第3話ボランティア①
ドイツ語なんて全く知らないのに、「グーテンモルゲン」と言いたくなるような朝。
今日は土曜日。
いつも通りベッドから目覚めた僕は、閉じられたカーテンを開け、木漏れ日の有り難みに触れる。学校が休みと知っているからか、いつもより清々しい朝であると感じる。用事も無いので、さしあたってやるべく事は無いが、それこそ、だからこそ、休日と呼ぶに相応しいと思う。非生産的な活動をしてこそなのだ。だから昨日DVDを沢山借りてきた。今日、明日の二日間をたっぷり使って観る予定だ。だからこんなに早く起きたのだ。なのに、それはあっという間に崩れ去った。
「空人、お友達がきているよ」
一階と二階とを結ぶ唯一の階段の方から、半強制的な召集命令が下ったからだ。入学してまだ日は浅い、大方自宅を訪ねてくる人の目星はつく。透かさず自室の窓を、外からは気付かれない程度に覗き、自宅の門まわりをチェックする。すると、いた。その人は門の近くで立って待っていた。時東さんだ。土曜日だというのに自校の制服を着ている。インフェニティーグローブははめていない。
アクセサリーが体表を覆い尽くしたさぞかし痛々しい私服を拝見できるかと思っていただけに期待外れだ。てか、そんなのはどうでもいい。この前、時東さんには、暑中見舞いが書きたいからと、延々ごねられ、已む無く住所を教えてしまったから、僕の住んでいる家の場所を把握されているのは知っていたが、訪問するなんて聞いていないし、そもそも今は朝の八時だぞ。こんな早くから来られても迷惑極まりない。つーか、僕を呼び出して何の用があるんだろう。休日なのに何をするっていうんだ。DVDを借り返却日に追われている身からしてみれば、来訪者とは成る丈関わりたくない。時東さんなら尚更だ。
「用事があるから断っておいて!」
僕は二階から一階にいる母さんへ、断りの伝言を渡す。が、
「何いっているの、用事なんてないじゃない。待たせているのよ早く行きなさい」
それは容易に破られた。
「いきたくない!」
こうやった意思表示が出来てしまう辺り、自分はまだまだ子供なのだと、実感させられる。
「行きなさい!あんな礼儀正しくて、とても上品な良い友達、中々いないよ。もっとご縁を大事にしなさい!」
上品って、どこがですか。くそ……猫かぶりやがったな。時東さん容姿は良いもんだから、黙っていれば、というか、普通にしていれば母さんの言った通りに見えるのかもしれない。だからインフェニティーグローブを外しているのか。母さんは、いつもの感じを知らないからなあ。
その後、何をいっても母さんは「外で待たせているのよ、ほら、早く行ってきなさい」の一辺倒で聞く耳を持たなかった。願い叶わず僕は節分の鬼みたく外へ追い出されるはめとなったのだった。トホホ。
僕は仕方なく身支度を済ませて、扉を開ける。時東さんがいた。
「おはよう、待っていたわよ。十三分四十二秒。大分のろまね」
なぜかストップウォッチを片手に、どうでもいい事を言ってきた。避難訓練時の校長先生かよ。アポなしにしては高タイムだと思うけどなあ。
「なに?今日は学校休みだし、黒歴史部を立ち上げるための活動は出来ないと思うけど、何の用があってここまで来たの?」
「黒歴史部を創るためにやるべき事があるから、君を呼んだに決まっているじゃない」
いや、それは分かっているよ。僕が尋ねたいのはそこではない。
「今から何をするの?」
お水会か?ならば丁重にお断りしたい。
「それをいう前に、君、学校の制服に着替えてきなさい。これじゃあ意味がないわ」
「はあ、なんで?」
「いいからさっさと着替えてきなさい」
言うも無惨に僕は自室へリリースされた。
はてもさても、理由も聞かされず、強引に動かされているわけだけど、当然ながら時東さんとは関わりたくない。いっそ、自室へ籠城を企てようかと考えたが、肝心の時東さんまで家の中に入ってきたので直ぐに無理な話となった。玄関先で母さんと談笑している時東さんの声が二階まで聞こえてくる。言葉遣いからして猫かぶり度合いが頗る高い。こうも緩急を使い分けられた話し声を聞いていると、なんだか酔ってしまいそうなのでさっさと着替えよう。
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