第4話お見舞い①
六月、はやくも中旬。
梅雨の前兆か、最近雨がめっぽう増えた。
こんな調子で一年間が過ぎていくと考えれば、時間の流れの無情さを痛感させらる。
なんて、格好痛良く表現してみたが、日々を呆けながら生きている自分にとって、実際そんな自覚は持ち合わせていない。僕の学生生活の平坦たるや、ロードローラーが一度通ったかと思えるレベル。目に見える程度の変化は未だ来ず、ラブラブチュッチュッな桃色遊戯に至っては尚更だ。
話し相手は充分いるし、何ならクラスメイト全員と気兼ねなく話せる自信がある。それでも休日に遊びに誘われる事が皆無なのは、自分が誰にでも合わせる八方美人な性格が要因と、自己分析してはいるけれど、恐らく違っていると思う。まだ六月。シュミレーションゲームにおいても顕著な通り、新密度は急に上がったりしない。一会話につき一ポイント、せいぜい二ポイント。この問題については時間が解決してくれるだろう。と、自分に言い聞かせている。決して自分は悪くない。
真に問題なのは黒歴史部だ。
雪国先輩が部員候補として入ったまでは、スムーズに進んでいたのに、ここ何週間はずっと中弛み回が続いている。連載漫画だったらとっくに打ち切られているレベルだ。毎日放課後には、時東さんの家に立ち寄り、お茶会ならぬお水会を開く。そこでの水飲み話の内容は基本的に下らない。他人の愚痴とか、テレビ番組に対する文句とかを、ずるずるべったり話すのみで、帰り際に感想を訊かれれば、『特になし』と言わざるを得ない。だからとてつまらない訳でもないので、文句は言えないでいる。下らない話を皆にしゃべくる時東さんの表情は、当初より何だか楽しそうなのも事実だし、その光景を見ていれば愈々言えやしない。
時東さんは同じクラスメイトとして、あまりに見るに耐えない。
時東さんの無鉄砲っぷりは、最早伝説と化している。
授業中唐突に「自分探しに行ってくるわ」と言って教室を出て行ったきり、その日一日帰ってこなかったり。昼休み時間に、運動場のど真ん中で焼きそばパンを生け贄に、降霊儀式を執り行ったりし、周囲の人々を日々ドン引きさせている。
こんな不良がこの前開催された、中間テストにて総合得点学年五位だった事実を、世間は未だ認めていないらしく、時東さんに関する影口は、混雑しすぎて最早表に出てしまっている。
それ程嫌われの対象であっても、イジメを受けていない辺り、皆、時東さんに関わりたくないという所を克明に物語っている。
当人は相変わらず寡黙キャラを貫いているため、僕との絡みは一切ないというのは救い。そうでなければ今頃僕は転校しているだろうから。
人混みが嫌なんで、この学校に入学してから僕の朝は早い。故に毎朝こうした一人空間を経験せざるを得ないわけだが、自席に座って孤独に暇してるこの間は、どうしても馴れない。
学校においての暇潰しとして、読書は最適である。っては、先月号の愛読誌にも載っていたので、前々から図書館には通いつめるように心掛けている。図書館皆勤賞を貰ってもいいくらいの頻度で通いつめている。が、そんな日頃からお世話になっている図書館に一言物申したい。
「借りられる本の数が少なすぎる!もっと増やせ!」と。
一日一冊という制限は、どことぞの秘密結社が取り決めた『健康な成人の場合の一日の食塩摂取量』の次くらいに厳しく物足りない。自校が毎年定員を割りまくっている理由は、もしかするまでもなく、十中八九その至らない学校設備にあると思う。
うちの図書館は十六時という驚異的な早さで閉館するので、毎日昼休みに借りに行くしかない。そいで、次の日の朝になるまでには読了してしまう。そういった負の連鎖を繰り返している。わかってはいるけれど、自分は本が好きなんだろう、一度読み始めれば加減知らず、気が付けば後書きに辿り着いているのは日常茶飯。
要するに現在やるべき事がなくて困っている。もう一度借りた本を読めばいい気もするだろうが、内容の知れている本を読むくらいなら暇をもて余すついで、現在のようにどうでもいい回想に脳を使った方が良い。んで、そうさせてもらっている。
今月に入り、席替えなるイベントが行われた。これまでハズレ席にいた僕にも転機が訪れたと、籤を引くまでは期待をしていたけれども、学生の羨望の的、THE窓際は、あえなく別の生徒の物となった。結局の所の大して僕の座席の位置は変動しなかった。一つ後ろにずれただけ。自分は生まれてこのかた窓際の席になった経験がない。なので窓際に対する妄想は膨らむばかりで、いずれ爆発するかと思うと……そんなに恐くないな。取り敢えず将来の夢は、『籤で窓際の席に座る権利を手に入れる事』学校の課題で、そのことを作文に書いて、職員室に呼び出されたのは日に新しい。と、
ガラララ
閉めていた入り口の扉が開く。
僕以外の生徒が、ようやく登校してくれたようだ。
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