第四話


『キーンコーンカーン……』


「間に合ったか!?」


なんとかギリギリ、チャイムがなっている最中に教室のドアを開けることができた。皆はもう座っていて、担任は……まだ来ていない。


「おい中島おせえっての!」


「また寝坊したのー?」


わるいわるいと言いながらゆっくり歩き、一番窓側の前から3列目の席に座る。外からの日差しが机に反射して少し眩しかった。それに冬とは思えない暖かい風が入ってきた。

3年4組は、結構皆仲が良くて有名だ。僕もここでの友達は僕も結構いる。毎日休み時間や放課後に遊んだり勉強したりそのなかでも一番仲がいいのはコイツ、黒木健斗くろきけんと。俺の席の斜め前だ。


「光輝、おせえよ」


「わるいな、考え事してた。」


「お前が考え事?はっ、今日は午後にでも雪が降りそうだな。」


「うるせー」


こんな奴でも凄いところはある。健斗はああ見えても美術部で、確か夏では金賞を取ったんだ。見に行ったけれど、なんというか芸術的すぎて、僕には絵的美センスは無いけれど、感動する作品だった。それに彼女もいる、今アイツが隣で話している女子、久万希望くまのぞみ。久万も美術部に入っていて、同じく健斗と同じ、金賞を受賞していた。そんなところよりも、もっとすごいのは、夏に報道された、『最年少天才小説家、瀬戸優月、長期休業』の張本人がアイツだ。俺も何冊かは読んだが、すげぇ怖い本ばかりだしてた。ゾクゾクするくらい。確かシリーズ物を読んだんだけれど、何て言ったかな、『恨みの手紙』だったかな、今までで一番怖かった本だった。もう当分読んでない。と言うか、もう読めない。怖すぎて。


その二人は星野來末ほしのくみや、垣沢翔貴かきざわしょうきと仲が良く、休日には遊んだり、夏休みには泊まりにも行ったって言っていた。今じゃとても有名なグループだ。


やがて担任が入ってきた。名前は神崎美奈子かんざきみなこ先生。先生もこれまた美術部の顧問だけれど、実際は絵を描かないでアニメとかを作るのが得意らしい。たまに授業で分かりやすく説明するためにアニメを作ったりしている。だけれどそんな先生もおっちょこちょいなところがあって、前なんか寝坊して遅刻して、来たのが11時半だったんだよなぁ。寝癖が酷くて。あれは面白かった。


「さ、皆さん。高校入試のための勉強は順調ですか?もうあと何ヵ月かすれば本番です。毎日欠かさず進んでいきましょう。」




・・



『キーンコーンカーンコーン』


帰りのチャイムが鳴った。薄々気づいていたけれど、僕は多分未来の事が分かっているようで分かっていない。だって今日の理科の実験、結果も知っていたし、予想通り、クラスの男子が実験器具を落としてばらまいて怒られたのも覚えていた。いや、やっぱりなのか?朝も同じことを思ったが、理科の実験の内容や、英語の小テストの英文の答え、ここまで事前にわかったとなれば少し話が矛盾してしまう。けれどお弁当のときや、休み時間のことはほとんど覚えていなかった。ところどころ覚えているってことなのか。この現象はなんなんだ。予知夢でも見たのか。でも昨日見た夢は……。ひとつ考えが頭をよぎった。もし仮に僕が、時間をしていたとしたら?と。えられない話でもない。だけれど逆にそれを裏付ける証拠もない。変な考えが出たものだ。頭の裏側の小さな隅っこにでもしまっといてあげよう。


それにしても今日の帰り道は人で溢れ帰っている。そうか、もうそろそろクリスマスなのか。駅の前では、広場の中心にクリスマスツリーが飾られ、お店にもそれらしき飾りがたくさん飾られていた。広場にも人が多く、二人でくっついた男女、今で言うならば、リア充が至るところに散らばっている。皆笑顔だった。もう今年で15になった僕には、当然、サンタさん と言うものは来ないわけで、中島家ではそのような行事はまっさら無縁だった。クリスマスプレゼントもない。ケーキも無く、パーティーすらない。いつも24、25日は五月蝿い祝日。という風にとらえてきた。中学の最後くらい皆とクリスマスパーティーでもしたいな。なんて思っていたら、一瞬変な記憶がフラッシュバックした。このツリーのまえで一人の女の子が倒れているのに誰も助けないこと。けど僕がその子に声をかけて…。そこで記憶は閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る