第16話 救いの力と全くの偶然②

 まったく微動だにしない人質たち。まるで人形のようだ。

 蕃野も同じく動かない。この不可思議な状況をどうしたものだろうか。

「なあアルス。お前、確か精神系が得意なんだよな? おそらくあれは操られてると思うんだが、あの人たちの洗脳を解けないのか?」

 隣のアルスに聞いてみる。しかし、アルスは申し訳なさそうな顔をしていた。

「ごめんねお兄ちゃん。アレをかけたのは睦月様だから、私には解くのは無理」

「睦月だから?」

「私より格上の魔術師だからね、あの人は。私の魔力じゃこの洗脳は解けないの」

「……一応聞いておくんだけど、お前がその睦月ってやつに忠誠心を持ってるから嘘ついてるわけじゃないよな?」

 そう聞くと、アルスは心外だとでもいうように頬を膨らませた。かわいい。やはり、あの不可思議で曖昧な笑顔より、こっちのほうがよっぽどいい。

「むう。いい? 私は睦月様の奴隷だけど、お兄ちゃんの妹でもあるんだからね? そんなに苦しそうにあの女を見ているお兄ちゃんに嘘つけるわけないよ」

「……そうか、ありがとう」

 アルスの睦月への執着は相変わらず。でも、いつしかその呪縛が解ける日も来るのだろうか。

 俺は温かいものを心に感じ、眼下の人質たちを見下ろす。しかし、次にアルスから紡がれた言葉は、再度俺の心を凍らせた。

「でも、睦月様は、用が済んだ人間たちはしちゃうから……。私も、そんなところは……」

 本当に苦しそうに紡がれた言葉。アルスも睦月に従いながら、あの人の残虐性を見て来て、心が揺れているのだろう。

「……そうか」

 彼ら、彼女らは、蕃野を押さえつけ、痛めつけるためだけに操られ、おそらく人知れず殺される。それはかもしれないし、他殺かもしれない。

「どうせ、死ぬんだな」

 冷え切った俺の心は、とある感情を宿していた。俺の言葉に、アルスは怪訝そうな顔をした。

「それならさ」



 俺が思うままを口にした、その時だった。

「全員、動くな!……なんだ、この状況?」

 雪崩れるように入って来た機動隊に、人質たちは悲鳴をあげた。

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