⑩ 錯覚

 一応納得したふうに言ったが、やはり納得がいかない。「私がいなくても生きていけるようになってほしい」この気持ちは何があっても変わらない透麻は離れるどころか執着、依存していっているような気がする。タイムリミットもそろそろくる……君とのお別れまであと少し。まだ、一緒にいたいよ……でも、君は思い出してしまった。君にとってはそこまで大事じゃなかったことかもしれない……。これは私の自己満足みたいなものだから……そして、本当のことを教えたいだけだから……。



「花火綺麗だったね!」


 私はちゃんと笑えているのかな……?


「そうだな……。なんか買って帰らなくてもいいか……?」


 心配してくれてるの?ありがとう……


「うん、大丈夫。」


 普通ならここで、まだ帰りたくないだの一緒にいたいとか言うんだろうか……


「んじゃ、帰るか。」

「うん、帰ろう!」



「楽しかった! すごく楽しかった! 透麻とお祭りいけて良かった!!」

「楽しんでもらえてよかったよ。俺も楽しかったし……気をつけて帰れよ?」

「うん。ありがとう、透麻。私帰る場所なんてないんだけどね……? 気をつけるもなにも私はもう死んでるから……」

「そっか……そうだよな。はは、俺がどうかしてたわ……ごめんごめん。また今度な。」



 今の発言だってそう。私はもう死んでいるのに……まるで生きているかのような話し方。透麻、君は一体何を見ているの? 君の目には何がうつっているの? 何が君をこんなふうに変えてしまったの? 私のせい? 現実逃避のしすぎで夢と現実の違いがわからなくなっているのか。狂ってる……私以上に狂ってる、おかしいよ……。お願いだから元に戻って? いつまで夢を見てるつもりなの? ここにいる私は私であって私じゃない……。こんなんだったら戻ってこない方が良かったのかな。あれもこれも全ては私のせい?


 私は透麻に依存している……そう、私たちはお互いに依存しあっている。


 ───────────────


祭りの日、俺は珍しく家に帰らなかった。家に連絡もせず、一人で色々な場所に行っていた。思い出の詰まった場所……琴魅との思い出の場所へ行っていた。

気づけなかった俺も悪いとは思う……が、教えてくれてくれなきゃわかんないだろ。いくら幼なじみでもわかんないことはある。幼なじみ=全部知っている、言わなくてもわかる、じゃないんだよ。俺にだってわからないことはある。琴魅にかんしてはわからないことだらけだ……。俺は何も知らない。なぜ親がいないか、親戚はいなかったのか、いったい何者なのか……。俺が知っていることは誕生日ぐらいだ。俺と一緒で8月15日うまれ。それだけだ……。こんなやつがあいつといていいのか?

傷つきたくないがために何も知ろうとせず、自分の殻の中に閉じこもって見て見ぬふりをし続け……どれだけ自己中心的だったか、どれだけ人を傷つけてきたことか……。どれだけ琴魅を悩ませ、苦しませてきたか……。

本当はもういないってことはわかっている。わかっているけど、どうしても夢を見てしまう。あいつが生きていたらこんなことができたのか、という気持ちがだんだん、あいつと一緒にいたい、これからもずっと永遠に仲良くしていきたい。気持ちがどんどんおかしなほうへと変わっていき、まだ生きていると思ってしまう。あいつのいない毎日……琴魅のいない世界なんてありえない。あっていいはずがない。あいつがいなきゃ俺は生きてけない。どことなく母さんに似た雰囲気をもっているあいつのことが大好きなんだ。……そうだ、あいつは本当は殺されてなんかいないんだ。俺の見間違い、だったんだ……そう、ただの見間違い。俺は三年間も、どうでもいいやつについて考えては、悩み、苦しんでいたんだ。無駄な時間を過ごしていたんだ! 誰も死んでいない! 俺は何も失っていない!


自分の中で何かが

壊れていっているのを



……確かに感じた。


 ───────────────


「お前さえいなければ、お前のせいだ、いらない、死ね」


毎日のように浴びせられてきた罵声に止まない暴力


実の親にすてられ、引き取られた人たちにもすてられ……誰にも必要とされていなかった私……今でも必要とされていない私。実の姉弟である透麻にたくさん嘘をついて手に入れたこの場所。親が死んだ、透麻の親と仲が良かったから、ひきとってもらった……。本当はあの二人が私の親で透麻と私は血が繋がっていて……双子は邪魔だからすてられた。何回本当のことを言おうと思ったことか。いつから霜月琴魅と名乗るようになったのか……かわいそうな、悲劇のヒロインを演じるようになったのか……。

 いつから自分をつくるようになったのか……。そんなことをするぐらいなら捨てれば良かったのに、と思いながら私は生きてきた。必死に霜月琴魅という架空の人物を演じてきた。明るく、誰にでも平等で、みんなに好かれる憧れ的存在。全部、根岸透麻かま毎日を平和に過ごすため……。これは人助け、何かを救うため、何かを得るのに自己犠牲はつきものだ。




 わがままは言っちゃだめだ……

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君がおもい出すまで 華叶夢778 @nanaha

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