第八話
『ねえねえ、広助くん。』
「え?」
僕はいつのまにか周りが黒い霧で覆われていたようだ。今は物も見えないところに一人で座っていた。風がほんのり冷たい。気配を気にしながら手を付きゆっくり立ち上がった。
『私だよ?覚えてない?』
覚えてない?僕が?聞いたことがあるような感覚が襲う。人違いじゃないのか?思うまま話そうとすると、さっき聞こえた声に話しかけようとした。その瞬間。
__命と同じくらい大切なものは何?__
ハッ!! 急に目を冷ました。 隣から『ピーポーピーポー』と、救急車の音が聞こえてくる。音がする方向の窓を覗いてみると、向かいの家のおじいさんが倒れて運ばれて行った。
「おじいさん。どうかしたんですか?」
「あら広助くん。実はあの人、急にお腹抱えて椅子にすがり付くようにもたれかかってね、息苦しそうだったから救急車を呼んだのよ。」
あのおじいさんの奥さんはついていかないのか聞いたら、介護のひとがいるからと安心そうにしていた。……普通愛する人が倒れていたら驚くものなのではないのか?なんかさめざめとしていた。喧嘩でもあったのかな。
実はあのおじいさんには前々からお世話になっていたこともあった。小学生の頃、毎日のようにおじいさんの家にいって、カブトムシを見て楽しんでいたことがある。大丈夫か解らないけれど、帰ってきたら知らせるようにって奥さんに言い、自分の家へ戻った。
僕はまたパソコンの前に座った。椅子がギシギシ言ったのが身にしみて感じる。この計画をそろそろ進めようと、改めてパソコンを起動した。
Elza……。なぜ今更メールを送ったのか。この先に、いつもと違った展開があるのか?すぐ考えなくてはならなかった気がしたが、なんとなく後回しにしてしまった。手元にあったヘッドフォンを被せ、お気に入りの曲を流した。残りやることは、本番に備えての時間設定だ。警備員が昼食でいない数分で決行するのだ。最初から時間を決めなければ、下手したらすぐ捕まってしまう。明日は下見に行こう。いや、最初に防犯カメラに映っても厄介だ。前は上手くいったのに、さて、どうしたものか。……まてまて、今日は休んだが、明日は木曜日。学校があった。下見に行けない。しょうがない。明日は学校でメールアドレスの持ち主を探そう。話はそれからの方が、なんとなく。なんとなくだけど、スムーズに行く気がする。
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