第5話「少し進んだ」

 その場所とは、僕達の世界で言うところの大阪城の辺りだった。

「ち、近場の名所じゃねえか……じいちゃんはここ調べなかったの?」

 僕は脱力しながらじいちゃんに聞いた。

「以前私が調べた時は何もなかったがな。ミル、本当にここから不思議な力を感じるのかい?」

 じいちゃんが首を傾げながらミルちゃんに聞く。


「うん。えっとね、この前から感じるようになったの」


「へえ。じいちゃん、ミルちゃんは昔からこういう事できたの?」

「いや、ミルには何かしらの力があるというのは感じていたが……だがこれで少し進んだかもな」

「そうだね。よし皆、明日の朝ここへ行こう」

 皆も頷いた。


 その後僕達はじいちゃんが用意してくれた夕飯を食べた。

 てかじいちゃんが料理してた記憶ないので驚いたよ、これ手が込んでて美味い。

「これでも結構作れるんだぞ。まあ私一人なら簡単に済ませるが、ミルもいるから適当、というわけにはいかんしな」

 あ、そうだよね。さすがじいちゃん。


 それから交代で風呂に入った後、女性陣は二階にあるミルちゃんの部屋(元の世界での姉ちゃんの部屋)で、僕とシューヤとチャスタは空き部屋(元の世界での僕の部屋)で寝る事にした。




 深夜。

 僕はふと目が覚めて居間の方へ行き、襖をそっと開けて中を覗いた。

 じいちゃんはここに布団を敷いて寝ていた。


 ……本当にそこにいるんだよね、じいちゃん。

 朝になったらいなかったなんてないよね。

 

 するとじいちゃんが目を覚まし、起き上がって僕の方を向いて言った。

「隆生、私はちゃんといるから心配するな」

「あ、ごめん。起こしちゃったね」

「構わんさ。まあせっかくだし少し話そうか。優美子もな」

 え?

「隆生、俺も父さんと話したいんだが」

 後ろを見るといつの間にか姉ちゃんがいた。

 そうだよね、姉ちゃんだってじいちゃんともっと話したいよね。


 そしてしばらく思い出話や互いのその後を話した。


「そうか、実の母親に会えたのか」

 じいちゃんが姉ちゃんにそう言った。

「ああ。実の父さんはもう亡くなっていたが」

「そうか。生きているうちに優美子に会わせてあげたかったものだな」

「ああ。それと俺にとっては父さん母さんも実の両親だがな」

「そうか、ありがとう。そうだ優美子、隆生。あれはもう見たか?」


「あれって? ……あ、ミカちゃんが言ってた位牌堂に置いてるものの事?」

 僕が少し考えてからそう言うと


「その言い方だとまだみたいだな。まあいい。あれは帰ってからいつか見てくれ」

「うん。……ねえ、じいちゃんは帰れないの?」

「ん? さあなあ。しかし私は向こうではもう死んだ身だから、今更帰ってもな」

 僕はどう言っていいかわからなかった。


「まあ、こっちが落ち着いたら自由に行き来できるようになるかもしれん。その時は皆を連れてきてくれんか?」

「……うん、わかったよ」


 それからしばらくして僕達はまた眠りについた。




 翌朝、朝食を済ませた後じいちゃんが言った。

「あそこまで歩いていくのは大変だろう。だから車を出そうか」

「え、車あるの?」

「あるとも。さ、駐車場へ行こう」

 僕達はじいちゃんに連れられて家から古い住宅地の中を歩いていった。

 そして歩くこと数分。あ、ここは

「こっちのここは駐車場のままだったんだ。懐かしいだろ?」

 うん、ここは昔じいちゃんが乗ってた車を置いてた駐車場だ。

 元の世界では今はマンションが建っている……あ、あれは!


 僕が見た先にあったのは、シルバーグリーンのセダン。

 てかあれ、うわ。


「ど、どうしたんですか!?」

 僕の隣にいたシューヤが驚いて尋ねてきた。

「え? あ、ごめん。あの車って昔うちにあった車と同じものでね。すごく懐かしくてつい」

 涙が出ちゃってたよ。

「あ、そうでしたか。しかしあれってかっこいいですね」

「うん、マジでかっこいいよあれ。オイラ乗ってみたいな」

 シューヤの後にチャスタもそう言ってくれた。

「ははは、ありがとう。でもあれに全員は乗れんからまた今度にするとして、今回はこっちに乗って行こう」

 じいちゃんが指さした先には白いワゴン車があった。こっちは初めて見たな。


「皆乗ったな。では行こう」

 じいちゃんは歳を感じさせない手つきで車を出した。

「わーい、お出かけ~!」

 ミルちゃんは助手席に座ってはしゃいでいた。

 うーん、昔みたいに僕がじいちゃんの隣に座りたかったけど、ミルちゃんをどかしてまではね。


「しかしエルフを実際見るのって初めてだったわ。チャスタは?」

「あ、そういやオイラも見たこと無いや」

 後ろの席でミカとチャスタが話していたので聞いてみることにした。

「ねえ、向こうの世界にはエルフっていないの?」

「いえ、いるはずですが見かけませんね。どこかでひっそり暮らしてるのかなあ?」

 そうだよねえ、僕も使い所がないから書いてないが、どこかにいるんだろね。


「わたし実際会ったことある」

 ミカの隣に座っているユカが言った。

「え、本当に? どこで?」

「わたしが元いた世界で。それはライアスの恋人だった人」

 ユカは少し辛そうに話した。

「……ユカちゃん、無理に言わなくていいよ」

「ユ、ユカ、ライアスって誰!?」

 僕の隣に座ってたシューヤが振り返って身を乗り出した。

「てめえ空気読め!」


「大丈夫ですよ。あ、ライアスはね、わたしの家であるシルフィード王家に仕えてた戦士よ。彼はわたしを守って先生の元へ連れてってくれた後亡くなった。その彼女はお父様やお母様を守って、彼より先に」

「あ、ごめん!」

 シューヤは慌てて頭を下げた。

「いいの。シューヤにもいつか話そうと思ってたし」

「え?」

「……シューヤは死なないでね。……もう誰も失いたくないから」

 ユカはちょっと恥ずかしそうにそう言った。

「あ、ああ!」

 シューヤは顔を真っ赤にしながら自分の胸を叩いた。

 うん、また少し進んだようだね。

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