第4話お見舞い④

「途中でスーパーに寄ろうよ!」


そんな一言で、僕らはスーパーに寄る羽目となった。


それで今、店内にいる。


客を招き入れる工夫が一切感じられないシンプルすぎる外装、自動車が片手で数えられる程度しか停められないコンパクトすぎる駐車場、手入れの行き届いていない店内、台風通過直後を彷彿とさせる圧倒的品揃えの悪さ、良心の欠片もない破格の値段設定、漏れなく目が死んでいるレジの店員さん達、いかにも個人経営って感じが漂っているここは、僕ら学生さん御用達のスーパーだ。


上で述べたように、絶望的な品揃え。お菓子コーナー全体の茶色さは、若者には些か物足りない。見たことのないパチもん菓子が多いのも一興だ。


「なにを買ってくの?」


僕は店内をウロチョロしている相原さんに、そう訊ねてみた。


大方、時東さんに渡す土産を探しているのだろう。だとすれば何かしらの食べ物かな。


「風邪薬を買うのさ!馬鹿につける薬は無いっていうから、飲むタイプか座薬タイプが欲しいんだけど、どこにあるのかなあ?」


「スーパーにはないと思うけど」


「え~!そうなの?」


「そうだよ」この店だと尚更だ。


「じゃあ何かお菓子でも買っていこうか」


切り替えの早い相原さんは、お菓子コーナーのある場所とは別の方へ向かい始めた。




買い物カゴ一杯に、時東さんが嫌いらしい納豆を、笑顔で放り込んでいる相原さんは、一瞬何度か悪魔にみえた。


「これって、誰が食べるの?」


「勿論、四季にあーんして食べさせるに決まっているじゃん」


僕にも嫌いな食べ物はある。だから分かる。普段はしないが、今だけ時東さんには同情するよ。時東さん、どうかショックで死にませんように。



「よし!あとは真っ直ぐ向かうだけだね!」


一通り時東へ渡す土産物と、自分が食べる分の食料を買い、僕らはスーパーを後にした。相原さんは、片手に納豆が大量に入ったレジ袋を、振り回しながら僕らの前を歩く。元気だなあ。そして、「これから何週間引き籠るつもりだよ」と、突っ込みを入れたいくらいのお菓子を買い占めた、僕の横にいる雪国先輩の表情は、満悦とても朗らかだ。まさかだとは思うけど、


「このお菓子って全部時東さんにあげるんですか?」


「違う。三分の一は食べる用で、もう三分の一は保存用て、あとの三分の一は布教用」


なんじゃそりゃあ。てか、


「布教用って、それは時東さんにあげたりしないんですか?」


「うん、友達にあげる」


友達思いのいい人だなあ。ではない。


時東さんはいつも雪国先輩へ、積極的に話し掛けているイメージがあったから、友達認定しているのかと思いきや、されていなかったんすね。こうなると時東さんが、段々と可哀想な人に見えてきたよ。まあ、自業自得っぽいし、何とも思わないけれど。と、


「あの……宮國くん?」


珍しく雪国先輩から話し掛けてきた。


「何ですか?」


「今の冗談だから気にしないで。実際はあげるよ。十八分の一も」


顔を赤らめながらそう言った。恥ずかしいんなら言わなきゃいいのに。あと、十八分の一って中々少ない気もするけど……




もう少しで目的地に着かんとしている最中、


「相原さん、質問いいかな?」


「オッケーだよ」


「相原さんは、なんで黒歴史に入ろうと思ったの?」


始めからいたんで、中々に相原さんのプロフィールを僕は知らない。時東さんがいないこの際だから、僕は訊いてみる事にした。


「暇だったからかな~。今度は四季に付いていったら面白いかと思ってね」


ふいに空を見上げ始めた相原さんの発言は、なんだか懐かしさを孕んでいた。


「今度?」


その言葉に妙な引っ掛かりを覚えた僕は、それをうっかり声に出してしまった。


「あっ、いい忘れていたけどさ、四季とは小学校の頃からの友達なんだ。幼馴染みってやつ?」


二人の会話から、そんな関係だと思っていたけど、


「『今度は』ってどういうこと?」


やはり気になるので、再び問い掛けてみた。


すると、


「聞きたい?」


イエスとしか答えられない返事が、相原さんの口からやって来た。ノーと言いたい衝動を懸命に押さえつけ、首を縦にふった。




「なら教えてあげるよ!四季と私の愛の物語を!」


余程誰かに言いたかったのだろうか、若干早口、若干聞き取り難い。


「宮國くんはさ、四季がどういう人か説明できる?」


「自己中心的で馬鹿って感じかな?」


あと、黙っていれば可愛いのに言動がアレな残念女子。


「菊葉はどう思っている?」


「良い塩梅で、お茶があれば完璧かなあ」


雪国先輩は、先程の店で購入したであろう煎餅を片手に、それの感想を述べた。相原さんの表情が一寸強張る。


「さすが宮國くんだね。大当たり~!」


お菓子モードに入っている雪国先輩に、何を訊いても無駄だと判定したか、対象を僕のみに絞ったらしい。


「確かに今の四季は自己中心っぽいよね。けど、中学校の時まではね、全然違ったんだよ。馬鹿ってとこ以外はさ」


それって大して違うく無くね?とも思ったが、話が続きそうなので、まだ何も言わないでおこう。


僕はそれっぽい顔をしつつ耳を傾けた。

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