第2話スカウト⑩

時刻は午前七時十五分。おおよそ現在、私立三佐上高校一年二組の教室には、宮國空人と時東四季しかいない。


普段は授業開始ギリギリにしか来ない時東さんが、こんな朝早く登校して来たのは、決して偶然じゃない。


「おはよう、いいえ、私からすればこんばんわね。ということで、おんばんわ」


涙袋にかけての辺りが黒く濁っていることから察するに、昨日から一睡もしていないっぽい。何よりも眠そうで、声も吃りぎみだ。


「朝起きるのが苦手だったら、無理してこの時間帯にしなければいいのに」


ついで、学校での寡黙クールビューティー中二病キャラも辞めたらいいのに。対話する時間帯もこんな風に誰もいない時間帯に限られてくるし、面倒臭い。ゴチャゴチャしてて周りも、どう接していいか困惑してる。見ていたら相当痛くて、本人の思惑通りいっていると僕は思うが、問題は周りに伝わっているかだ。痛い行動には種類が多い故、素人には判別し難いモノも多い。そもそも時東さんは、見付きがクール系統に属してるんだから、寡黙気取ってても所詮「無口な人なんだなあ」程度にしか思われない。呪文詠唱にしてもそう。聞き耳を立てれば、たしかに謎言語を呟き続けている様だったが、一問一答をやっている様でもあったぞ。先度、手書きの魔法陣が記されたノートを広げ詠唱してるとか自慢していたが、人のノートの中なんて見る人いない。気付かれない。休み時間になると、周りからはちょくちょく「時東さん、いつも具合悪そうだけど大丈夫かなあ」と、心配する声が聞こえてくる。それを聞くと、みんな対応が優しいなあ、なんて同い年ながら感心しちゃう。どうも本人の意思に反し、真面目な病弱不思議ちゃんキャラと化してる気がする。早くも目標から脱線してる気がする。


「無理なんてしてないわ。朝は得意な方よ。君、もしかして私が常日頃、登校するのが遅いのは、寝起きが悪いからとか思っちゃっているのかしら?間違い、毎日キッチリ朝の六時にはお目目パッチリンコよ。ギリギリに登校するのは、単に朝のニュース番組で八時キッカリにやる血液型占いコーナーを観ているからであって、寝坊なんて一度たりともしたことないわ。それにしても考えものよね、血液型占いって需要ないのかしら、一日一回しかやらないのよ。星座占いは一日に何度もやるくせに、不公平じゃない?全くもって血液型ナメんなよって感じよね」


「たしかにそうだね」


必至に話す時東さんに、僕はただ同調するしかなかった。てか、星座占いも血液型占いも、未だにTVでやっていたんだなあ。てっきり昨今蔓延るクレーマー共に食い散らかされ、絶滅したモノだと思っていたよ。


「ちなみに今日は、血液型占いをタイムリーに観れないから、仕方無く星座占いを観て来たのだけれど、私は何位だったと思う?」


知るか!とは言えない。


面倒くせー。こんな面倒臭い人でしたっけ?年齢を訊かれ「いくつに見える?」と、答えるババアのそれじゃないか。こういうときは、見た目よりもそこそこ高めに言うのが正解だっけ?この場合、自分から訊ねてくるぐらいだから、そこそこ良い順位だったんだろうか。


「十位?」


無難に気持ち低めな回答をしてみる。


「やれやれ、そう見える?君の目は節穴ね、障子だったらとっくに張り替えられているわよ。私は一位。一位に決まっているじゃない。何事も成就するっていっていたわ。ウハウハね」


うん、予想通り過ぎてビックリしたよ。


「ところで、君の星座は何?教えなさいよ」僕に聞くと、時東さんは自分の学生鞄から携帯を取り出し、何やら電源をつけ始めた。余計な事をしてくれそうな予感がするよ。


「天秤座だけど」


本当は魚座なんだが、間違った情報で出てくる当たるはずもない占い結果が聞きたかったんで嘘をついてみた。当たったら凄いよな、どっちにしろ間違っているが……


「フフフ、雑魚ね。十一位ですって。私の十一倍も運が悪いってことじゃない。なになに、『気持ちが落ち着かなくなりがち。行動をする時は一旦考えてみては?』ですって。君は阿呆だから大丈夫だろうけれど、気を付けなさいよ」


現に時東さんに話しかけられ気持ちが落ち着かない様な……強ち当たってるんじゃないの。まあ、僕は天秤座じゃないし、当たっててもおかしな話だが。こいつは例の誰にでも当てはまる事を、さも特定の人にのみ当てはまる事の如く述べるアレなのかなあ、バーナムなんとかってやつ?


「あ、あと君。君の今日のラッキーカラーは緑色らしいわよ。ってことで属性は草に決まりね。キャッチコピーは『腐っても草!必殺技は無いが、持ち前の雑草魂で、靴舐めでも何でもこなす器用貧乏!』にしなさい。決まりね」


すんごくダサい。勝手に決まってしまったよ。てか、そういうので決めていたのか、テキトーだなあ。青とか黄とかなら未だしも、肌色の場合どうなるんだろう。該当する属性、何も思い浮かばないぞ。

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