第2話B中学校②
僕は転校する際、転入先の中学校をテキトーに選んではいない。自分なりの基準がある。それは、可愛い女の子がいるかいないかだ。僕は転校すると決めた日には、家から転入候補の中学校のホームページを見て、学校の活動紹介でもなんでも良いが、そこに貼られている画像に可愛い女の子が写っているかどうかで決めている。まあ僕としてもこの方法は大雑把なものだと感じてるんだけど、転入候補の中学校に忍び込む訳にもいかないので妥協している。そのため見誤りは多い。可愛い女の子が写りこんでいても、それは四年前の写真で、今はもう在校していないなんてのはザラ。学校のホームページとか誰も見ねえから、自ずと更新頻度が少なくなるのは分かるが、せめて一年に一回は更新してもらいたいものだよ。そんな中でも一番タチの悪いのは、ホームページに載っている可愛い女の子が他校の生徒だった場合。中央に堂々と写ってやがったら、誰だってここの生徒と勘違いするだろ。しかも後々調べたら高校生って……学校側にはもう少し配慮してほしい。そんな感じでやっぱりこの方法だとハズレばかし引いてしまう。大まかな指標だからそれでもいいんだが、それにしてもね、これまで幾度も転校転入をしてきて、可愛い女の子が一人もいないってのは確率的におかしいじゃないかなんて思ってしまう。別に僕は高望みしてるつもりはないのに。言い方が悪いかもしれないが、これまで僕の転入する学校には、揃いも揃ってブスしかいなかった。美人薄命といえども美人が中学生になる前に全滅しているとは流石に思えないし「これは神様のイタズラか」と、悲劇の主人公を独り、部屋で物寂しく演じたことだってあった。だからとてつもなく嬉しいのだ。B中学校に、僕の属するクラスに、僕好みの可愛い女の子がいたことが。
B中学校二年F組、出席番号二十二番、木倉井 優美(きぐらい ゆうび)。普通、優美なんて名前負けしちゃう奴が殆どだろうに、この人の場合、名前勝ちしちゃっている。圧勝だ。他人の名前なんて覚えたことのない僕が、初めて覚えようとした名前。それぐらい木倉井さんの存在は圧倒的だった。
時を遡り転校初日、大爆笑な自己紹介を済ませた僕は、担任に指定された後ろの方の空席に向かう途中、ふと視界に木倉井さんの姿が写りこんだ。瞬間、目の悪い僕でも直ぐに悟ってしまった。この人こそ、僕の長年探してきた理想の女の子だと。クンカクンカしたいくらい手入れの行き届いた緑の黒髪。病的とも健康的とも言えないが、とりあえずペロペロしたくなるような白く透き通った肌。精密機械が操作したのではないかと、疑ってもいいくらい完璧な位置に定置してある目、鼻、眉、口は、ディテールも文句無しだ。嗚呼レロレロしたい。どんな生活をしていたらこんな解語の花に成長するのか、同じ人類とは到底思えない。下手するとテレビに出ている美人モデルよりも美人なんじゃないか。僕は木倉井さんの友人でもなんでもないけど、木倉井さんのプロフィールを勝手に何かしらの女性アイドルのオーディションに送りつけたい気分だよ。一瞬でこんなに考えが走馬灯の様に頭の中を行き交った。それと同時に僕は、この人と仲良くなりたいと感懐を抱いたので、転校することを辞めようと思い立ったのだ。
衝撃冷めやらぬ転校初日から二週間。僕は臆病者なので、今の今まで木倉井さんとは一言も話をしていない。つーか、これまで他人に自分から話しかけるなんて行為は未経験なので、どうすればいいのかが分からない。しかも異性だぞ。ますます分からない。無理に話しかけて、失敗しちゃったらどうすんだよ。という不安が僕を更に消極的にさせる。それでもしばらく観察していて感じ取れた由がある。木倉井さんには友達が多分いない。いるかもしれないが、少なくともこのクラスの中にはいないだろう。僕の四列ばかし前の席が木倉井さんの席なんだけど、基本的にそこから全然離れないし、休み時間になっても木倉井さんの周りに人は寄ってこないってのが、そう思うに至った経緯だ。容貌端正、孤立無援、そんな木倉井さんには、どこかシンパシーを感じる。気になったのでこの前、同じグループの奴等にドサクサに紛れ木倉井さんの事を聞いた。すると以外な事実が判明。どうやら彼女は僕がくる一日前にここへ転入してきたらしい。くそ、一日決断を早めていれば、自己紹介の時とか二人で一緒に並べたのに、もしかしたらお話出来たかもしれないのになあ。どうしようもない件を悔い改めながら、僕は今日も自席で勉強をするふりをしながら詩を書く。内容は勿論、全て木倉井さんについてだ。(時分が臆病者で本当良かったとほっとする。じゃなければ、何度警察に厄介となってることやら。トホホ……)
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