救出
「ふぅ~あっぶね~。なに、お前また死にたいの?」
そう言って颯太を片手で持ち上げ、もう一方の手で天井からぶら下がっているツルらしきものを掴んでいるタクマがいた。
「エリカの頼みがなきゃこんなことなんかしねぇのに……」
ぶつぶつ呟いているタクマの下で六匹の巨魚が何かを探すように首を左右に振っている。
「奴等は上下に首を振れないつまり上へ逃げればもう勝ち確定」
巨魚の弱点を当たり前のように話しかけてくるタクマに少しイラッと来た颯太は、
「なら、あの六匹今すぐ倒してこいよ勝ち確定なんだろ?」
「あぁ?お前を助けてやった上に弱点さえ教えてやったんだぞお前がやってこい。ほら離すぞ、いいのか?」
「やってみろよ、お前も道ずれにしてやっから」
そんなケンカの売買は大空洞中に響いた。だが一人の声がそれを遮る。
「二人とも静かに!」
ケンカの売買以上に響く声は颯太の意識を声の発生源に向けさせた。
そこには両手にナイフを持ち臨戦態勢に入ったエリカが巨魚達を睨んでいた。
エリカは深呼吸をして息を整えると巨魚にも劣れを取らない程の瞬発力で巨魚の群れに飛び込む。
巨魚達は殺気を感じたのか猛スピードで走るエリカに向けて口から体液らしき物を一斉に吐いた。
体液がエリカに当たる直前でエリカは一瞬踏み込み、巨魚の身長を軽々超える程の背面跳びをして巨魚の視界から外れた。
巨魚にしてみれば体液をかけた相手が消えたかのように見えた。
またもや敵を見失い必死に探す巨魚達の真上でエリカは低い小声で口ずさんだ。
「──私たちの家族に手を出して、ただですむと思うなよ?」
次の瞬間、糸が切れた人形のように巨魚達が白目を向いて次々に倒れていく。
視認することの許されない速度は颯太に恐怖を植え付けると同時に家族と言ってくれた事に嬉しさも感じていた。
タクマは掴んでいるツルを離し上手く着地する。
「よっと。いや~さっすがエリカ、お兄ちゃん惚れ直すよ」
「兄貴に惚れられて微塵も嬉しいと思ったことないよ……これからもね」
「惚れ直す前に早く俺を降……」
「おっと、すまん。妹に献上する肉かと思ってた。まさか新人君だったとは」
自由落下させ顔面を地面に叩きつけられた颯太は鼻を押さえながら、
「痛つつ、誰がそのまま手を離せっつたよ」
「あぁ?お前が降ろせっつたんだろうが」
「そこまでっ!言い争いは思う存分家でしてくれていいから、今はこれ持って帰るよ」
エリカがまたもやケンカを止めたあといかにも空腹で倒れそうな颯太の方を向き、
「どうせソウタはまだ一口も食べてないんでしょ?初日だし今日だけは特別。明日からはちゃんと自分で狩るように」
「はい……頑張ります……」
颯太は年下の子に無力な自分を指摘され落ち込みながら返事をした。
そのあとエリカに命令されたタクマが喜びながら巨魚を取引所へ運ぶことになった。
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