第2話スカウト⑭
帰り道、僕と時東さんは一緒に帰る。といっても、僕は家に帰る前に時東さんの家に少し立ち寄るのが最近の日課?だ。
ここだけ切り取ると、とっても仲良しカップルな感じだか、ちと違う。現に僕の右手首を見てほしい。ほら、キツく縄で縛られているだろう。次に僕の少し前を歩いている時東の手元を見てほしい。ほら、縄を持っているだろう。辿っていくと、僕の右手首を縛っているのと繋がっているだろう。どこの世界に縄で繋がっている仲良しがいるか?カップルがいるか?赤い糸ならまだ可愛いげがあるが、こうもゴツいとペットの散歩、いや、江戸時代の罪人を連想させる。八ミリはあるんじゃないか。結び方もエグいし、どうあがいても逃げられない。
「ねえ、時東さん?」
僕の問い掛けに対し、時東さんは歩調を遅め、僕の横に並び、同じ速度で歩き始めた。そして、
「なに?」返事をした。
「なんで、時東は僕を毎回毎回、縄で縛るの?」
「なんでって、縛りたいからに決まっているじゃない」
なんじゃそりゃ。そう言われるとこちらも、
「へえ、そうだったんだ」
としか返せないよ。考える前に行動しちゃうタイプは、明確な動機がないから怖い。全部さっきみたいな、『なんとなく』な理由ばかりしか言ってくれないんで、論がないんで、反論する術がない。黙るしかない。
「君、なにさっきから黙り込んでいるの?顔も暗いわよ。ほら、笑う門には福来るというでしょう。スマイルスマイル!」
面倒なんで黙っていたら、時東さんが僕に話しかけてきた。「スマイルスマイル!」とか、真顔で言ってる時点でお前が言うなよって感じがするが、突っ込むだけ野暮。取り合えず口角を上げておく。
「あーあ、それにしても今日も充実した一日だったわね。幸せルンルン。私って世界一幸せな女の子かも」
腕を伸ばしながら、時東さんは、現実ではあり得ないような一人言を、僕に聞こえるくらいのボリュームで呟いた。
そんな頭にフラワーガーデンが出来たような台詞を真顔で言われましても、対応に困りますぜ。
「どうしたの?やけに明るい台詞ばっか吐くけど、なにか嬉しいことでもあったの?」
「いいえ、私はただ、退屈しのぎに痛い発言をしてみただけで、別段さっきのは、嬉しいから言ったとかではないわよ」
良かった。てっきり頭がおかしくなったのかと心配しちゃったよ。時東さんからしてみれば「幸せ~」って発言は痛いモノなのか?なるほど、勉強になった。奥が深いね。
「ねえ、君、君は本当の愛って何なのか知っている?」
うざったい。この遊び、まだ続いていたのか。なんにせよ、こんな取って付けたような常套句は聞くだけでウンザリ。早く目的地に着かないかしら。
ウンザリしてたらやっとこ着いた。
「やっほ~、お帰りなさ~い」
僕らが時東さんハウスに入ると相原さんが、リビングの方から声だけでお出迎え。靴を脱いでお邪魔する。リビングに置いてあるソファーの上に、やっぱりいた、やっぱりだらけていた。なに、そのくつろぎっぷりは?自分の家ですか。その姿を見ていると毎度そう思う。ここに住み着いているのかとさえ思えてくるよ。時東さんの家に行った時には、誰よりも先にいるし、僕より早く帰ったのを見たこともないし。そうなると、やはり別姓双子説を払拭できないな。なんて思ってたら、
「どうでした?うまくいきましたかいダンナ?」
相原さんが、こちらを見ながら訊ねてくる。部外者なこともあって口調が明るいなあ。
「いくわけないじゃん。むしろ、どうやればうまくいくんだって感じだよ」
正直に答えた。ありゃ負け戦だったよ。
「あら、なにをいっているの?大成功だったじゃない。ちゃんと四クラス廻れたでしょ」
時東さんは透かさず否定。たしかに目的を達成出来たのは成功といえるが、人生における選択という点では失敗だろうよ。今日の昼休みの出来事だけで三年は寿命が削られたと思う。削りも荒かったんで痛すぎて、後半とか本当に泣いてしまいそうだったよ。
「本当良かった、参加しなくて……じゃなくて、成功して。あんなに決めポーズ、頑張って練習していたもんね」
「誉めないで、照れ臭いわ」
「別に誉めてないよ~。馬鹿にしているだけ……じゃなくて、本当の事を言っているだけだよ。有り体に凄いと言っているだけだよ~」
「ありがとう。やっぱり、ちぐさにそんなこと言われると嬉しくなってしまうわね」
「嬉しくならなくても平気だよ。だって外交辞令だもん」
「フフフ、それもそうね」
相原さんって、見た目ほんわかしてるけど、ちょくちょく冷めたこと言うよな。まあ、時東さんは特筆気にしていないっぽいし、現に二人だけで盛り上がってるんで、蚊帳の外にいる僕が、いちいち口出しすべき事ではないんだけどさ。
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