第5話
大きな木の下でようやく追いついた。“僕”は必死で走ってくる僕をそこで待ち構えていたようだった。
木の下にたどり着いた僕は木の根元にかがみこんだ。痛みがひどい。あちこちから出血している。
「ひどい怪我だね」
軽い口調で“僕”が言った。
「誰のせいだよ」
声を出すだけで身体中が痛む。
「大体なんなんだ、どうして俺が逃げてるんだ?俺は何もしていないぞ」
その時、木の下に不気味な風が吹いた。
「先に行っておくけど、僕は君の“クローン”だよ」
...なるほど、そういうことか。
僕は驚くよりも先に確信した。
「お前が正紀を殺したんだな。クローンならDNAってやつも一緒なんだろ。だからお前は、今警察から逃げてる。どうだちがうか?」込み上げてくる怒りと、傷口が痛むのをおさえながら、力強く言った。
「和美さんを殺したのもお前なのか...?」
しかし、声が耳に届いてなかったかのごとく、軽い口調で話し出した。
「僕の事を"おまえ"呼ばわりはひどいなあ。僕にもちゃんと名前があるんだよ。“10”っていう名前が」
僕は長いため息をつき、そのあとに口を開いた。
「じゅう?数字の10か?」
「うん、十番目に作られたから10。」
「作られ・・・そうか、クローンか」
「理解するのが早くてありがたいね。ところで君、GEMAって知ってる?」
「ああ、病気をなんでも直すっていうアレだろ?」
「そうソレ。僕はソレから作られたんだ」
「・・・なにいってんだよ。GEMAがクローンを作るなんて話聞いたことねーぞ」
「世の中、君が知らないことなんて山ほどあるんだよ。僕がGEMAから生まれたのは紛れもない事実。
そして、この一連の事件の元凶は、平田和美だよ」
「・・・GEMAは人を治療するための機械だろ?和美さんが元凶?そんな冗談話、信じられるわけないだろ」
「GEMAは元々、クローンを作るために考案された機会だったんだ、彼女自身の遊戯のためのね。君は今、その遊戯に付き合わされているんだよ」
「遊戯・・・?」
「彼女がGEMAを作ったのは気まぐれだったのさ。彼女はこの市を、クローンで埋め尽くそうと考えていた見たいだけどね。本気かどうかもわからず、その夢は終わった。彼女は死んだから」
「...和美さん、そんなことしていたのか」
「ああ、そうさ。だから僕が止めた。自分の意識でね」
「じゃあやっぱり、お前が和美さんを殺したんだな」
少し沈黙があって、10は首を横に振った。
「...ちょっと待て、そもそもお前は本当にクローンなのか?クローンならなぜ自由に行動してる?和美さんは頭のいい人だから、お前が外に出たらやばいことぐらい解ってるはずだ」
「...僕は特別なんだよ。彼女にとっては失敗作なのかな。GEMAに不具合があって、ちょうどその時作られていたのが、君のクローンである僕だった」
「なんで俺のクローンを、和美さんは作れるんだ?」
「君は質問が多いね。まあいいけど。
素材を集めるのは簡単な話さ。青櫛市の公務員はみんな彼女の味方なのさ。クローンを作ってるってことはみんな知らないみたいだけど。
それで、青櫛市で一番人が集まる場所といえば、君の学校だろ?清掃員でも教員でも校長でも、彼女が“落ちてる髪の毛くださ~い”なんて言えば、すぐもらえるのさ。質問はそれだけかい?」
「まだだ。正紀を殺したのは誰なんだ」
また、沈黙が流れた。
「あぁ、僕もう君と話するの飽きちゃったよ」
そういって10は、後ろポケットからおもむろに刃物を取り出して僕に向けた。
「何のつもりだ」
ボロボロの声で言った。
「僕の気まぐれもここでおしまい。じゃあね」
そう言って10は、刃物を向けたまま僕に倒れかかってきた、と同時に僕の意識は黒い闇の中へと引きずりこまれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます