新しい自殺

@1121421

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 根拠のない虚無感を盾にして生活から逃げようとしていることは自分でも感じている。しかし別に死にたい訳でもない。僕にはビルから飛び降りたりロープで首を縛ったりと、アクロバティックに人生の主電源をOFFにしてしまえるほどの潔さは備わってはいないのだ。人生を愛おしく感じるようになった頃には、両手に余るほどあったはずの時間はつまらないあれこれでほとんど消費されているのだろう。軽やかに時間軸をかけていく日常は、僕の首根っこを捕まえてグングン直進していく。いつか無邪気に引いた好奇心の引き金が、生活の色彩を根こそぎ奪ってしまう解釈の発端となってしまった。前提の欠落した世界で納得のいく理由を手に入れることはできないという直感は、現実の立体感をものすごいスピードで塗りつぶしていく。生活に溢れるあれこれには宿る明らかな存在理由が自分自身の存在の中にはどこにも見当たらないとなると、それまで抱えていた「ぼんやりとした不安」がはっきりと輪郭を持った嫌悪感へと姿を変えてしまうことは想像に難くない。確かに、過去のある地点から僕の生活は勢いよく僕自身から遠ざかり、それまで森羅万象をでたらめに飾り立てていた装飾の数々は音も立てず崩れていったのだ。

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