第2話スカウト⑳
「それじゃあこれからどうする?菊葉の歓迎パーティーでもする?」
普段は携帯電話ばっか弄って、黙りしているのに、こういったイベント事のある時だけしゃしゃり出てくるんだなあ。つーか、まて。僕が入れられた際はパーティーの『パ』の字も出てこない程、酷くこざっぱりしていたのに。この差は一体何処にあるというのだ。
まあ、パーティーを開かれるのも、それはそれで難儀なものであるから、どっちもどっちなんだけどね。どっちも最悪。
「そうね、やりましょうか。場所はリビングで良いかしら?」
時東さんと相原さんは、いつの間にかどこかへ行ってしまった。なんか着々と進行しているみたいだが、僕は何をすれば良いか皆目検討がつかないので、単に部屋の隅に寄った。座っているのも申し訳ない気がしたので一応立ってみた。そんな僕と同じく、何をして良いか分からず立ち尽くす者が一人。言わずもがな、雪国先輩である。先輩感のない小物っぷり、早くも幽霊部員候補に入りそうだよ。失礼ながらそう思って見ていたら、僕の視線に気付いたのか、歩み寄って、僕に話し掛けてきた。
「あの、私は何をすれば」
近くにいる雪国先輩の瞳は、同士を見るようだった。
「さあ、僕にはあの二人の行動は、よくわかりません。何もしなくて良いと思いますよ」
パーティーと呼んでも、会場がこんなにちんけじゃあ程度は分かりきっている。いつものお水会と同じ構図が頭に浮かぶ。せめてプラスアルファとしてお菓子が増えると嬉しいな。
「そうですか、何もしなくてもいいんですか」
全体的に暗いトーンで言うと雪国先輩は、その場に座り天井を見、呆け始めた。さすがぼっち、暇潰しの術を心得ている。僕も真似しよう。
「二人とも何やっているの?完全に危ない二人だけれど、もしかして変なキノコでも食べた?食べていないのなら食器出すの手伝いなさいよ」
少し経って、時東さんがキッチンの方から、僕ら呆け組を呼び急かした。面倒臭い、一度スイッチを切ると、起動にかなりのエネルギーを使う。生憎、二人とも変なキノコは食べていなかったので、僕らは声の聞こえた方へ向かった。変なキノコは道端で見つけても、極力食べないように心掛けていたが、この期に及んでだけは、食べておかなかったことを、何気に後悔している。
「さて、これより第一回、雪国菊葉歓迎パーティーを始めま~す」
相原さん進行の元、第二回は無いであろう出席人数四人のこじんまりしたパーティーが始まった。
それは、案の定お水会でした。
テーブルの上には、いつものティーセット一式。時東さんが各々のティーカップに注ぎ入れてくれたが、予想に反せず色は付いていなかった。あと、テーブルのど真ん中にビタミン剤のボトルが堂々と置かれている。ティーセットと共に出された品なので、多分これが肝心のお菓子らしい。出されている身なので文句は言えない。肌荒れが気になる年頃だし一粒頂いておこう。
「菊葉って好きな食べ物とかはあるの?ちなみに私は現金が好きだよ」
相原さんよ、あんたはATMか。
「ハンバーグが好きかな」
「菊葉は嫌いな食べ物とかはあるのかしら?ちなみに私の嫌いな食べ物はウルバランの脳髄スープよ」
時東さんよ、いちいち中二病っぽいことを言わないでよろしい。相手を困惑させるだけだから。
「パクチーが嫌いかな」
優しい雪国先輩は、二人の冗談を巧みにスルーし、質問に対し、真摯に答えている。
やってることは、普段乙女の部屋でやっていることと、あまり変わらないな。雑談。
良い機会だ、僕も気になった点があったんで聞いてみよう。
「雪国先輩は、黒歴史部がどんな活動を行う部活となる予定か、知っているんですか?知っていて入ったんですか?」
なんかこの人って、ぽけーっとしてて、内容には目を通さず、言われるがまんま入ったのではなんて思えてくる。だとすれば今からでも引き返せますよ、と忠告したい。
「うん、知っているよ。この前みたいに人前で、パフォーマンスをするんだよね」
どうやら知っているらしい。少しずれている感じもするが当たってはいる。パフォーマンスって……時東さんは恐らく、言い様を良いように変え説得したな。横文字を使えば聞こえが良くなると思ったら大間違えだぞ。
「本当にここでいいんですか、この黒歴史部で?」
「いいよ。別に習い事もしていないし、ずっと家でダラダラするよりは健康的だと思う、ついでになんだか楽しそう」
自然界だとあっという間に駆逐されているだろう危機感のなさ。大層のほほんとしていらっしゃる。「なんだか楽しそう」ってのは、『みんな笑顔でアットホームな職場がウリです』という宣伝文句に騙されて、ブラックな職場へ入ってきた人の殆どが、入社前に抱く幻想のよう。社員としては「入るな、ここは蟻地獄だぞ」なんて口が裂けても言えないんで、滅茶苦茶じれったい。今の僕もそんな社員の一人。故にこれ以上は何も忠告しようがない。自分で考えてもらいたい。
「さっき人生ゲーム作ってみたんだけど、皆で一緒にやろうよ!」
「スタートとゴールしかないじゃないの。どれだけ短命なの。これじゃあもって余命数日よ」
てな感じで、歓迎パーティー?は十九時まで続いた。新入部員候補が加わり、今後どう移り変わって行くのかと考えるだけで恐ろしいものだよ。
余談だが、この程納豆を十パック、自分の学生鞄に入れていた事を、完璧に忘れていた僕は、あろことか渡しそびれてしまった。次の日学生鞄が納豆臭に汚染され、使い物にならなくなったのは、また別の話なのは言うまでもない。
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