第1話A中学校③
学校で大規模なイタズラを仕掛けるにあたって最も重要なのは環境だ。至高のイタズラを仕掛けても、被害をうけた奴等が数えられる程度しかいなければ、大規模とはいえない。被害を被った奴等は多ければ多いほど良い。理想としては全校生徒に一斉にイタズラを仕掛けたい。それを実現させるのにもってこいの環境。朝礼が最も手っ取り早いんだが、生憎A中学校には朝礼がなかった。そこで学校行事である。出来れば全学年が一ヶ所に集まるやつが好ましい。ふと、A中学校のファイルの中から年間行事表をとりだし、ざっと目を通す。(あの頃僕は転校を繰り返していたため、学校でもらう知らせ紙はきちんとセパレートしていた。そうしておかないと年間行事や時間割等の情報が、文字通り卍巴となってしまうからね。振り返ってみると僕って昔は几帳面だなあと、感じてしまう。過去の僕が今の僕の住んでいる部屋にお邪魔したら、きっと腰を抜かすだろうな。だって部屋の隅っこにカビとか生えていて、すんげぇきたねぇんだもの。過去の自分の爪の垢を煎じて飲みたい気分だ)
うわ、この学校八月に修学旅行があるぞ、夏休み中に修学旅行とか最悪じゃん。良かった、早めに転校手続きしといて……ではない。この調子で一年分見ていたらそれこそ無駄の極みだ。フォーカスをあてるのは今日から、A中学校を転校するであろう期間。すなわち四月十三日から四月二十七日までの二週間。日付に多少のズレは生じると思うけど、目安としてはこんなものだろう。
・全国学力テスト
・身体測定
・避難訓練
その目安の期間に記されていた予定は、生徒会やら保護者の予定を除けば、こんなものしかなかった。ここからピックアップか、なんて僕は迷うことなく決めた。『避難訓練』に決めた。全国学力テストだと行動制限が重い枷となるし、身体測定だと男女別々行動が重い枷となる。それらに比べ避難訓練は良い。男女別々じゃないし、避難中は人が行き交っていて行動制限も割と緩い。極めつけは最後に全校生徒が避難場所へ、一ヶ所に集められる所だ。そこに惹かれた。気になるイタズラ日和となる日は四月二十二日。あと八日か、
避難訓練の時にイタズラを仕掛けるのは決まった。次はイタズラの内容。理想としては分かりやすいモノが良いな。だからとてベタなものは駄目だ。いくら分かりやすくても面白味に欠けるイタズラは厭わしい。まあ避難訓練の際に仕掛けるイタズラにベタもクソもないが……避難訓練に懸かったものが良い。関係性がないとボケ役のいないギャグ漫画のようになる。まったく面白くなくなる。場面に応じて持ち手は使い分けなきゃだめだ。ここで僕が黒板消し落としドッキリなんて敢行してみろ、絶対誰も見向きもしないぞ。
避難訓練か…自分の記憶の隅から隅まで探してみるも、それに関する思い出なんてなかった。まあ、避難訓練に思い入れのあるやつなんていないと思うが、誰しもが疑問には思っていただろう。「こんなのやって意味があるのか?」と、僕もそんな多数派の中の独りだ。避難訓練を何度もやったことはあるが、実際に地震がおきた際、身動きひとつ取れなかった人の話なんてのはよく聞く。津波でも火事でも、助かるにはその場所から離れれば良い。それだけの話だ。無駄にルールに縛られ頭でっかちになると、アドリブに対応できなくなってしまう。学校側としては、モンスターペアレント共に文句を言われないようにするための予防線を張っているつもりだろうから、仕方ないとは思うけれど、教師共!避難場所に全員が集まるのが遅いと喚いたり、実際におきていたらどうのこうのと延々念仏を唱えたりするだけは、よしてくれ。こちらとしても困るのだ。非常ベルが鳴ってから集合するまでの理想タイムがどれくらいとか知らされていないし、それで遅いだの早いだの言われると、なんとも言い表せないモヤモヤが心に蓄積されるのだ。というか、そもそも避難場所が使えなかったらどうするんだよ。詰めが甘い。これじゃあ、避難する僕たちだってモチベーションが上がらない。そろそろ保護者共もその事に気付きクレームをいれてくるかもしれないぞ。そうならないために、もう少しリアリティーを演出してほしい。だから避難場所に全員が集まっていなくとも『今ここにいない生徒は残念ながら巻き込まれてしまったんだな』てな感じで放っておいてくれ。なにも触れずに淡々と自然災害の恐ろしさでも語っておいてくれ。訓練中に帰宅する奴が続出し、それはそれでクレームがきそうだけどな。話の内容が少し逸れてしまった気もするが…
僕は椅子に座り直し肺肝を砕く。しばらくして、ようやく閃いた。
『避難訓練の日に学校で本当に火事を起こす』
という素晴らしいイタズラを。
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