第10話 ショッピングに行こう②
アルスは靴を見ては疑問符を浮かべていた。
「……どうしたんだ?」
疑問に思って聞くと、何を選んでいいかわからない、とのこと。
スニーカーにパンプス、サンダルも種類が豊富だ。俺もわからない。
「気に入ったものでいいんじゃないか?」
「ううーん」
しばらく悩んだ末に、アルスは、
「待たせちゃうし、先に服を選んでからでいいかなあ?」
と言ったのであった。
俺は快く了承した。
「わかった、どんなものがいい?」
「え、えーと……」
アルスはしばらく黙り……
「動きやすいもの」
抽象的だ。俺もあんまりファッションに詳しくはないので、困ってしまう。
「まあいいや、せっかく時間はあるんだし、順に見て行こう」
「うん!」
5階まではエスカレーターで行くことにし、その間に俺はアルスから、アルスの魔術の欠点を聞いた。
「私は何かを生み出す魔術は苦手なの。何かを生み出す魔術が使える空間は限られていて、いつでもどこでも何かを生み出すといったものは無理。野々上家の部屋では物は作れるけど、それを持ち出すことはできないの。だから、昨日はお母さんが急いで私の食器やパジャマや、今着てる服を買って来てくれたの」
「ああなるほど」
要するに、あの物置部屋に注力しているから、服や靴といった、身に着けるタイプのものや、台所にあるものが生み出せないということだろう。難儀なことだ。
「それで、ショッピングに付き合ってほしいってわけか」
「うん。あ、お金は大丈夫だよ! 睦月様からいっぱいもらってきたから!」
「いや…」
俺は断ろうとしたが、やめておいた。一介の高校生が小遣いとはいえ親の金をどや顔で使うわけにはいかないし、睦月の金を使った方がいい。
「そうか。なんでそんなに持ってるんだ?」
「え? と、たしか、滞在が長くなるだろうからって。私的にはお兄ちゃんにはやく記憶を取り戻して、睦月様のところに帰りたいんだけど……」
この睦月信奉者が! と怒鳴ってやりたいが、アルスは洗脳されているだけだ。いかんいかん。それよりもアルスは今なんて言った?
―――滞在が長くなるだろうから
とすると、睦月にとって、俺が記憶を取り戻さないのは想定内ということになるのだろうか。それとも……。
背筋が冷たくなった。記憶を取り戻していたことを前提にしているとしたら? あの人がなにか別のことを考えていたとしたら?
俺は小さく頭を振って、そのいやな考えを打ち消した。
そうだ俺、今はかわいい妹とのショッピングなんだ。
5階に着き、エスカレータを降りる。眼前に、なんだかいい感じの婦人服売り場が見えた。いい感じというのは、程よく高そうで、落着いた雰囲気の店という意味でのいい感じだ。
「うん、着いた着いた」
先を行くアルスが目の前の店に行こうとした、その時だった。
「待っていたぞ野々上!」
俺は「うげ」とうめいた。この、自信満々な声。間違いない。
「なんだよ
エスカレータの降り口のすぐそばで、強気な笑顔で仁王立ちして待っていたのは、俺の高校のクラスメート、蕃野みくりだった。
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