第17話蕃野みくりの偏執的恋愛

 私は、自分が無力だと知っている。

 あの日、あの村で、英睦月が私の家族を惨殺、いや、私が家族を殺してから、私は大嫌いだった魔術に向き合うことになった。良き師匠にも恵まれ、日々研鑽をつんできた。

――すべては、あの女を殺すために。

 だが、あの女の行方は杳として知れなかった。

 もどかしく思う私の前に、あざ笑うかのように現れたのが、今はアルスと名乗っている、私の前を歩く少女。

 そしてもう一人。

「あのオッさん怖かったな~。まさに鬼って感じだった…」

 待機の指示を守らなかったばかりに警察署でこってり絞られ、疲れ気味でアルスの隣を歩く野々上春哉。ぐるぐると肩を回したりして、体をほぐしている。

 前者は私を絶望の谷に突き落とし、後者は私に救いの手を差し伸べてくれた。今日起こったできごとも、きっとそんな救いだったのだろう。

 そんな、私を救ってくれた野々上が、私はたぶん好きで、気が付けば…


「だからね、お兄ちゃん! この人、絶対ストーカーなんだって!!」

「な、なな、何を言うかっ!?」


***

 

 時は戻り。春哉たちが取り調べを受けているその最中。

 英睦月は、少し不満そうだった。

「あーあー、春ちゃんに会いたかったなあ」

 口を尖らせ、ぶらぶらと手提げを振り回す。

「結局会ったのはみくりさんだけだし。アルスにも会いたかったし…」

 名残惜しそうにぶつぶつ言う睦月は、人質騒ぎが収まる一足先にショッピングセンターから出て、やがてさびれたシャッター街へと足を踏み入れていた。

「睦月」

「んー?」

 とある商店の跡地に立っていたのは、春哉と同じくらいの年の少年だった。茶髪で長身、その立ち姿は年齢に似つかわしくなく威容がある。

「おかえり、どうだった?」

「んー、まあ上々かな?」

「のわりには不満そうだな」

「ふふ、わかっちゃう?」

 くすりと睦月は笑って、ショッピングセンターの方角の空を見上げた。

「思った以上に危なくて、すごい力だったわ」

 その笑みはより深く、見る者を凍らせる笑みへと変貌していく。

「神様はきっと、間違うのが好きなのね。よりによって、あの子にあんな力を与えるなんて」

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