第1話A中学校④
避難訓練の日になぜ学校で火事をおこそうと考えたかだって?そりゃあ避難訓練の時に本当に火事が起きたら面白いからに決まっているだろう。(この時明確な理由は、ちゃんとあったと思うが、今となっては思い出せない。この頃の僕は周囲とのコミュニケーションをとっていなかったから、そういった常識ってやつを取り違えていたんだろう。要するに自己中心的な奴だったってことだ。やっていいことと悪いことの基準が世間と大分ずれていたんだろうな)
やりたいことが見つかったのはいいが、まだまだ漠然としすぎている。決めるべき事項はまだまだある。第一に出火場所をどこにするかだ。当たり前だが、今回のイタズラ。皆には僕がやったとバレたくはない。なるべく被害者ぶっていたい。周りが恐れおののいているのを遠巻きから覗き悦に入っていたい。僕は能ある鷹なので爪は隠すタイプだから犯人を特定されないような場所に発火装置をセッティングしないといけないな。とりあえず明日下見に行こう。まあ下見と呼んでも、普段通り登校するだけなんだが……
A中学校は、A棟とB棟、二つに分かれていて、A棟には主に職員室や、生徒共が学校生活の大半を過ごすであろう学級教室等が、B棟には主に理科室や、音楽室等、移動教室の際に立ち寄る教室ばかりが築造されている。B棟の方はA棟に比べ若干造りが綺麗だから、多分後から建てられたのだろうと推察できる。そして校舎から少し離れた場所には体育館とプールがある。何度も転校している身として言わせてもらうと、A中学校は、これといって特徴のない極々普通の造りだった。
僕は数ある選択肢の中から、発火装置をA棟のみにセッティングすることを選んだ。理由は至極単純。そうした方が、仕掛ける側として最も怪しまれないと踏んだから。初めは二つの棟に仕掛ける予定だったのだが、よく考えてみればB棟には選択授業の時にしか寄れない。放課後には各部活動の生徒らが占領しているし、つけ入る隙がない。昼休みも同じく、各部活動の生徒らは、各教室で練習をしていた。どこも雑談ばっかで練習とは言い難いんだけど、教室を占領しているのは明らかだった。今日の昼休みに校内を下見していたから分かる。どうして皆、せっかくの昼休みだというのに教室を出て、こんな遠い場所まで行くのかね。僕を見習い、休み時間は寝たフリでもしておいてほしいよ。誰もいない真夜中に侵入する手もあるが、それはやめておいた方が良いと判断を下した。誰もいないと言ったが、警備員くらいはいるだろうし、監視カメラだってきりきり働いているだろう。人混みに紛れようもないので、身バレする可能性が昼に比べ跳ね上がる。そんな危険は回避しておくに他ならない。(じゃあ学校に放火すんなよと、当時の僕にツッコミをいれたい人は、何も僕だけではないと感じている)体育館は論外。僕は部活に所属していないので、授業以外で立ち寄れば怪しまれるだろうし、A中学校の体育館にはなぜか火災報知器がついていなかった。火災報知器が鳴ってくれないと皆パニックになってくれず、それではイタズラ冥利に尽きない。イタズラし甲斐がないのだ。あくまで校舎に仕掛けたい。話を元に戻す。発火装置をA棟のどこに仕掛けるかというと……悲しいかな、現時点ではまだ決めあぐねている。誰にも見つからないかつ、程好く火災報知器の元に近い好立地。そんな場所早々ない。始めに思い付いたのは体育倉庫の跳び箱の中なのだが、さっきもいった通り、体育館にはセッティングしたくない訳で、早々と脱落。次に使われていない教室に仕掛けようと考えたのだが、今日、校舎内を下見した時に無理だと即断した。使われていない教室には、全て、内側から鍵が掛けられていたのだ。職員室から鍵を借りれば、そりゃあ開くだろうが、犯人が僕ってのは確実にあぶり出される。出火元くらい誰だってわかるだろう。てか使われていない教室の鍵を借りる時点で怪しい。それに百パーセント借りる理由を聞かれるぞ。なんて答えるんだ。僕は正直者なので本当のことを言ってしまうかもしれない。自爆。未遂で終わるのは最も避けたい。最後に、不登校児の靴箱の中だ。A中学校の靴箱はオープン個別タイプではなく扉付き個別タイプ。しかもそれぞれの扉には出席番号がふられていて、まるで自分の部屋の様。モノを忍ばせるには持ってこいだ。土台、自分以外の靴箱の扉なんて開かない。それも不登校児のやつなんて、本人でも開けない。僕はそこを突く。不登校児の靴箱の中に、発火装置を忍び込ませる。超弩級の良案だ、と、思っていたのだけれど、皆様お察しの通り、断念せざるを得なかった。なぜなら、僕には誰が不登校児なのかわからないからだ。文部科学省的には『何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しない、あるいはしたくともできない状況にあるため年間三十日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの』を不登校児の定義としているらしいのだが、僕は教師ではない。生徒の出席状況なんて把握している筈がない。それに不登校児だって気まぐれを起こすことだってあるはずだ。何かの間違いで、登校してくるかもしれない。それが保健室登校だとしても、靴箱は利用するだろうし、見つかればたちまちおじゃん。見つかりにくい所というのは、目につかない所で、それは見るまでもない所。要するに見つかりにくい所は、同時に見つかりやすい所なのだ。見つからない時は全然見つからないが、見つかる時はあっさり見つかる。靴箱はそれがとても顕著に出ていたので成功させる確率を出来るだけあげたかった僕は、そこに隠すのを諦めなければいけなかった。散弾は尽きた。けどあと七日ある。また明日、いや今日、考えることにしよう。今日はお開き、よいこはもうとっくに寝ている時間だしな。
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