第2話スカウト⑲

現在時東さんの家の前まで来ているわけだが、僕はふと疑問に思った。鍵掛かっているから中に入れないんじゃね?と、時東さんが来るまで外で待っておくしかないのでは?と。


しかれどもそれは直ぐ地平線の彼方へぶっ飛んだ。相原さんが合鍵らしきものを、自分の制服の胸ポケットから取り出したからだ。いつも僕と時東さんが来る前にくつろいでるんで、少し考えれば分かった問題だった。けど、


「なんで合鍵持ってるの?」


「何でって言われても。私と四季はマブダチだから合鍵くらい持ってて当たり前じゃん」


「そうなの?」


「そうだよ」


へえ、友達が出来た試しがないんで、そんな常識知らなかったよ。勉強になるなあ。いつか実践してみよう。


なんて考えている内に、時東さん家の入口扉は開かれる。





「何が面白いのこれ」


「特筆して通販で紹介するに至らない駄品を、出演者達がどう誉めて、どう買わせようとするかが面白いんだよ。生放送なのもプラスだね、時折ハプニングが観られるから」


「へえ、TVショッピングにそういう見方もあったんだね」


「サクラの声は癪だけど、これがまた良い感じに胡散臭さを演出していて『出演者が言っていたのは本当か?』と、思わせ、購買意欲を塩梅良く掻き立ててくれるんだよね~」


てな調子で、僕らは時東さんが来るまで、リビングで、TV番組を視聴ながら待っていると、


ガチャリ


多分入口扉が開いた音が聞こえた。時東さんが帰ってきたのかしら、そう思っていたら、


「おじゃまします」


幻聴かと己の耳を疑うくらい、か細い声が玄関から聞こえてきた。来る部屋を間違えたのではと思える程に初耳な高い声色。時東さんではない。



あれ?リビングに顔を出したのは紛れもない時東四季だ。さっきの声は幻聴だったのか、それとも少しの間に時東さんが声変わりでもしたのだろうか。


「やっぱり来ていたのね、ちぐさ。あれほど来ないでと言ったのに」


さっきとは違う、いつもの声。やっぱ幻聴だったのかなあ。


「私だって本当は来ないつもりだったんだよ。でも宮國くんが脅すから仕方なく……」


相原さんは時東さんに僕を売った。可愛いけどアウト、冗談じゃない。


「嘘はよくないよ。相原さんが誘ったんでしょ」


直ぐ様修正をいれる。


「いや~バレた。ゴメンね。本当の所は、ほら、四季ってツンデレなきらいがあるじゃん?だから今回もその類いなのかな~って、来てほしいと思っているのかな~って感じて、来たんだよ。ついでに暇だからってのもあるけど、それよりその子は誰?四季の隠し子?」


そう言うと、時東さんの方を指差した。相原さんの指摘通り、そこには見ず知らずの女性がうつ向き気味で突っ立っている。自校の制服を着ているので、女子生徒、もしくはJKと言った方が良いか。時東さんより見付き頭一つ分身長は低い。黒髪ショートで、色白で大人しそう。美人ではないが可愛い。この人って、もしかして、


「この人が例の


「ええ、女の子先輩よ」


時東さんは、くるっと女の子先輩?の方へ身を向けると、


「二年四組の雪国 菊葉(ゆきぐに きくは)って名前です。これからもよろしくお願いします」


その、雪国先輩は、自己紹介を交えながらペコリと一礼した。


「こちらこそよろしくね!」


相原さんは僕の隣で馬鹿みたいに腕を大きく振って、馴れ馴れしくお出迎え。それに対して微笑。見ようによっては若干引いているかともとれた。可哀想に、何も知らされずに連れてこられた感が半端ない。


「まあ、二人が今日来てくれたのは結果オーライね。手間が省けたわ。これで部員候補は残り一人。頑張って行くわよ」


いや、ちょっと待って、聞き捨てならない。


「もしかして、雪国先輩は、もう部員候補になっちゃってるの?」


「そうだけど、さっきこれにも書いてもらったから正式よ」


時東さんは、自分の学生鞄から、一枚の紙を取り出す。見覚えのある念書は僕が書かされたのと同じ物だった。氏名欄には雪国先輩の名前がフリガナ付きで記されていた。字がお上手なんですね。ではない、念書の効力なぞたかが知れているが、口約束よりも遥かに重いんだぞ。


「どうやって書かせたの?」


「自分で書いたのよ、ねっ?」


「お菓子くれるって言ったから」


何じゃそりゃあ。安すぎやしませんか。飽食時代の現代、そんな文句では幼稚園児でも付いていかないぞ。よく今まで誘拐されなかったなあ。と、感心するレベル。まともだと思っていたのに、残念でならない。


「いえ~い。これから楽しくなりそうだね。頑張ろう菊葉!」


早速呼び捨てかよ。お構いなしに僕の隣ではパーティーピーポーが騒ぎたてている。全く、相原さんの受け入れるスピードには毎度、目を見張るものがあるよ。

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