第二章あるいは、図書館
正しいのか、正しくないのか、ということはあまり意味を持たない。人それぞれにその答えがあり、運が良ければ誰かと共有するだけだ。そんな世界のルールに一石を投じるのがぼくだ。「おそらくこれが答えだろう」と思うものを用意する。それが正しいのかただしくないのかは、ぼくしかわからないのに。
町の人間たちの朝が一段落したころ、おれとカガクシャは粥屋で朝食をとり、そのまま町の中心にある「センター」に向かった。探偵が知らない人間を連れている。そういった視線があちらこちらから向けられ、カガクシャが「客人」であるということにだれもが気付いた。ましてその風変わりな外套は人目を惹く。
「なぁ、会ったときから思っているのだが、その外套、変わっているな。丈は長いが生地はさほど厚くない。防寒の役割を果たすのか?」
「外套? ああ、白衣のことね。これは防寒というよりは、衛星かな。汚れから体を守ったりとか。科学者の基本よ?」
「そうなのか。いかんせん、おれはカガクシャという職業についてよく知らないのでね」
センターに着いたおれは、カガクシャを連れて二階にある「登録課」と呼ばれる受付に向かった。センターは二階建てで一階は町の人間がよく利用する窓口が集中しており、いつも人で溢れ返っている。反面二階はほとんど人がおらず、各窓口も個室になっているため廊下は静まり返っている。気のせいか明かりの照度も抑えられているようでおれはここに来るたびに陰鬱な気持ちになる。
「不気味なところだろう?」
「そうかな? あたしはこういう雰囲気、好き。静謐で、集中出来る」
言い方を変えるだけでこうもこの場の印象が変わるのだな、とおれは苦笑した。そのまま一番奥にあるドアまで行き、ノックをした。しわがれた小さな声で、「どうぞ」と言われるのは毎回のことだった。
窓のない部屋に大きなデスクが一つだけ。そこには小さな眼鏡をかけた白髪の老人が座っている。
「探偵じゃないか。久々だねぇ。お茶でも煎れようか?」
微動だにする気配のない老人におれは首を振る。この老人はおれが断ることを知っている。
「客人だ。登録を頼む。職業はカガクシャだ」
客人はまずここで職業を登録する。それが決められたルールだ。老人はおれの後ろに立っているカガクシャに目線を移した。
「科学者……これはまた珍しい職業だ。探偵、お前さんは科学者がどんな職業か知っているのか?」
老人はかけている眼鏡の奥で目を細めながら笑う。
「知らないんだ。あんたは知っているのか? だったら教えてほしい。この先どうするか、実は少し悩んでいるのでね」
「探偵が悩むのか? それは傑作だ。お前さんには天職かと思っていたが、考え違いだったかね。お嬢さん、こちらの紙に職業と夢を記入しなさい。手続きはそれだけだよ」
老人はおれの質問を無視し、カガクシャに声をかけた。彼女はそれに従い、職業と昨日話した夢を記入する。
「科学者について知りたければ、図書館に行くといい。この職業は、太古に消滅した職業だ。わたしも詳しいことは知らない。なにせ、わたしも祖父から名前を聞いたことがあるだけだからね。はい、終わったよ。この町が馴染むと良いね」
しゃべりながら書類に目を通し印鑑を押した老人はそれを机の引き出しにしまう。おれとカガクシャは礼をいい部屋を出る。
「静謐、ね。辛気臭い、の方がここの表現にはあっているような気がするな」
「それは探偵として? それとも脚本家志望として?」
「いやな言い方だ。まぁ否定はしないが」
「あのおじいさん、あたしの夢を見ても何も言わなかった。昨日あなたはなんだかとても驚いているようだったのに」
「あの老人の頭には、すべての人間の職業と夢が詰まっている。登録者とはそういう職業だ。なかにはもっと、突拍子もないような夢を持っている人間がこの町にはごまんといるということだろう」
センターを出て、図書館を目指すことにする。
町はセンターを中心に、円のような構造になっている。おれの家と図書館はセンターを中心に考えるとちょうど「六時」の関係にある。
「科学者について調べに行くの?」
「そうだ。通常であれば、このあとは同業の“先輩”のもとを訪ね、あんたを紹介し、明日からはその人の下で働くことになる。あとは町の地図を渡し、簡単に案内しておれの仕事は終わり。だが今回はそうはいかない。その“先輩”をおれは知らないからだ。なぁ、カガクシャというのはいったいどういう仕事をするんだ?」
図書館は丘の上に建っている。馬車を呼ぼうかとも思ったが、このまま話しながら歩くことにする。
「様々な方法によってある事象を研究する仕事、っていうのかしら。あと、根拠のないものは信じない。その可能性は追求するけれど、なんて言うのかな……」
「自分でもよくわからない仕事、か。おれもその説明を聞いたところで、カガクシャという仕事がどんな仕事なのか皆目見当もつかない。これはますます図書館に行く必要があるな」
坂道を登り続ける。
「ねぇ、あたしの前にこの町に来た人は、どんな仕事で、どんな夢を持っていたの?」
「音楽家で、夢は男娼だった」
「いいわね。探偵は求められて、応えたの? そうしたらその人の夢は叶った?」
「いや」とおれは首を振る。
「そいつは別にそういう趣味があるわけじゃなかった。だから別に夢を追い求めることもしないだろう。叶わぬ夢ってやつだな。いまはどこで何をしているのか知らない。音楽家として名を挙げた、という話も聞こえてこないな。興味があるのか?」
「いいえ、ただ、なんとなく気になっただけ。あなたは? 最初からこの町にいたの? それともあたしと同じようにどこからかやってきて、こうやって誰かに案内された?」
「前者だ。おれのことについて質問をしたのは、おれが探偵を始めてからあんたが初めてだ。変ってるな、あんたは」
「そう?」
と言ってカガクシャはその場でくるりと回って見せた。
「いい男に興味があるのは、どの女の人も共通だと思うけど? 逆にあなたは、あまりいい女に興味はないみたい」
「そりゃどうも。いい女の前だと照れるのでね。いつもそう思われるんだ」
肩をすくめて見せるとカガクシャは声をだして笑った。確かにいい女だった。
「実はその音楽家と何かがあって、それ以来好みが変わった、とか?」
「余計なことを言っている暇があったら、歩け」
「はいはい」
大抵の客人は、どこか不安を抱えていて、口数はあまり多くない。だからおれもあまり話すことはない。今回のようなケースは初めてだった。カガクシャは今までの客人とはどこか違う。
図書館までの道のりは結構ある。その間におれは、この町の構造や規模について説明した。カガクシャは相槌をうったり、ところどころ質問を挟めながら情報を整理している。
ふと、からみつくような視線を感じた。仕事柄、この視線というものには人一倍敏感になる。案の定、建物のかげから一人の男がこちらを見ていた。おれが気づいたことにきづくと、ニヤニヤと笑いながら、頭だけが先行し、身体を引きずるようにしてこちらに歩み寄ってくる。
「や、やぁ、探偵……ゆ、夢はかなったのか」
どろどろとした声で男は話す。顔はにやけたままだ。カガクシャがおれの後ろで半分身体を隠すように立ち、息を潜めているのがわかる。
「その女……客人? だ、だよね。探偵はいつもひとりぼっちだもの。ゆ、夢はなんなの? 叶う夢? 叶わない夢?」
おれは露骨に舌打ちする。
「叶わない夢などない。偏に努力が足りないと言うんだ。まったく、イヤな職種に会ってしまった。消えろ、視界に入るだけで虫酸が走るんだ。話をしてもらえただけでもありがたく思え」
ポケットから銅貨を一枚取り出すとその男の足下に放り投げる。男はそれをすぐに拾い上げると、不気味な笑い声をあげてもといた場所にそそくさと戻っていった。
「おっかなかった……なんなんの、あの人」
後ろで安堵のため息をつき、カガクシャがおれに尋ねる。再び進み始め、おれは説明する。
「やつらは夢泥棒だ。夢を叶えようとして、失敗した人間がああなる。気をつけろ。やつらはみんなあんな感じだ。出会ったら口をきく必要はない。ただ、何かを差し出すんだ。お金でなくてもいい。帽子などの身につけているものでも、煙草でも。なにか形のあるものを差し出すんだ。それでやつらは消える」
「差し出さなかったら?」
「夢を奪われる。夢をなくすということは、やつらと同じ夢泥棒になるということだ。代わりに盗んだやつは再びもとの仕事に戻り、あらたな夢を手に入れる。
だが何かを与えられれば、夢泥棒は退散するしかない。そういうルールなんだ。だから、与えられそうなものは常に持ち歩いておけ」
しかし夢泥棒に会う確率はあまり高くない。やつらは基本、無気力で、怠惰だ。大抵は家族が彼らを養う。今日のようなことは稀だし、相手はおれが探偵だと知っていて接触してきただけだろう。
「夢を叶えようとしてかなえられなかった人間。高いたかい階段を上っていって、最後の一段で踏み外して転落するっていうことでしょ。だったら夢泥棒は結構たくさんいるの?」
「いや、みんなああなるのが怖いから、夢をあきらめるんだ。あきらめることは、失敗じゃない。だから夢泥棒にはならない。だけど夢を失うのは同じだ。一度夢をあきらめた人間は、二度と夢を見ることはない」
わずかの沈黙のあと、カガクシャは尋ねた。
「あなたは、怖くない? 階段を踏み外すこと」
その問いは一瞬だけおれの思考を停止させた。だが、悩むほどのことではない。おれは首を振る。
「夢のない日常のほうが、おれは何倍も恐ろしい」
それから三十分程度煉瓦造りの坂道を登り、丘の頂上にある図書館の前に着いた。ここも普段は人が少ない施設として挙げられる一つだった。かなりの蔵書があるにも関わらず、読めない文字で書かれている本が多いからだ。
煉瓦作りの巨大な建物。四階建てで町の施設の中では劇場に次ぐ大きさを持っている。一階は解読が可能な本で、二階以降はそうではない本がそれぞれ収められている。
「ここ、図書館? そうだと言われればきっとそれらしく見えるんだろうけど、そういう前情報が無ければどこかの……そう、お金持ちの人が住むお屋敷みたい」
重厚な雰囲気の建物の外壁はツタで覆われており、自分の背より高い扉は確かに彼女が持つような印象を与える。
「図書館だよ。守人がいるだけのな」
重いドアを開ける。開けづらいということはないが、軋むような音が鳴る。
中は限りなく輝度が抑えられた明かりがところどころ灯っているだけで、まるで夜のようだった。正面にカウンタがあり、ランプが置いてあるためそこだけ浮かび上がるように明るい。守人の老婆がゆっくりと顔を上げおれたちを見た。カガクシャが後ろで扉を閉め、図書館は再び閉ざされた世界となる。
守人は立ち上がるとにこやかに笑った。背が高く、シルバとグレイの混じった髪をきれいに結い上げている。姿勢が良く歳を感じさせない印象だ。
「あら、これは珍客だわ。探偵が図書館に来るなんて。なにか本をお探しなの?」
「そうでなければ、ここには来ません、知識の守人」
彼女は嬉しそうに笑った。
「まぁ、まだそんな風にわたしを呼んでくれる人がいたのね、嬉しいわ。でもそんなに気を遣わなくていいのよ。お客さん自体少ないのだから、本の在処を教えない、なんていじわるはしませんから。司書、と呼んでいただいてかまわないわ」
以前は司書を「知識の守人」と呼んでいたという話を、おれは町の最長老から聞いたことがあった。守人はこの膨大な蔵書をすべて把握しており、また読むことが出来る。守人に尋ねなければ本はどこにあるかわからないし、読むことも出来ない。だから図書館に行った際は守人に敬意を払えと教えられた。
図書館に来るのは初めてだった。いままでは自分の足で歩き、見聞したもののみを信じてきた。だがその考えも改めなければならない。守人はもっと厳格、もしくは傲慢な人物かと思っていたが、そうとは限らないようだ。
「では、守人、と。過去に消滅した職業について記述した本をさがしています。カガクシャ、という職業です」
「カガクシャ、という職業に特化して記述された本はないわ。でも、大抵の職業について情報が記された本があるのよ。それを見てみると良いのじゃないかしら」
守人はカウンタに置いてあったランプを持ち歩き始める。そのあとに続き一階の奥へと案内された。奥に行けばいくほど暗くなっていき、しまいには自分たちがいる周りだけがランプで浮かび上がり、暗闇の中を歩くような感覚は、平衡感覚と距離感を奪う。
この図書館はこんなに奥行きがあっただろうか、と思った。おれは後ろを振り返りたい衝動に駆られる。だが黙って歩く守人の背中がそれを禁止しているようであり、またこの明かりから目をそらした瞬間に、それを見失ってしまうのではないかという恐怖もあった。
目的の書架にたどり着いたのか、守人は左の棚を上から順に指を指して追う。真ん中より一つ上の棚で、進んだ指が僅かに戻り、一冊の本を取りだした。
「この本よ」
それはどこにでもありそうな普通の本だった。豪奢な装飾が施された装丁なわけでもなく、古めかしいわけでもない。ただ、比較的厚みがある。
「すぐそこにテーブルと椅子があるから、そこで調べものをするといいわ。ランプは置いていくので、帰るときに持ってきてちょうだい。火事にだけは気をつけて」
「ありがとうございます。しかしランプを置いていったら守人が戻れないのでは?」
「あら、不思議な心配をされるのね。別に真っ暗闇というわけではないし、すぐそこに戻るだけよ」
「えっ?」
気がつくといつの間にか薄暗い明かりがついている。振り返るとほんの数十歩先にカウンタの一部が見えた。
「そんな馬鹿な……。確かに暗闇の中を歩いてきたのに!」
驚嘆の声をあげずにはいられない。あの永遠とも思える暗闇はなんだったのだろうか。
「きっとあなたは知識の闇に襲われたのね。図書館という場所は、それ自体が知識を求める意識のようなもの。本だけでは飽きたらず、人の精神さえも知識の一部として取り込もうとしてしまう。飲み込まれなかったのはさすが探偵、ということかしら」
知識の闇、という未知のものに対する実感はないが、あのとき守人から目をそらしてはいけない、と思った自分の感覚は正しかったのだと思った。後ろを振り返ったらどうなっていたのか、と考えただけで恐ろしい。
「あたしもよ。長いながい暗闇を歩いているようだった。すごく振り返りたい衝動に駆られたのだけれど、なにか嫌な予感がして、やめた。虫の知らせってやつ?」
守人がカウンタに戻り、机を挟んで迎え合わせに座るとカガクシャは言った。
「虫の知らせ? なんだそれは」
「ええと、それはね……」
カガクシャはのどを詰まらせたような声を出し、そこで口を開けたまま止まり、目をキョロキョロとさせる。変わった仕草だったが、これは客人が時々行うものだった。
「まぁ、いいさ。それよりカガクシャについて調べてみよう。“か”だろう? えぇと、あぁ、あった。科学者。あんたの言う科学者っていうのはこれで違いないかい?」
「ええ、間違いない。字もあってるし。説明文もおおかたあたしが話したことと類似しているし」
「科学者、ね。説明文もよくわからないな……自然がどうのこうのと書いてあるが……ん、おい、ここを見ろ。科学者が消滅したわけが書かれてる」
おれが指さした部分を科学者が身を乗り出してみる。
「科学者は、研究費という名目のもと国の財源、すなわち、国民の税金を多大に浪費し、最終的にいくつかの国は科学者によって滅ぼされたと言っても過言ではない。
また、技術は常に進歩していくと思われたが、ある時期から(人類が月に移住を始めたあたりから)その歩みを止め、その役目を果たし始めたことも併せ、少しずつ姿を消していった。
それでも貪欲な人間(たとえば黒社会、ノワール、もしくは各国の秘密裏ななんらかの組織等)は、内密に科学者を集め、引き続き他者を出し抜くための研究を続けさせる。
そのような事態を重く見た連邦政府は、全世界に科学者という職業を禁止する通知を出す。各国の司法、立法、行政機関はこれに呼応し、科学者という職業は消滅した。
……と、いうことだ。意味、わかるか?」
科学者は首を横に振る。
「あたしがわかったのは、いくつかの国が科学者によって滅ぼされたということと、科学者という職業は 禁止され、消滅したということ。他の部分は、読めるけれど意味はわからない」
科学者はそれがとても気持ち悪いこと、というように両腕で身体を包む。苛立ちの表情。自身の職業について詳細が不明であることと、自身の存在を重ね合わせているようだとおれは思った。客人は一度、必ず同じ疑問を持つ。「わたしはだれ?」という疑問だ。この町で生まれ育ったおれにその感覚はわからない。子ども、青年、探偵と職業を変え生きてきた。その時そのときの職業が自分だった。客人も職業を全うするうちに、そんな疑問は忘れてしまう。だが今回のように、何をしていいのかわからない職業の場合、一体どうなるのか。
「おれと大して変わらない感想だ。まぁしょうがない。次をあたろう。ここで得られる情報がまだあるとは思えない」
「こんなに本があるんだから、探せば他にもなにか手がかりがあるんじゃない?」
「それなら最初に守人が言うはずだ。自力で探そうにもどこになにがあるかわからないし、それにおれはやっぱり、歩いている方が好きだ」
一瞬呆れたような顔をしたが、苦笑いで大げさにため息をついておれの意見を肯定してくれた。本を棚に戻すとランプを持ちカウンタに戻る。今回は闇に迷い込むことなくすぐにたどり着いた。
「もう帰ってしまうの?」
守人が残念そうに言う。
「またいつでも来てちょうだいね。知恵の闇に襲われたあなた方はどうやら、まだここにはない知識をお持ちのようだから。知識の守人としては、そういう人たちは大切にしたいのよ」
その笑顔はとても穏やかだった。だがおれは、守人の後ろから目をそらせないでいる。
闇だった。守人の後ろを、先ほど迷い込んだ闇と同じものが、音を立てずにうねり、蠢いている。
「本当、いつでもいらしてね。お待ちしているわ」
知識の守人。この町の知識を、“永遠に”守る職業……。
おれは頭だけ下げると、声を出さず、科学者の手を取り、可能な限り急ぎ足で図書館をあとにした。
外はもう少しで十五時になろうといていた。目眩するくらいの解放感がある。振り返りそこにある図書館を見上げると、入る前よりさらに重い雰囲気に感じた。
「不思議な場所だった。知識の闇の話って、結局なんだったのかしら」
この町ではよく人がいなくなる。まさか、と思ったがその考えは口にしなかった。なぜかそれが、ルール違反のような気がした。
その考えを打ち消す代わりに、おれはおどけて肩をすくめる。
「モウロクしているわけじゃなさそうだったが、長いことああいう場所にいると、いろいろ見えてくることもあるんだろう。もしかしたら、ただ少しだけからかわれたのかもしれない。まぁいいさ。ここは町の外れにある、どこになにがあるかわからない、大半が読めない本を置く図書館だ。日常生活で利用することはほとんどないから、“ここに図書館がある”、くらいの認識でいればいい」
遠まわしに、ここには来ないようにと伝えたつもりだが、それが科学者に伝わったかどうかはわからない。
町の中心部まで戻り、露店でパンとミルクを買ったおれらは、公園のベンチに腰掛けて休息をとった。
「このあとはどうするの? 科学者について有力な情報はないけれど、明日からあたし、どうすればいいんでしょう」
科学者はさして困った様子もなく訊く。
「……夜の町に出てみようと思う。いつもであれば、あらかた説明を終え、最後の夜に送別会を兼ねて行くんだが、何かわかるかもしれない」
「あたし、ずっとこのままでもいいんだけどね。気楽な感じがする」
「それはルール違反だ」
ヘンなルール、と彼女は言い、残っているパンをまた食べ始めた。
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