第4話お見舞い③
無言で僕らは歩く。
話すことがないのは決して不仲であることの証ではない。基本的に皆さん、受け身なだけだ。特に雪国先輩。自分からは何も話してくれない。けれども訊けば全て答えてくれるので本人も不自由はしていなさそう。自分のスリーサイズすら真面目に答えてくれるのでは?何度そう思い、何度理性が止めてくれただろう。
「宮國くん、昨日の野球の試合観た?」
理性くんに感謝してたら、相原さんが僕に問い掛けてきた。暇を潰すだけの会話に思われるが、声のトーンは高い。経験則から察するに興味を含んでいる。相原さんは野球が好きなのか?
「観てないけど」
残念です。僕はスポーツ全般に疎いのです。共感しようがありません。
心のなかで平謝りしてたら、
「やっぱそうだよね~。私も観ていないんだ」
振り替えって、満面とまではいかないが、七分程度の笑顔でそう言ってきた。
「野球中継って長くない?二時間から三時間近く、下手すれば四時間越えもしばしばじゃん。お陰でテレビショッピングの時間を圧してしまって。
折角録画していたのに、観てみたら違うテレビ番組になってて……
あの時の絶望感はまるで、冷蔵庫に保存しておいたプリンが、いつの間にか勝手に食べられ無くなっていた時のようだよ」
アンチの方だったか。確かに野球中継が延長して、そのあとの番組の時間帯が丸々ずれ、うまく録画出来ていなかったってのは、良く聞く話だけれど……世界広しと云えど、テレビショッピングを録画してまで観る人は、相原さんくらいしかいないと思うよ。
「第一、プロスポーツの試合って、チケット買わせてナンボってとこあるでしょ。なのに無料で垂れ流して良いのかって、毎度とてつもなく疑問に思うんだよね。有料放送枠でのみ流せば良いんじゃないのかって。無料放送枠を圧迫してまで放送る必要ないとね。お試しだからこそ最後まで観せるべきではないでしょう。決まった時間帯できっちり終わらせ、延長するようでも、終わり際、『続きはウェブで』みたく『最後まで観たけりゃ球場へ』って謳えばいいんだよ。そしたら良いこと尽くめっぽいのになあ」
相原さんの愚痴は留まるところを知らない。
チケットだって、数に限りがあるから、必ずしも試合を観たい人が観られるわけでない。そんな人達の為に放送しているのだろうから、興味が無くとも否定するのは的外れだと思う。現に、スポーツ中継の延長が無くならないのは、相原さんみたいな否定派より、肯定派の方が数で勝っているからなんだろう。一番多そうなのは『どうでも良い派』っぽいが。
「インチキだよね、スポーツ中継ってさ。台本もなければネタ切れもない、登場人物を変えれば半永久的に続けられる。ありゃあ効率良さすぎ、長期放映ドラマも甚だしいよ。悔しいけれど固定ファンが出来るのも分かる。
しか~し、テレビショッピングだってそう!あそこにだって白熱のドラマがあるんだよ。初めに提示してきた値段が、番組後半にかけて目まぐるしく移り変わる模様は、宛ら九回裏の大逆転ホームラン。しかもテレビショッピングの場合タイムリミットがある分、緊張感が持てる。
そういえば近年テレビ番組で、四色のボタン押してナンタラ~、ってのがあるでしょ?」
「dボタン?」
「そう、それそれ!それでクイズ番組とかにお茶の間の皆も参加できる様になり、今では割りと多くの番組に採用されているじゃん。
あれの元祖って知ってる?」
「知らないよ」興味もないよ。
「テレビショッピングだよ!テレビショッピング!番組中に出てくる番号に電話を掛けるだけで、画面に映る豪華商品が手元に届く。それって視聴者参加型と思わない?
テレビショッピングは視聴者参加形バライティー番組の先駆けなんだよ!」
嬉しそうに話す様は、見ててなんだかほのぼのするよ。ただ、それだけ。話の内容に共感が持てないのは何も僕だけではないと感じている。隣をみる。
雪国先輩は相変わらず、耳にイヤホンでもしてんのかってくらい無反応。聞いていたのかなあ。
「雪国先輩は今の相原さんの話どう思いましたか?」
「どう?と問われても困る……全然興味なかったから聞いてなかったし……」
どうやら今回は見てくれ通り、聞いていなかったらしい。いつもの事ながらよく分からない。
「じゃあもう一度リピートしてあげよっか?」
大して歳をとっていないのに見た目で判断、その人に席を譲ろうとする必死な若者を連想させるくらい余計なお世話を、相原さんは披露してきた。
「いや、結構だよ」
「延長しないで大丈夫だよ!今日の所は無料にしといてあげるからさ♪」
こういう時、時東さんの家の遠さに少しばかりの憤りを覚えちゃうよ。
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