第1話A中学校⑥

四月十八日月曜日、爽やかな朝。今日もイケメンな僕は、自らが練った完璧な計画を実行に移そうと考えながら「フフフフフフ」なんて不敵に笑い声をあげながら学校へ行く準備をしている。(この頃の僕は、多方面からとても影響を受けていた。例えば、真夏でも厚手のコートを羽織って学校に行ってみたり、片目を隠した髪型にしてみたりしていた。俗にいう中二病、イタい人ってやつだと思う。ちなみに「フフフフフフ」という作り笑いは当時流行っていた漫画の影響だ。僕はこの笑いかたを高校二年生まで採用していたんだが、それはまた別の話)


家を出るため、上がり框で靴を履いていた途中、ふと、あることが脳裏に浮かんできた。そこで気づいた。僕が重且つ大なことを見落としていたことに。それは、『発火装置を何処で入手すべきか』。設置場所を模索するのに夢中で、すっかり忘れていたよ。そんなことがあるのか、普通、一番先に決めておくべき事項なのに……自分としたことが、とんだドジッ子である。けどまだ大丈夫。あと四日ある。なんて自分の傷を舐めてみるが、舌は精神部分までは届かない。傷心。嗚呼、昨日余裕ぶっこいて、一日中ネットでサーフィンしていたことを今になって猛省。嗚呼、今日家で発火装置の件について再思三考するために、学校休んじゃおうかなあ。



色々ありましたが、勿論学校には行きましたよ。今は三時限目の休み時間なのですが、畜生。誰も自席に座っている僕に話しかけてこねえ。僕の近くには誰もいない。まるで僕の周りに深々と堀が張り巡らされているようだ。いくらなんでもおかしくないか。自己紹介で滑ったくらいでこの仕打ち。仮にも転校生だぞ。これまで多少自己紹介がお滑りになられたことはあるが、転校初日、初めての休み時間になると、皆聞こえなかったふりをして僕に話しかけて来てくれていたぞ。今一度自分から他の奴等に話しかけてみるか……いや止めておこう。心が折れるかもしれない。どうせ転校するのだから無駄に博打を打つ必要なんてない。寝たふりし直そう。



昼休み、二階の男子トイレ、手前から三番目の個室に入るや、僕は便器に座り、独り考え事を始める。発火装置は、多分インターネットに作り方が挙げられているだろうから、入手に関しては問題ないにしても、全フロアのトイレに仕掛けられた発火装置に、どうやってスイッチを入れるかが問題だ。そりゃ皆が避難訓練を行っている、誰もいない間にやってしまうのは簡単だが、それをやりゃあ防犯カメラにバッチリ写り即刻捕まると思う。『A中学校イタズラ作戦』において、僕の立ち位置は、あくまでも被害者。僕は避難訓練に参加してアリバイを作らなくてはいけないし、皆の困った顔を見る使命もある。だから前日に発火装置を仕掛けたあと、トイレに一切立ち寄らない予定だ。となれば、時限式しか残されていないんだが、それも失敗するリスクが高い。経験則から避難訓練は昼休みが終わってから行う学校が多いのだが。だからとて必ずはない。午前中に行われる可能性だってある。作動時間を午後に設定していたがために避難訓練のことなんてすっかり忘れた頃に火事とか、最悪だ。最も避けなきゃな。こう行き悩んでしまうのも全て教師共のせいだ。なぜどの学校も避難訓練が行われる時間を曖昧にするんだよ。教師共に聞いても『本当の災害はいつやってくるかわからないから』とかなんとかいって誤魔化されるんだろうな。くそ、日程は教えるくせに何時限目に避難訓練が行われるかは教えないとか、狐に摘まれた様としか言いようがない。と、ここで、


キンコンカンコン


そんな感じの予鈴が鳴ったので、この儀は一事保留することにした。



所在無い授業を全て受けきり、帰りのホームルームが終わるなり即行帰宅した僕は、自室に入ると真っ先にパソコンを開いた。発火装置の作り方を調べるためだ。「『発火装置 作り方』っと」。いやあ世界は広い。今の時代は便利だ。井の中の蛙でも手軽に大海を覗ける。出てくる出てくる。作り方が。へえ、■■■■■と、■■■■■■■と、■■■■■と、■■■■■■■と、■■■■■を、■■■■■■■して■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■するだけで完成かよ。思いも寄らず、こんなにも簡単に作れたんだな。(今思えばこの頃のインターネットは規制が大分緩かった。爆弾の作り方とか、バレない万引きの遣り口だとかが、クリック一つで容易に閲覧できるなんて、到底信じられない。今じゃ規制まみれで、僕好みのエロ画像一つ探し出すのに何時間もかかるってのに……嗚呼、あの頃に戻りたい)僕は画面に記されているレシピをノートに書き写すと、材料を買い込むべく時を移さずホームセンターに向かった。

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