取引
エリカに案内され洞窟を無事脱出し小屋に帰る頃にはすでに昼過ぎであった。
驚いたことにエリカ曰く、あの大空洞は兄妹が掘ったもので、巨魚もよそから連れてきたであった。つまり颯太の概念的に養殖である。あそこの泉は魚の育ちがよくって言うか肥大化するらしくその分、脂身が付くから高値で取引できるらしい。しかし、肥大化し取引に出せる位に成長するまでの期間が三年程掛かるらしく安定した収入だが期間が長すぎるため宛にはできないらしい。
「確かにもうすぐあの魚を取引にだすつもりだったけど、取ってしまったのはしょうがない。ただ、すぐ出しに行かなきゃ鮮度が落ちるから取引が終わるまで食事は待っててもらえる?」
「あぁ、分かった……」
どうやらその取引が終わるまで食事はお預けらしい。まさに自業自得、颯太は空腹から腹が痛くなっているのを押さえながら納得した。
颯太の様子を見たエリカは気掛かりそうに悩む仕草をとった。
そして何かひらめき両手を合わせ、小屋中が明るく照らされるような笑みで颯太を見つめた。
「……そうだ!ソウタも取引所に来てよ。あそこなら出店もあるし、これからソウタもお世話になるだろう人も沢山いるから、ね?」
「そうだな。何か食べれるなら是非もない。それと、聞きたいことがあるんだそこで色々質問してもいいか?」
「うん!どんどん聞いて、答えられるものは全部答えるよ。──それじゃあ決定ね。あのシスコン兄貴が魚を運び終わる頃に取引所に向かうよー」
エリカは拳を握りしめて目一杯天井に突き上げた。
それに合わせて颯太も「おー」と言いながら弱々しく同じ仕草をした。
***************
騒がしい取引所の一角で一際目立つ魚を眺める二人がいた。
「こりゃまた随分早くあげたものだねぇ、前回より少し身が落ちてないかい?予定通りの後半月待てばもっと上がったろうに。なんだい、やむを得ない理由でもあったのかい?」
キノコ頭の老婆は積み上げられた六匹の魚を品定めするように凝視しながらタクマに疑問を投げかけた。
「まぁ色々とな……で、どうなのこの六匹、今どのくらい?」
タクマはあどけなく返すと単刀直入に魚の値を聞く。
老婆は積み上げられた一匹を取りだし触れて魚の鑑定をし始める。
「そうさねぇ……やっぱり身が落ちてる分かなり値は降下するねぇ、でもこの切り口は天晴れな物だよ。ほら、切ってあるのに頭が落ちないじゃないか。どうせ妹さんが入れたものだろ?その妹さんの顔をたてても一匹銀五が妥当かねぇ」
「俺の妹を評価してくれんのはありがたいが、それにしちゃ背丈と共に随分と目線が低くなってんじゃないか?オバサン、金二」
「おや、若僧の癖に減らず口を叩くじゃないか、クソガキ。金一、これ以上の交渉は破綻とさせていただくよ」
老婆は早めに切り上げたいのか強制的に交渉を終わらせに来た。
それをタクマは満足げな笑みで承諾する。
「あぁ成立でいいよ。これでも我が家のアド箱なんでね。少しでも値を上げてもらわなきゃ困る」
老婆は気に食わなそうにタクマを見ながら美女の横顔が描かれた金貨を六枚渡した。
タクマは受け取った金貨を小袋にしまいこみ取引所を後にした。
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