第2話スカウト⑰

「時東さんは、その女の子先輩ってのをスカウトするの?だったらどうやって引き連れるの?既に部活に入っているかもしれないし」


二年生ともなると学校における生活にも慣れが生じ、自分の向上心諸々、水平に安定して行くのは、大抵の人の経験則に基づき証明されている。今更、変化を求めようとするだろうか。第一、時東さんに聞いたまんまの、大人しめぼっちな人だったら、尚更変化を嫌うもの。なるべく目立たないよう普通を意識した生活様式を好む筈。頼んだとして、断られるのが関の山だと思うけどなあ。それに、部活に入っていないにしても、何かしらの習い事なり、アルバイトをこなしていたりしている可能性だって大いにある。じゃなくっても、この学校で過ごした一年間を通じ積み上がって定着したポジションを、蔑ろに出来ないでしょう。説得には骨が折れると覚悟しておいたほうが良いぞ。


「そうなのよね。現時点ではまだ付箋すらも貼れていないのよね。けれど顔は覚えたから安心しなさい。君の比とならぬくらいに、プロフィールから帰宅ルートに至るまでとことん調べ尽くし、万全を尽くし、絶対に女の子先輩は、うちの黒歴史部の部員候補としてやるわ」


そうだよ、初めから時東さんの辞書にに説得の二文字は存在していなかったじゃないか。現に僕の時だって強制、従うのみの選択肢しか与えられなかった。この言い分から下校時を見計らって拉致る気が満々であると推察できる。こうして思い出作りを口実とした厄介事に振り回される被害者は増えてゆくのだなあ。顔も名も知らぬ先輩さん、お気の毒に、同情します。こんな感じだから多分『時東四季 被害者の会』なるサイトを開設し、ネットで募ればそれなりの人数は集まると思う。いつかそのメンバーでオフ会を開いてみたい。


「やったあ、また仲間が増えるんだね!」


時東さんの話を聞いていたのか定かでないが、今の今まで携帯電話を弄くりまくってた相原さんは、無垢っぽい笑みを浮かべながら、いつものような嘘っぽい事を土産に、のうのうと話へ入ってきた。よくもまあ、そんな台詞を吐けるものだ、皮肉としか受け取れないよ。


「ちなみに現在私がマークしているのは、一年生に二人、二年生に一人。だから順調に拉……勧誘出来れば部員不足で行き悩む心配はナッシング。六月までには創部出来ると思うわ」


拉致と言いかけたのは聞かなかったことにして、一週間程度でこの事の運び。現状通り進めば、わりとあっさり黒歴史部が出来そうな予感がしてくる。やり方は強引そのものだが、ティーンエージャーには口より行動で示す方が効果的に伝わる。望外効率的?


「すご~い。そんなにマークしているんだ。さすが四季だよ!もしあと、三人もここに加わったら賑やかになるね。パーティーゲームとか乱交とかも盛り上がりそうだね!想像してるだけで何だかウキウキしてきたよ。頑張ってね四季!応援しているよ」


「ありがとう。お陰でやる気が溢れ出るばかりに満ちてきたわ。よし、私の代で黒歴史部を強化指定部活にまで育てあげるわよ。えいえいおう」


要らぬ励ましをし、時東さんにやる気をプレゼントした相原さんの罪は重い。


「四季!その他!ファイト~」


僕はその他ですか……声やら仕草が可愛らしい分、辛辣な言葉がより真っ直ぐ心に突き刺さるよ。


「フフフフッ」


なんて中二病っぽく声を出して時東さんは、口に片手を添え笑う。そして、


「目指せ創部!」


自分に酔っているのか、立ち上がって、そんな痛いことを僕らに宣言してくれた。


時東さんのそういった馬鹿みたいな意気込みと行動力は評価できる。が、


「じゃあ、君!明日は五組から七組までね。明日も宜しくお願いするわ。所で自己紹介において、改善点が幾つかあるのだけど、提案して良いかしら……」


他の人を巻き込むのは本当にやめてもらいたい。





入学してからあっという間に三週間が過ぎた。ハッピーウキウキスクールライフ計画も、愛読雑誌のお陰で着々と進展をみせており、今ではクラス内で中くらいの立ち位置に属せていると自負できる。対照的に時東さんと言えば、言うまでもなく、誰がどうみたって孤立している。今だってほら、机にうつ伏せで寝ているでしょう。当人は寝たふりらしいが、呼吸のリズムが不安定だし、絶対寝ちゃっていると思う。次は、移動教室なんだけど、時東さんを起こしてくれる人はいない。事故紹介をしに、昼休み各クラスを廻った件が噂となり、世間一般に知られたのがそうなるに至った決定的な要因。ついで、授業中、突然起き上がり「世界を救わねば!」と言って、時々教室を飛び出す奇行もあり、頭がおかしい人とクラスメイト全員から断定されてしまった。いじめはないが、誰も関わろうとしないので完全な村八分状態だ。僕も事故紹介はしていたが、周りの目は意外に冷静で、ちゃんと、僕が時東さんに振り回されていることに気付いてくれた。変なやつに絡まれている可哀想なやつ認定を受け、無事に同情の対象と化した。だから自分は常識人。クラスでの対応の違いは、言葉通り時東さんとは対照的なのだ。だからとて別に僕は時東さんを可哀想とは思わない。むしろ当人は狙い通りで内心大笑いしていることだろうから。確認していないので飽くまで想像だけどね。

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