第2話「お願いね、皆さん」

「何でって言われても知らんわい。それよりお前さん達、どうやってここに来たんじゃ?」

 そう言ったのは白髪頭で白い髭、白いローブみたいな服を着たおじいさんだった。

「どうやってって僕達にもわかりませんよ。てかここ本当に『あの世とこの世の境目』なんですか?」

 このおじいさんはさっきここの事をそう言った。

 あ、じゃあこの人もしかして。

「本当じゃよ。ああ、儂は」

「ここの番人である神の眷属様ですよね?」

 このおじいさん、眷属様は小説で何度も登場させてるもんな。

 使いやすいから。

「ああそうじゃ。よう知っとるのう……ん? ああ、お前さんはあの一族の者か」

 眷属様が髭をいじりながら答えた。あ、わかるんだ。

 僕や僕の家族って実は天照大御神、最高神アマテラス様の子孫でその力を使えるんだよなあ。

「わかるとも。儂はこれでもここの番人じゃからのう。ああ、どうやらお前さん達は時空の渦に巻き込まれてここに来てしまったようじゃな。ではすぐ元の世界へ戻してやろう」

 眷属様がそう言った時


 -お待ちなさい-


 どこからともなく女性のような声がした。

「え? あ、あなた様は……ははっ!」

 眷属様はその場で片膝をついて礼を取った。

「え、え? あの眷属様、この声の方はいったい?」

「お前さん達も礼を取らんかい! この方は」


 -あ、そのままでいいわよ。それと今姿を見せるから-


 眷属様が言い終わる前にその声の主が姿を見せた。


 それは神々しい雰囲気を纏った日本神話の女神様みたいな服着てる絶世の美女。 ってもしかしてこの人は。


「さ、最高神アマテラス様」

 眷属様は彼女をそう呼んだ。やっぱりかい。


「いつもご苦労様ね、じい」

 アマテラス様は眷属様に向かって微笑みかけた。

「ははっ! あ、ありがとうございます! してアマテラス様、今日はいかなる用でこちらに?」

 眷属様が片膝ついたまま尋ねると、アマテラス様はこう言った。


「隆生達に少しお願いがあって。その為に私が皆さんをここに呼んだのよ」

 あれってアマテラス様の仕業だったんか。

 でもそれならわざわざ呼ばなくてもテレパシーで話しかければいいのに。


「それだと盗聴されるおそれがあったの。ここならその心配はないし」

 そうなんですか。

 てか盗聴って誰がするの?

 あと心を読んで話さないでください。


「あのアマテラス様、お願いとは何ですか?」

 姉ちゃんがアマテラス様に尋ねた。

「実はあなた達にとある世界に行ってもらいたいの。そこで」

「まさか悪の大魔王を倒せとか?」

 僕がそう言うと

「それはとある河童さんとお侍さん達がこの前倒してくれたわよ。そうじゃなくてあるものを見つけてきてほしいの」

「あるもの? 何ですか?」

「……まさかあれじゃ?」

 ユカが考え込んだ後で呟いた。


「知ってるのか、ユカちゃん?」


「タケルがベッドの下に隠しておねショタエロ同人誌ね」

「違うわよユカ。隆生さんが隠してる男の娘エロ同人誌よ」

 ゴン!

 ゴン!


「タケルは知らんが僕はそんなもん持っとらん!」

 僕は二人をどついた後そう叫んだ。

「痛い……でもあんさん、この前酔っぱらいながらネットでその手のサイト見てたやんか」

 ミカ、何故に似非大阪弁で話しとる。

 てかそれ、記憶に無いわ。

「隆生さんは心の奥底では男の娘を襲いたいと思ってるのよ。さあ、自分に正直に」

 ユカ、もっぺんどついたろか?


「……続き言ってもいい?」

 アマテラス様が呆れながら尋ねてきた。

「あ、すみません。どうぞ」

「じゃあ、そのあるものとは本には違いないわね。でもそれは全次元世界創造時からあった本よ」

「え、そ、そんなものがあるんですか!?」

 僕が驚きながら尋ねると

「ええ。実はそれって私が長い年月をかけて書いたものなの。でもある時その本が行方不明になって……最近になってやっと在処がわかったの」

「あの、アマテラス様」

 姉ちゃんがまたアマテラス様に尋ねた。

「何かしら、優美子さん?」

「いや、何故ご自分でそれを取りに行かないのですか? それも掟ですか?」

 するとアマテラス様は暗い顔になり

「……私が行ったらちょっとまずいのよ。掟とかじゃなくてね」

「そうですか。あの、そこは危険な場所ですか?」

「うーん、さすがに命に関わるような事はないわ。多少は何かあるかもしれないけどあなた達なら大丈夫でしょう」

「もう一つ。その本がもし悪意の者に渡ったら、世界が滅んだりするものですか?」


「……滅びはしないけど」

 何だろ、結構やばい事があるのかな?

 と思っていると

「ええ、結構やばいわ」

 アマテラス様が僕に向かって言ったが、だから心を読まないでください。


「もしかしてそれ、アマテラス様がいた宇宙の鉄道について纏めたものとか」

「違うわよお姉様。きっとアマテラス様が書いた神話的なBL小説よ」

 おいミカユカ。そんなもんがやばい訳ないだろ。てかそんなもん書く

「それは手元にあるから心配ないわ」

 書いてたんですか------!?


「そ、その本読みたいです。ハアハア」

 ミカとユカが興奮しながら言うと

「ふふ、ならお願いを聞いてくれたらこの二冊はあなた達にあげるわ」

「「隆生さん、優美子さん、行きましょう!」」

 姉妹が声を揃えて僕と姉ちゃんに言ってきた。


「うーん、でもなあ。俺達は仕事があるから長い時間は」

 姉ちゃんが呟くとアマテラス様がこう言った。

「その心配もないわ。終わった後じいに頼めば、出発から数時間後に戻れるから」


「え、眷属様ってそんな事も出来るんですか?」

「出来るとも。さ、どうする?」

 僕の問いかけに眷属様が答えた。すげえなこの人(?)


「うーん、よし、行きます。姉ちゃんはどうする?」

「なら俺も行こう。隆生が道中でミカちゃんユカちゃんを襲ったら大変だし」

 誰がそんな事するか!

「では、あの二人も一緒にね」

「え?」

 アマテラス様が指さした先にいたのは


「おれも行きますよ、皆さん(そしてユカにいいところを見せる)」

「オイラもね。皆よろしく(ミカより背を高くするって約束してくれたし)」

 シューヤとチャスタだった。

「二人もか。うん、よろしく」



「では、武運を祈るぞい」

 眷属様が杖をかざすと、僕達はどこかに飛ばされた。



「……もしあれが世に知れたら。お願いね、皆さん」

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