T氏
僕がすっかり汚い身なりをした彼に会ったのは、それから1月後だった。
偶然降りた駅で一服しようと徘徊している時だった。その駅は変わった構造をしていて、ロータリーがドーナッツ状になり、屋根がついていて道がそこで終わっていた。何のためのロータリーだろうとわからず、このロータリーの抜け方を歩きながら見つけ出そうとしている時、1人のホームレスに出会った。それがあの、会社で奇妙な動きをしていた高山氏だった。目は死んだようになり、一瞬本人だと見分けがつかなかった。それでもすぐわかったのは上手く返せない掌の動きからだった。彼は段ボールを抱えていたのだが、内側に来る方の手に関しては、甲で押さえていた。外側の手で必死で抑えなければならず、段ボールはしょっちゅうずり落ちていた。仕事の間も、書類を渡す時にしょっちゅう落としていた。そのせいか、コピーを頼まれても無視する場面がしばしば見受けられた。
「高山さん!」
僕は声をかけた。僕はとても驚いたのだが、恐らくここで出会えたのは奇跡だった。何より今の自分の気持ちを分かち合える仲間が欲しかった。すると彼は怯えて足早に僕から逃げて行った。
「待ってください!葛原主任、知っていますよね。」
そういうと彼は振り返り、僕を凝視した。
僕は彼とロータリーから少し歩いたところにある、周囲から塀で囲まれている公園に向かった。
そこで缶コーヒーを彼に渡すと、彼はそれをむさぼるようにして飲んだ。
一通り主任の話をすると、高山は空になった缶をじっと見つめ、黙り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。