第9話 ショッピングに行こう①
いきなり買い物に付き合ってくれと言われた俺の返事は「なんで?」というひねりのないものだった。
「えっとねー、これには私の魔術の欠陥がありまして、たはは……詳しいことは後から話したいんだけど……」
たははって笑うやつを俺は始めて見た。少し照れ笑いが混じっているようだ。
とりあえず俺はわが妹アルスと、ショッピングに行くことにしたのだった。
俺が通う高校は今日から冬休みだ。
俺とて明日学校があるというのに、森でぼんやり星を見ていたわけではない。
自宅から駅まで徒歩15分。電車で30分。俺とアルスはにぎわう街の、とあるショッピングセンターに来ていた。
入口の案内図で、目当ての店を確認する。
「えーと? 婦人服売り場は1、2、5、6階か…」
多い。いつも思うが、なぜ分けるんだ。
俺は隣のアルスを見た。目が輝いている。
ちなみに、店に入っていく人々は、なぜか首輪をしていて裸足でいるアルスを見向きもしないで入っていく。アルスによると、人除けの魔術を使っているらしい。本人によれば、「私は普通の女の子に見えるはずだよ」とのこと。そんな面倒くさいことをするなら、首輪を外して靴を履けばいい。……靴ぐらいならアルスも譲歩してくれるだろう。
そんなことを考え、俺は一人で勝手に頷いた。まずは靴だ。冬の真っただ中、靴も履かないでいるなんて寒いに違いない。
「よし、この一階の靴のソネヤマに行くぞアルス」
「え? 私、靴は……」
「お前が何を考えて靴を履かないか知らないが、なんだか俺が鬼畜なことをしているみたいな気分になるんだ。頼むから履いてくれ。それが俺の譲歩だ」
俺が首輪に目線を送りながら言うと、アルスも観念したのか、こくりと頷いた。
***
屋上。進入禁止の場所にいとも簡単にもぐりこみ、少女は手すりにもたれかかっている。
携帯端末を持ち、笑いながら誰かに報告する。
「やっと、やっとだ……! あの女への手がかりが現れた!!」
憎悪と歓喜が同居しているような表情で、頬を紅潮させながら、涼やかな顔に似合わない笑い方を続ける少女。
「そうだ、英睦月の使者だ! これが笑わずにいられるか! ようやく、復讐の幕を開けることができるんだからな……! ん? ああ、そうだな。わかった。それには気を付けることとしよう。では」
通話を切った少女の、高いところでくくった黒髪が風になぶられる。風が少女の紅潮した頬を撫で、少女は少し冷静さを取り戻した。
使者の隣にいた少年を思い出して、少女は柔らかな笑みで呟く。
「この作戦の障害は、野々上……お前だな」
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