第1話A中学校②
僕は悩んでいる。嫌いなことはたくさんあるのに、好きなことはパッと思い浮かんでこない。道徳の時間でも何でも良いが、授業中に『あなたの好きなことはなんですか?』なんて問う問題がだされたら、真面目な僕は授業中には答えをだせずに、家に持ち帰って宿題にしていると思う。そのレベルで僕には好きなこと、まあ趣味と呼べるものがない。というか、どこまで行けばそれが好きで、どこまで行けばそれが趣味となるのかが分からない。(この考えは今でも受け継がれているのだが、当時の僕は変な所で真面目すぎた。別にばれなきゃ嘘をついても良いのに。ちなみに現在の僕が「あなたの好きなことはなんですか?」なんて質問を受けたら、インターネットで調べた『女うけの良い趣味』の第3位辺りの情報を雄弁に語ると思う。そうした手段を取った方が周りの反応が良いからね。取り分けて今回の考え事は、やりたいことについてなので、好きとか嫌いとか趣味がどうこうだなんて要素は不要だと感じる人もいるだろうが、あながちそうでもない。思いの外相関していると思うよ)
僕はこのA中学校が嫌いだ。そりゃ転校するってんだから勿論それが転校要因の九割以上。やりたいこと?そりゃ沢山あるが、その多くが漠然としていて、現実味に欠けているので、実際に実行出来る程度のやりたいこととなる。加えて『転校するまでの二週間以内』とは、随分と制限されてしまっている訳で、先程も僕はA中学校が嫌いと述べた。だからなるべく、このA中学校に出来うるだけの迷惑をかけつつ、速やかに去っていきたいのだが…あれ、それって、やりたいこととして成立しているのでは……その瞬間僕の中で『A中学校を壊滅させてやろう』という新たな決意が生まれた。思い立ったが吉日、早速計画を練る事にしよう。
さて、壊滅させてやろうと意気込んだのは良いけれど、いくらなんでも大袈裟過ぎたな。『壊滅』の意味がよく分かっていなかったので辞書を引いてみたらそう思えてきた。いくらなんでも学生風情が学校という巨大な組織を総崩れさせるだなんて、膨大な時間と超次元的な能力がなければ不可能だ。この世界はフィクションで回っているわけじゃあるまいし。さっき『A中学校壊滅作戦』と銘打ったのだが『A中学校イタズラ作戦』に訂正しよう。一気にショボくれてしまったが仕方がない。これで現実味も帯びてきた。僕は物事に取り組む際、まず形から入るタイプだから作戦名ってのは成る丈重要視している。よし、これで秀逸な計画を練られるぞ。旭日昇天の勢いで自分の勉強机に向かった僕は椅子に座ったあと、勉強机の引き出しから未使用の方眼ノートを取り出し、表紙の部分に油性ペンで『A中学校イタズラ作戦』デカデカと書いてやった。
筆が進まない。あれから十五分以上経っているが、目の前にある帳面は僕の頭の中同様真っ白だ。これが五ページ目とかならまだ共感してもらえるだろうけど、まだ一ページ目、立錐の余地もない。自分の頭の中のものは、いざ形にしようとすると難しいものだ。僕だって机に向かうまでは、それなりの構想はあったのだけれど、向かってからそうでもなかったことに気づいた。よくよく見てみたら頭の中には構想もクソもなかった。ガチしょんぼり沈殿丸である。このまま考えていてもアイディアは浮かんでこないと踏んだ僕は、勉強机の上に置いてあるパソコンを使い、取り合えず『中学校 イタズラ』と検索エンジンにかけた。すると流石インターネット、ウサギの糞の様にゴロゴロとイタズラに関する情報が出てくる出てくる。始めは心を踊らせていたが、内容を読んで失望した。開けて悔しい玉手箱。やれ偽ラブレターを対象のロッカーに入れるだの、やれ備品を破壊するだの、どれも使い物にならないものばかりだった。イタズラに愛とかよくわかんないものなんて加えるんじゃねえよ。僕はもっと大規模で皆に迷惑がかかるイタズラを求めているってのに。駄目じゃないか、詰まる所、自分で理想のイタズラを考えなげればいけないだなんて。
時間ばかりを無駄に消費し、行き着いた先はふりだし。『人生に無駄なことは無い』なんて名言がこの世にはあるが、僕はこの言葉が嫌いだ。無駄なことは無駄じゃないのかもしれないが、ほとんどの無駄は、あってもなくても良い便利グッズのようなモノで、大抵の無駄なんてのは経験しないに越したことはないからね。(僕が一番嫌いな部分は『人生とは~』って部分なんだけど、今回ここに関しては話が逸れそうなので論じないでおく)
またしても無駄な遠回りをしてしまった。仕方がない、ちゃんと自分なりに考えてみよう。
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