第3話ボランティア⑤

相原さんに連れられて、僕らは現在、学校近くのファミリーレストランに来ている。


そこの喫煙席に、それぞれ二人ずつが対するように四人で座っている。


この中に喫煙者はいない。だがしかし、格好つけてか背伸びしてかは知らないが、勝手に時東さんがここの席に決めやがった。


制服を着ているくせに、喫煙席にいると不良高校生と見間違われそう。おまけに店内はがら空きときたもんだから、悪い方向に目立ちまくりだよ。




「私、お金持っていないんだけど」


店内に入り、店員からお冷やが届くと、雪国先輩は、今更そんなことを言ってきた。学校で言ってくれれば中止になったかもしれないのに、時間差がえげつない。


「大丈夫、私が奢ってあげるわ」


時東さん。見間違えでなければ、あなたが今、片手に持っている財布、僕のですよ。もしや相談なしに僕の金を使ったりはしないよな。いい加減に返してもらいたい。


「勿論君は例外よ、自分のポケットマネーでやりくりしなさい。お金がないのであれば、ここにある紙ナプキンを何枚か取って、醤油に浸し食べ、ひもじさを抑えているといいわ」


なにが勿論なのか。僕はヤギじゃあるまいし、紙は食べられない。ヤギとて昨今の添加物まみれの紙では体調を崩す。あれは紛いなく自分の財布であるからして、気兼ねすることはない。


ピンポーン


僕は店員を呼ぶボタンを押した。金は大いにある、注文したるよ。




注文した品を平らげ、テーブルには飲み物の入ったグラスしかない。途中、金を持っていない筈の雪国先輩が、お構い無しにジャンボパフェを三つも注文する奇行が見受けられたけど、至って普通の食事風景は続く。


「そういえばどうなっているの?」


僕は前にいる時東さんへ尋ねる。


「なにが?」


「部員候補集めの進行状況。たしか、雪国先輩以外にも部員候補があと二人いるんだよね」


雪国先輩が入って何週間か経つが、あれから時東さんが拉致を働く気配がない。僕に、関わってほしくないとも言ってこないし、慎重に攻めているのだろうか。


「ああ、彼等のことならとっくに諦めたわよ」


「どうして?」


「二人とも同級生で男子。もしかすると馬が合うのかと思い、観察していたら直ぐに分かったわ。どっちとも中二病であると。初めは嬉しかったのよ、本来求めているのは天然で痛々しい人であるから。でも、話し掛けてみたら気付いた、現役中二病患者は駄目だってことをね。少しばかりの期待を持っていたのだけれど駄目だったわ。あの子達、一方的過ぎるのよ、人の話なんて訊いちゃいない。理解に苦しむ独自ルールも多いし、ウンザリ。途中で『我は、何処にも属さない。お引き取り願おうか』とも言われたしね。だから諦めたのよ」


へえ、そんなことがあったんだ。後半の部分はモロ、自分自身の特徴を述べているのかと思えるほど、時東さんに当てはまっていたような。本人は頑なに、演じているだけと言い張っているけど、この際時東さんも中二病患って事で良いと思う。


「四季も苦労しているんだね」


「精神的に大変だったわよ。ムカついたから、ネット通販で手に入れたくさやを彼等のロッカーにぶちこんで、発散したのだけれど」


思い当たる節がある。この前隣のクラスがやけに「くせぇ」「くせぇ」と、騒がしかったのは多分それだな。名も知らない中二病患者さん、御冥福をお祈りします。




「時に皆、私は黒歴史部創部に関わる件について、前々から提唱したかったことがあるのだけど。聞いてもらっていいかしら?」


僕らに向かって時東さんは話す。


聞かなくっても話すのを皆知ってるんで誰も返事をしない。


「分かった、そこまで聞きたいのならば今から言うわよ」


ほら、やっぱり。


「部員候補として皆には何が足りないのか、自分なりに考えてみたのよね。そうしたら分かったのよ。きくは、何だと思う?」


「さあ……」


「格好痛良い名前よ!」


「はあ?」思わず声が漏れてしまった。


「痛々しいをコンセプトにしている部活の部員が、普通の名前だったら可笑しいでしょう。場に相応しい名を付けないと活動にも悪影響が出る。名前は大事よ。君だって体長五十メートル以上あるドラゴンの名前が『ポチ』だと、討伐する気も失せるでしょう」


架空の生き物を引き合いに出されましてもなあ。


「コードネームを決めるってこと?いいじゃん!チョーカッチョいいよ。菊葉はどう思う?」


「どうでもいい」


「菊葉も良いって言っているし、ここで皆のコードネームを決めちゃおうよ」


「私が皆のもう決めてきているのだけれど」


僕の意見は訊かれず、よく分からないままに事は進んでゆく。


「『サウザントリーフ』ってのはどうかしら?」


時東さんは、僕らの顔をじっと見、まずは相原さんに向け、そう秘匿名を告げた。


千草をまんま英語にしただけ、ではないな。


「草だったら『leaf』じゃなくて『grass』じゃないの?」


「たしかにそうだけど、こういったのは響きが良ければ何でもいいのよ。『サウザントリーフ』って幾千もの草木を司る感じが出ていて格好痛いんじゃない?」


「そうかな~。雑草ってイメージがして、なんだかクソダサくないかなあ」


「なら『ルドルフシフォン・ルナバラス・エテカロルウィッチ三世』ってのもあるけど、それにする?」


「いや、『サウザントリーフ』で良いよ!改めてみると、とっても格好痛良い感じだし」


僕の隣でひきつった笑みを浮かべ、相原さん元いサウザントリーフは秘匿名を受け入れた。

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