第3話ボランティア③

時東さんは、そんな奇天烈三輪車へ乗り込んだ。


「時東さん、いくらなんでも借りパクは駄目だと思うよ」


「何を言っているのかしら。これは歴とした私の所有物よ」


目を伏せていたが、予感は的中したらしい。やはりそうだったか、


「『夢トキメキ号』っていうの。どう、私の相棒?格好痛良いでしょう。特にハンドルにかけての過剰装飾が」


ペダルに足を掛けながら、時東さんは自慢してきた。真顔ではあるが、なんだか誇らしげである。公道だと三輪車ってだけでも目立つのに、よくもまあ堂々と乗れますよね。普通ならば完全に罰ゲームの範疇ですよ。まさかこれで学校まで向かうというのか。


「すごいね」色んな意味で。


「でしょ。君も乗って行く?空いているわよ」


三輪車の後ろには、買い物籠より少し大きいくらいの籠がついてて、中には本日使うであろう軍手と未開封のゴミ袋が置いてあるが、さしてスペースはとっていない。しかし、人が一人収納されるには、ちと狭い。体育座りをすればギリギリ入るかな。乗るとすればそこしかないわけだが……


「いや結構だよ」


勿論断った。思春期真っ只中の高校生ともなって、篭の中に入れるだろうか、いいや入れない。入ったとて漫画でよく見る段ボール捨て猫じゃあるまいし、誰も救ってくれない。そんな事をすれば、周りから出る真夏の紫外線のように熱い視線で、身体中を焼き付くされてしまう。




やっと着いた。両手をそれぞれ両膝にあて、うつ向く。


「どうしたの~、そんなに汗をかいて?臭そうだから近付かないでね」


そんな僕を初めに心配してくれたのは相原さん。


「……」


次に雪国先輩。とは、いかなかったけれど、なにか言いたげな目をしていたので、きっと心の中では心配してくれているのだろう。


そう思い込まなければやっていられないほど、自分の消耗ぶりは激しかった。





時東さんと五分に渡り、『夢トキメキ号』へ乗る乗らない論争を繰り広げた後、僕は目的地まで公共交通機関で向かう予定であった。が、財布くんを人質に盗られていたため、不本意ながら、ここまで走ったり歩いたり止まったりを繰り返す羽目となってしまった。僕の横を三輪車で並走する時東さんは、まるで僕のコーチみたいだったよ。


さいわい休日の朝ともあって人通りは少なく、想定よりも周りの視線は死線でなかった。と、自分では思っているが実際定かでない。途中、カメラのシャッター音があちこちで鳴るといった怪奇現象にも遭遇したが、実際定かではない。



二人とも当然のように制服を着て待っていた。これは事前に連絡が回っていた事実を如実に物語っており、回ってこなかった自分は、恐らく仲間から外されていると知るには十分だった。生まれてこのかた孤高を極めた身としては、定番のシチュエーションであるが、一向に慣れないのでどうしても落ち込む。黒歴史部(仮)には思い入れもクソもないんだけれど落ち込む。仲間はずれを恐れる心理ってのは、どうも予め遺伝子に組み込まれている気がしてやまない。今年の夏休みの自由研究の課題にでもしようかなあ。




「今から皆には袋を渡すので、二人ずつに分かれて、この周辺、通学路を主に、落ちているゴミを広い集めてもらうわよ」


そう言うと、息を切らした僕そっちのけで、三輪車から降り、時東さんは各々に軍手とゴミ袋を配り始めた。


「いい?今回の目的はお利口さんアピールを周囲にばらまくことよ。ゴミ拾い中ここら辺の通行人に『なぜゴミ拾いをしているの』みたいな質問とかを投げ掛けられれば、『日頃お世話になっている通学路へ、恩返しをしたいと思ったから』みたいな、成るべく臭い台詞を吐いてほしいわ。飽くまで強制されていない呈を醸し出してほしいの。誰に言われたわけでもないのにやる、自主性ってやつを周囲に撒き散らしてくれるとありがたい。印象の押し付けは大事。最終的に清掃活動を見た暇人が学校側に感謝の電話をしてくれるのを狙う。近隣住民の殆どはピュアな阿呆ばっかだから、見た通りで判断してくれると思うしね」


配り終えると、そんな偽善者足らん注意を僕らに促し、雪国先輩と一緒にどこか掃除へ行ってしまった。取り残されたのは僕と相原さんのみ。今からゴミ拾いだと考えると、億劫で仕方ない。切れ切れな体力からネガティブに陥っていると、ふと、横から相原さんが話し掛けてきた。


「私たちも、学校周辺のゴミ拾いしにいこうよ。二人で力を合わせればあっという間に終わると思うから、大変だろうけど頑張っていこうね」


屈託のない笑顔、百点に近い励まし。手ぶらなのが気になるが。チョー可愛い。


呼吸も正常に戻ったので、僕は言われた通り二人で力を合わせ、近辺のゴミを拾いまくることにした。

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