第3話ボランティア⑥
「次は菊葉ね」
ビクッ
そんな効果音はしなかったけど、次の犠牲者となる雪国先輩は、時東さんに名前を呼ばれ驚いたようで、一瞬背筋が伸びた。
「菊葉は、大人しいけど人一倍物事を考えていそうだから、『殺戮武神ASHURAΣ』なんてのはどうかしら?片腕を降り下ろすだけで一つの地帯を半壊できる殺傷能力を持っていそうで、なんだか格好痛良いでしょう」
今度は紙ナプキンに秘匿名を書き、雪国先輩に渡した。おおかた『スノーアイランド』だろうなと、想像していたが違った。さっきとはまるきし違う方向性だ。音楽バンドだったら解散している。
「いやだよ、そんな名前。恥ずかしい」
顔を真っ赤にしながら否定。
「ならシンプルにこんなのはどうかしら?」
再び紙ナプキンへ書して示した。
『\(^o^)/』
こんな感じの絵文字が、そこにはあった。
「これで『ワロタ』って読むのよ。痛いでしょ」
格好良い要素はどこへやら。
「なら『殺戮武神ASHURAΣ』でいいかな……」
そういうと雪国先輩こと殺戮武神ASHURAΣは、一方の紙ナプキンを指差し、諦めたように受け入れた。別段どちらか選ばなくとも良いのに、真面目なんだなあ。
「最後に君ね」
時東さんは、僕の方へ身体を向けた。
「僕は『スカイヒューマン』がいいな」
変てこりんな秘匿名を付けられるのならば、先に自分で言ってしまえば良いと踏んだ。『サウザントリーフ』と同系統でダサいが、『殺戮武神ASHURAΣ』の千倍はマシだ。
「却下よ。そんな名前は相応しくないわ。君って下僕キャラでしょう?下僕ごときが横文字を使うなんて言語道断」
だがしかし、あっという間も与えずに切り捨てられた。
「じゃあどんな名前なら良いの?」
僕はもう諦めた。考えてみればこの四人の中でしか使わない呼び名。もう、なんだっていいや。
「君は、そのまんま『下僕』でいいかしらね」
「分かった。それにするよ」
宮國 空人あらため下僕。なんと立派な秘匿名であろうか。僕の両親が知ったら感動して泣いてくれるだろう。
「ところで四季のコードネームはなんなの?」
『卍セルジオラ・アルテムマージン卍』
サウザントリーフが問い質すと、時東さんは紙ナプキンにそう書いた。
「両サイドの卍は単なる飾りだから読まないのがポイントよ」
「へえ」あまりにも微妙過ぎて反応に困る。
「どう?格好良い名前って憧れない?私も先日役所に改名手続きを出したのだけれど、全く相手にされなかったの」
「どんな名前で提出したよ?」
「婆裟羅狼藉 四季(ばさらろうぜき しき)」
ニッチだなあ。僕がこんな名前だったら生後一ヶ月で首を吊る。
「ドラゴンとか闇とかには、いかなかったんだね」
「奇をてらってみたのよ。ほら、キラキラネームが毎年話題に挙がるじゃない。それのはしりよ。中二ネーミングに光属性やら闇属性やらは、幾ら何でもありたりでつまらないもの」
僕は彼女の親ではないけど、役所の皆さんには『ご迷惑おかけしました』って謝りたい次第だよ。
「さて、そろそろお開きにしましょうか。今夜もまた集まって貰うわけだから」
緑と茶色が斑に混ざりあったミックスドリンクをストローで飲みながら、時東さん、じゃなくて、卍……忘れたので時東さんでいいや。兎も角、時東さんがそんなことを言ってきた。意味が分かりません。
「それは、どういうこと?」
「あら、言っていなかった?今夜、集めたゴミを元の場所に戻すのよ」
「だからどういうこと?」
この人は、何を言っているんだ?
益々頭の中に疑問符が浮かんでくる。
「物分かりが悪いわね。いい?今日集めたゴミを再び元の位置戻せば、また明日も清掃活動もといアピール活動ができるじゃない。こういった表現活動は、同じ所で続けることに意味があるのよ」
自作自演?夜は散らかして、朝はそれを片付ける。夢トキメキ号に入れてある口を縛られたゴミ袋の数々を、また開けてばらまくのか。
「それも僕らがやるの?」
「当たり前じゃない」
なんか違う。まるで犯人を捕まえたいがために、法を犯す人間を自らの手で育てるような。また、所狭しにある胡散臭いエコグッズみたいなものにも似ている。
まあ、どっちにせよ僕らの未来は煤を被った如く真っ黒だ。トホホ。
DVDは一度も観ずに返却した。
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