第1話A中学校⑤
さーて、今日も楽しいスクールライフが始まるよー。僕は心のなかで自分にそう言い聞かせながら、普段以上に鬱々と下を向いてA中学校の正門をくぐる。今日は金曜日。この曜日、いつもは人為的に三連休を作り出すため計画的に休んでいるのだが(チキンだったので二日連続で休むとかは出来なかった。週一度が限度。勿論毎回ズル休みだし、親にも連絡はいっただろうけど、不思議と親は僕を叱ったりはしなかった。今となってみると、親は僕にさして興味が無かったんだろうなと感じている。いや、興味が無いというか諦められていたというか、まあ受験という受検には総じて落ちてたし、習い事もバックレまくっていたから仕方ないのかね。その結果?中学生にして僕はマンションで独り暮らしをしていた。ハーレム系ラノベの主人公顔負けである。両親としては、家に劣等生の僕がいれば、臥竜鳳雛な弟と妹が悪影響を受けてしまうと鬼胎を抱いた上での措置だったのかな。ここでいい忘れていたが僕んちの経済状況について説明しておこう。僕の両親は共に成り上がり。金持ちと自称しても良いくらい金を持っていた。しかし、急に金を得たもんだから使い方が色々とおかしかった。その一つに時分の月の小遣いは百万前後。家賃とか光熱費はこの分で払うのだが、それでも異常ぁろ。しかし時分は倹約家だったのでなんやかんやあっても、ちゃんと毎月五十万程度は貯金していた。だから安心してほしい。嫌味なお金持ちの雰囲気はからきし出していなかったよ。周囲からみても普通のイケメン中学生だったと思う)
今日は昨日に引き続き校内を散策し、一刻も早く、どこに発火装置を取り付けるか決定しなければならぬため、否否登校しているのだ。否、A中学校に転入してからというもの、いつも否否登校しているから、この度は否否否否登校していると表現した方が良いかな。昨日は校舎外も見回ってたお陰で校舎内、主としてA棟をちゃんと見回れなかった反省より、今日の昼休みは気合い入れて見回るぜ。もっともそんな気合い、胸の内に入れるからモーションには起こさないが。
そんな意を決しながら僕は、A棟校舎に入り、自分の上履きの入った靴箱扉の方へ向かう。その扉に手をかけた瞬間が開戦の合図だ。昼休みまでの長い長い戦いの……ちと、大袈裟すぎたか。
いや、大袈裟ではなかった。タイムマシンがあったなら、そう過去の自分に教えてやりたい。迂闊だった。僕の最も苦手な科目『数学』が一、二時限目と続けて行われていただなんて思いもよらなかったよ。テストにも出そうにないつまんねえ証明を五十分間みっちりと板書させやがって。こんな証明説明してくれなくとも理解出来るのに。自分にはよく耐えきれたと自分で誉めてやりたい。そんな数学のせいで体感としては今が九時限目の休み時間なんだけど、実際は待ちに待っていた昼休みらしい。よし、一階から四階まで、まんべんなく探検してやるぜ。ん、何気にはしゃいじゃってるような気がするのは気のせいか。気のせいではないな。皆の困った顔が見られるんだ。これがはしゃがずにいられようか、いや、はしゃがずにはいられない。
かなり飛ぶが、四月十六日、土曜日、僕は今、自分の部屋にいる。あ、でもここには、自分しか住んでいないからどこの部屋だろうと自分の部屋と呼べちゃうな。自分の部屋とて僕は、トイレにいるのかもしれないし、冷蔵庫の中に入っているのかもしれない。まあ、そこら辺の描写は面倒臭いので、皆の豊かな想像力に丸投げする。『A中学校イタズラ作戦』の表紙が目印の特製ノートの帳面には、ようやくA中学校の校舎の簡易見取図やら、設置場所、どのように仕掛けるか、等の事項を記載出来た。あれほど悩んだ仕掛け場所は、トイレの用具入れに本決まり。元より一ヶ所ではない。A棟にある男女全階のトイレに仕掛けるつもりだ。用具入れ。少なくともそこは一日一回はトイレ掃除の時に開けられるだろう。しかし普通、中をマジマジと覗いたりはしない。用具入れの扉を開けた際、目の前に置かれているトイレブラシや粉洗剤やモップやホース以外には、目もくれないのが当然。極めつけは昨日の見回りで気づいた、トイレの用具入れの中には何に使うかわからない用具が結構数あるという事実だ。僕はこれを受け、発火装置を用具に模して忍び込ませれば絶対バレない。そう確信した。これが決定の要因。なぜ全トイレに仕掛けるかというと、万が一火災報知器が探知しなかった場合に備えての保険(下手な鉄砲も数打ちゃ当たる)という意味もあるが、自分が犯人だと特定されない様にってのが理由の殆どを占めているかな。女子トイレに入るのは抵抗があるけど、これも皆のためだ仕方がないな。と、作戦も決まったことだし、今日はもう寝るか。
(現時点で余裕のよっちゃんな当時の僕は、肩で風を切っていたからか、この程の作戦のなかでの肝心要の点が抜けていた。そのことに気づくのは月曜日となるんだが。日曜日は、これといった出来事もなかったし、盛り上がりそうにもないので先に述べておこう。その、抜けていた重要な点というのは『発火装置をどこで入手するか』だ…どうだい、間抜けだろう)
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