第3話ボランティア④
懸命に働く真面目な僕は、どうしても相原さんが許せなかった。相原さんは、さっきから何もしていないのだ。いや、さっきからというか初っぱなから何もしていない。ずっと携帯電話を弄りながら、電波環境の良い所を転々としている。軍手はおろかゴミ袋すら持っていないとは何事か。
「相原さんもゴミ拾い手伝ってよ」
先程一緒に頑張ろうと言ってくれたのは何か?嘘だったのかなあ。
「人生を巧く生き抜く骨はね。目の届かない所でいかに手を抜くかに懸かっているんだよ宮國くん」
僕の問いに相原さんは答えを教えてくれた。内容云々、どう解釈しても違いのない誤答である。あなたのせいで何人が犠牲となって尻拭いをさせられているか、本人は知らないだろうな。だからこそ吐ける台詞だ。どんなに理不尽であろうとも、現役女子高生である相原さんの尻を、望んで拭きたい人は多いだろうから、今のうちは何とか加護を受けられるのかもしれないが、年齢を重ねてゆく内に見るに耐えなくなるんで、早めに止めて欲しいものだよ。ちなみに僕は尻フェチではないので、胸なら未だしも他人の尻は拭えない。責任は一切とれない。
「つまり、手伝わないってこと?」
僕が確認のため、そう尋ねると、
「今は手伝わないよ。けど、皆が集まった場では、手伝った事になっているだろうから、二人で力を合わせたことになっているからヨロシクね~」
平気で相原さんは口走った。昨今ギャップ萌えな要素が人気だけど、これではギャップ萎えも甚だしい。相原さんの株は大暴落。とはいっても僕の中だけでの話なんで、たかが知れている。相原さんは先程の予告通り、嘘をついて僕の成果を半分以上盗む事でしょう。まあ、ゴミ拾いの実績程度あってもなくても同じ。幾らでもどうぞ。結果は決まっているらしいので、僕にできるのはただ一つ。保険に入ることだ。普通にゴミを集めることだ。
春といっても夏に近い春なので、それなりに暑い。タオルを持ってきて正解だったよ。ここの辺りは、毎日通っていたから分かっていたつもりだったけど、改めて見てみると全然知れていなかったんだなあと気付かされた。
ゴミ一つ落ちていない清潔な道。そんなイメージは、この十分に中身の詰まったゴミ袋を覗くと脆く崩れ去る。想定外の量に現実を覚える。
ゴミ落ちすぎだろ。ヘンゼルが迷子にならないために道標として落としたパン屑の数より遥かに多い。これが金だったらゴールドラッシュで人がごった返すレベル。こんな現状に『ポイ捨てはいけません』と、所々で看板くんが啓発してくれてはいるが、その看板周りにゴミが結構散乱しているってのは最早ギャグだ。
対して反比例的に少ないのが通行人の数。腐っても町なんで、そこそこ人はいるだろうに、外に出ている人は点でいない。たまにいたとしても、大抵が日焼け防止全身ガードのウォーキングオバサン、もしくは道具だけは一流って感じのするジョギングオジサン。定年退職するや、趣味作りの為、健康にハマりだしたが故の奇行なのは察するが、高齢化社会を痛感させ若者を不安にさせるので、成る丈止してほしい。テレビショッピングで販売されているウォーキングマシンで我慢してほしい。普通に歩いている一般人の少なきことよ。
まあ、今の時代車がありますし、外出といっても殆どの者が歩道でなく車道を使う。僕の頑張り等、彼らにとっては所詮、地方局の番組でたまにある、コマーシャルとコマーシャルの間に一瞬だけ映る別の映像みたいなものなんだろうな。てなわけで目的は果たせず仕舞い。誰も僕らを見やしない。そんな悲惨で長かったゴミ拾いも佳境へ迎えんとしている。先程、相原さんの携帯電話に、終了の合図が届いたからだ。
時東さんと雪国さんは、学校近くで僕らより先に待ち設けていた。
「皆集まったわね。ゴミはちゃんと集まったようね」
時東さんは僕の手持ちを見、すぐに僕らが集めたゴミが入ったゴミ袋を回収すると、夢トキメキ号の後ろ篭に入れた。
「どう、私、頑張ったんだよ」
どの口が言ったかわからない台詞が聞こえた後、相原さんは新品の軍手を時東さんに返す。
「ちぐさは偉いわね。大変だったでしょう、一人でこんなに集めるのは」
僕の存在は蔑ろにされているっぽいが、慣れっこなので心は痛まない。つーか、これでお仕舞いか?こちとら当初の計画を遂行できず仕舞いでしたよ。テンション高めだから、あっちは成功したのかなあ。
「これからどうするの?」
僕はふと訊いた。答えてくれるのは誰でも良い。
「そうね。もう解散でいいんじゃないかしら」
時東さんが答えてくれた。状況とかきいてくると思っていたのに、えらいあっさりしているんだなあ。時刻は十三時、今から帰るのは些か中途半端って気もするが嬉しい。スタートは遅れたが、休日らしい休日を過ごせそうだ。そうやって僕が安堵していると、
「えっ、つまんない。ファミレスでごはんでも食べながらお話でもしようよ。決定」
時東さんの意見に疑問を持ったのか、強引に反応、進行し始めた。さすが相原さん。サボりまくっていたんで、人一倍元気が溢れているね。最悪の提案であるよ。
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