっと、喋りすぎたかな」
政宗公はうっかりしたという表情で口を押さえた。
あ、そうなんだ。もしかしたらこれって?
「あの、あなたは番人があと何人いるかご存知ですか?」
シューヤが政宗公に尋ねた。
「ああ、俺とさっきの後藤又兵衛の他にあと三人だ。知らないうちに増えてない限りはな。それでどうする、受けるか?」
「うーん。おれは料理得意じゃないので、他の方お願いします」
シューヤが僕達の方を向いて言った。
「料理対決なら姉ちゃんが行ってよ。姉ちゃんの腕はプロ級だしね」
「ああ。しかし歴史上の偉人と異世界で料理対決するなんて思いもしなかったぞ」
姉ちゃんは少々脱力気味だった。
「相手はお前だな。では」
政宗公が手を挙げると、僕達の両脇に音を立てて調理台が現れた。
「道具や材料は揃っている。後はそこの娘にお題と判定を頼もうか」
政宗公はミルちゃんを指さした。
「あたし?」
「ああ、お前ならズルしないでどちらが美味いか決めてくれるだろうからな。どうだ、やるか?」
「うん、やる!」
ミルちゃんは無邪気な笑顔で元気よく答えた。
「よし、では何が食べたい? 俺はなんでも作れるから言ってみろ」
政宗公は穏やかな顔でミルちゃんに聞いた。けど
「あ、あのちょっと待って下さい!」
僕は慌てて政宗公に尋ねた。
「ん、どうした? この娘が審判では不服か?」
「あ、いえそういう事じゃなくて」
「では何だ?」
「あの、政宗公はなんでもって言いましたけど、ミルちゃんが食べられそうなものも作れるんですか? ミルちゃんは現代の子供だから、お題が政宗公の知らないものだったら不公平じゃと思って」
「ああそういう事か。それなら心配ないぞ、俺はあの世で後世の料理人からいろいろ教わって修行したからな。洋食だろうが中華料理だろうがお子様ランチだろうが何でも作れるぞ」
政宗公がやはり自信満々な顔で答えた。
亡くなってなお料理修行って、この人筋金入りの料理好きだーーー!
「げ、現代の調理道具が全て揃っているわ……冷蔵庫まであるなんて」
ミカとユカは調理台の方を調べていたらしくそこで脱力していた。
よく見るとオーブンやガスコンロもある。そんなのまで知ってるのかよ。
「これで文句はないだろ。では改めてミル、だったな。何が食べたい?」
「えっとね、カレーライス!」
ミルちゃんはまた元気よく答えた。
「カレーライスか。わかったぞ。あ、ミルは肉は食べれるのか?」
「お肉? 大好き!」
「そうか、なら美味しい肉も入れるからな」
「わーい!」
ミルちゃん嬉しそうに飛び跳ねてるなあ。ん、あれ?
エルフって草食じゃなかったっけ?
ってよく考えたら昨日の夕飯はハンバーグ。
ミルちゃんはそれ美味しそうに食べてたな。
「私もエルフについてはこの世界の人達に聞いたが、普通は草食で量が食べられないみたいだな。だがミルは好き嫌いなくなんでもたくさん食べるぞ」
じいちゃんがそう言った。
「ねえじいちゃん、ミルちゃんって絶対ただのエルフじゃないよね」
「そうだな。まあ、たとえ何であってもミルは私の孫だ」
「では、カレーライスで異存ないか?」
政宗公が姉ちゃんを見て尋ねた。
「ああ。やるからには負けんぞ」
姉ちゃんは気を取り直したのか結構真剣な表情になっていた。
その後双方調理台に向かい、そこに置いてあった真っ白な割烹着を着て調理を始めた。
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